プロローグ
「避けろっ!!ローク!!!」
その声が聞こえた瞬間、僕の耳にはドスッ、という鈍い音が届いていた。
そして、広がる痛みに僕はようやく刺されたのだと気付く。
刺されるのも、死ぬのも、当然だ。だって、ここはきっと、戦場なのだから。
「ローク!!!しっかりしろ!大丈夫だ、すぐに診てもらえる!!医者が、医者がくるんだ!!もうすぐ、医者が!だから、死なないでくれ、ローク!!」
敵を全て殺し、僕を抱き抱えながらそう叫ぶのは僕の友人であるエーテだ。
ごめん、と言いたかったけど、この体がそれを許さなかった。
僕は、何故こうなったのだろうとふと思った。
普通の人生のはずだった。
普通にイギリスで生まれて、普通に愛情を貰って、普通に生きているはずだったのに。
なにが、問題だったのだろう?
イタリアに留学してきたこと?
それとも、あの日、あいつを助けたこと?
…分からないんだ。なにもかもがもう手遅れで、救いようなんて何処にもない。
憐れで、悲しくて、辛くて、無垢な僕たちの話。
僕達はただ、生きていたいだけだったのに。彼はただ、普通の幸せを手に入れたかっただけだったのに。
僕たちはきっと、間違えすぎた。
幸せを手にするために、あまりにも多くの人を殺しすぎてきた。
死は、救いにも、幸福にも変わらない。
そんなこと、僕らが一番分かっていたのにね。
それでもなお止めなかったのはきっと、永遠の罪であり、罰なんなだろう。
でも、ごめんね、フロイヤード。
僕はもう、無理みたい。
死ぬつもりなんて、毛頭なかった。
ずっと、ずっと、君のそばにいて、君と人生を分かち合うつもりだったんだ。
でも、もう、きっと、叶わない願いなのだろう。
だって、ほら。
もう、お前の声すら聞こえない。
お前の姿すら何処にもない。
ごめんね、ごめん。
ほんとうに、ごめんね。
…罪を、君一人に被せてしまって、本当にごめんね。
死なないでとは言わない。
本当に辛いのなら、死んだって構いはしないよ。
でも、死は逃げ道じゃない、死は終わりだと言うことを決して忘れないで。
ねぇ、聞いてくれるかい。
僕らの物語を。
どうしようもない僕たちの話を。
じゃあ、始めようか。
物語の舞台は…イタリア。
今より少し、そう、ほんの少しだけ前。
僕たちは足掻いて足掻いて足掻いて足掻いて、必死に生きようとしていた。
…僕たちは。
なんだったんだろう。