#4 鞠花の決意
ナースステーションで引き継ぎを終えて、看護師はそれぞれの担当患者様のもとへ検温や問診を行いにいく。
引き継ぎで高村さんの状態は夜勤看護師から聞いたけど看護記録で確認してから病室に向かう事にした。
病室に入る時、綺麗な女性とすれ違った。
思わず振り向いて相手を見つめてしまう。しかし女性はそのまま病室を出て行ってしまった。
「高村さん、今の人って?」
「うん。僕が最初に鞠花ちゃんを見て似ている人が居るって言った人」
「きれいな人ですね…」
「おっ! 自分で認めたか」
「あっ、いや、違うんです。雰囲気というかなんか洗練されたイメージというか、私なんかとは全然違うくて…」
何故かおどおどしてしまう。ダメダメちゃんとしなくちゃ! この気持ちは隠しておかなきゃダメと自分に言いきかせる。
「どこも違わないよ。鞠花ちゃんもキレイだよ」
「冗談はやめてください」
頬が赤くなっている事を自覚していたが、検温をすることによって誤魔化して問診を済ませて病室を出た。何故か涙が溢れそうになる。ダメダメ、『病棟では泣かない』『出来ないって言わない』『笑顔を忘れない』これは私が看護学生の実習が始まるときに自分で決めた約束事。これを破るわけにはいかないと思いグッと我慢をして業務に励んだ。
翔太が入院して半年。つまり、余命あと半年。翔太を看ていて次第に焦りが出て来ているのを感じた。何か変なことを考えなければ良いなぁと思っていた時だった。高村さんの主治医、藤ヶ谷ドクターがナースステーションに駆け込んできた。高村さんの腫瘍が小さくなっていることが検査の結果で明らかになったのだった。早く知らせてあげたくて高村さんの病室に急いだ。
「高村さん! 聞いてください」
「どうしたの? そんなに慌てて。彼氏でもできたの?」
「そんなんじゃありませんよ。腫瘍が小さくなっているんですよ。このまま治療を続けていたら完治するかも知れないって!」
「本当に?」
こんなに嬉しいことなのに翔太は苦笑するだけ。明るい話題をしようと思い話題を変えてみる。
「デートですよ! 治ったらデートです」
「そうだね。さて、最初はどこに行こうかな…」
そんな話で暫く盛り上がり、病室を後にした。その時、高村さんが重大なことを決意していることを気がつけなかった。
そから数日後、翔太は治療をやめて退院したいと藤ヶ谷ドクターに伝えていた。
この時の様子や二人でどんな会話が交わされたのかは詳しくは聞いていないが、高村さんが治療を諦め死ぬことを覚悟しているように感じたと藤ヶ谷ドクターから聞かされた。
私はあることを決意して看護師長に相談して許可をもらった。