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#3 真実

 高村さんの本格的な治療が始まった。

腫瘍があることは伝えていたが、それが良性なのか悪性なのかは伝えられていなかった。救急車で一緒に同乗してきた女性から告知は暫くはしないでほしいと言われていたためだった、今、行っている放射線治療など本格的な治療。本人が不安に思うこともあると思うが、医療関係者が勝手に判断して言っていい問題でも無かったため今に至っていた。


高村さんの不安や疑問が限界になって来ていると感じてきて看護師長と主治医とで告知についてカンファレンスをしようとしていた矢先だった。


いつものように病室を訪ねると高村さんに病気について尋ねられた。


「鞠花ちゃん、僕の腫瘍は悪性なんだよね?」


 思わず顔をこわばらせてしまった。いけない!と気をとりなおし、笑顔で高村さんに向き直った。


「何を言ってるんですか! そんなわけないじゃないですか」


落ち着いて対処するよう心がけた。しかし、いきなりスマホの画面を突きつけられた。


「一応、調べてみたんだけど、放射線治療って良性の時はあまりやらないんだよね?」


高村さんに寄り添っていこうと覚悟を決めた瞬間だった。


「仕方ない。カミングアウトします。実は高村さんがおっしゃる通り悪性だったんです」


 落胆した様子の高村さんだった。私はにっこり笑って話を続けた。


「だから、放射線で悪いヤツをやっつけちゃうんですよ」


 一瞬、あっけにとられた表情をした高村さんだった。


「そうなの?」


「そうですよ。悪いヤツをやっつけちゃえば、平和が戻って来るんですから。だから頑張りましょうね」


そんな言葉であきらめてくれる高村さんでは無かった。


「あ、はい…。ところで僕はあとどれくらい生きられるの?」


やっぱり……


「参ったなあ…。やっぱりごまかせませんね。1年…。主治医の先生からはそう聞いています。でも、余命よりずっと長生きする人も居ますから」


中途半端な情報で思い悩んでほしくなくて全てを話した。誠心誠意看護をしていて一緒に病気と戦っているつもりでいたから、高村さんにも同じ気持ちで病気と向き合ってほしかった。


「ということはいつかは死んじゃうんですね…」


「あっ…」


 私が困った顔をしたのを見て高村さんはケラケラと笑った。


「って、うそうそ。なんだ! そうか。良かった。まだ1年も鞠花ちゃんの顔が見られるんだね」


伝えてはいけなかったのだろうか?自分のしたことを後悔していた。看護師長に相談すれば良かったと思い始めうつ向いてしまう。そんな私に高村さんは笑顔で治療を頑張ってみると呟いた。


 それからも治療は続いた。ところが、良くなるどころか異変が出てきた。それでも、高村さんは辛い治療に耐え続けた。


「今回の敵はなかなかしぶといみたいだね」


「そうですね。これが男女関係ならしつこい男は嫌われますよね」


「男女関係? そりゃあいい。ねえ、ところで、鞠花ちゃんには恋人は居るの?」


「えっ? 急に何を言うんですか! 昔から看護師は恋愛なんてしている暇はないんですから」


「へー、そうなんだ…」


 いきなりの質問に驚いたが平常心を心がける私に高村さんは言葉を続けた。


「ねえ、平和になったら二人で散歩でもしようか」


「散歩だけじゃ物足りないです。ご飯食べて、カラオケ行って…。そうだ! 遊園地にも行きたいなあ」


思いっきり甘えてみた。


「おいおい、いきなりそれは…」


「すみません。調子に乗っちゃいました。でも、こんな私でよければ宜しくお願いします」


「まるで、プロポーズみたいだね」


「また来ます。今日はもうゆっくりしていてくださいね」


 照れくさくてそれだけを言い残して病室を出た。あと7か月……私はいったいどうしたら良いのだろう。高村さんを愛しく思う気持ち看護師として病気と向き合う高村さんを支えていくと決めた気持ちとが入り乱れ自分でもどうしていいのか判らずにいた。





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