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聖アイネスの紋章  作者: マリー・ラム
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第27話 防衛戦

仕事、旅行、体調不良と続き遅くなりました。

皆さま風邪には十分お気を付け下さい。

 「この状況をどう見るね、ライヴィスよ」


 「北と東を押さえられてんだ。ベントリーの指揮官は無能だろ」


 返す言葉もねえわな、と老兵は笑う。

 既にベントリーの北と東側には多数のリデア兵が展開している。いつの間にあれだけの大部隊を配置していたのか、一兵卒の俺には分からない。


 「まあ、この状況で末端の兵士に動揺が見られないことは素直に感心している」


 「はっはっはっ! ワシらが鍛え上げたからな!」


 「うるせえ耳元で叫ぶな!」


 「さて……ほいじゃあリデアにひと泡吹かせてやるかの!」


 慣れた様子で指示を下す老兵と、その隣で佇む一人の剣士。

 リデアの兵が東門を攻める音が響く中、その二人の姿は、しがないベントリーの一兵卒である俺に大きな勇気を与えてくれた。

 東の城門が揺れる。俺は剣をゆっくりと握りなおした。




 ハルク・ダブラーは動かない。目の前の城門に敵が殺到し、門を打ち破ろうとしているにもかかわらず、その顔から余裕が消えることは無い。


 「弓兵の矢だけは絶やすな! しっかりぶち込んでやれい!」


 東門は東西南北の城壁の中で最も高く、最上段は反り返っており、東の城壁から下に浴びせる矢の雨は敵兵を容赦なく貫く。

 敵の矢は、その城壁の高さを前に不甲斐なく跳ね返されてゆく。


 「弓は届かねえてえなると次はそうだな……」


 城壁に、これまでとは比べ物にならないほど大きな揺れが生じる。

 空を眺めると、狙いが逸れたであろう石が街の中に飛んでいった。

 投石機から放たれる石が次々と城壁に飛びかかる。


 「まあ、無駄な努力御苦労さんってこった」


 ベントリーは城塞都市、投石機による攻撃などはなから想定済みである。

 城壁の中に鉄板を入れ、並大抵の投石では崩れ落ちることなどまずあり得ない。

 たまに高く飛んだ石が城壁を越えてくるが、それによる人的被害は今のところ無く、戦意は高いままだ。

 ダブラーはにやりと笑う。


 「投石如きでワシらを倒せるものならやってみるがよいぞ!」


 城壁の揺れは収まらない。

 だがしかし……。


― ― ― ― ―


 北の城門から、隊列を組んだ騎兵たちが次々とリデアの陣営に躍りかかる。


 「一撃離脱を心掛けろ! 深追いするんじゃない!」


 ゼト・ノエル率いる重装騎兵隊の面々は思い思いに戦場を駆け巡る。一糸乱れぬ騎兵の隊列は、敵味方問わず見る者を魅了する。

 東の城壁もリデア兵が去来しているが、あの老兵が守るのだ。心配しなくても何の問題もないだろう。

 北側に配置された敵兵の数はさほど多くない。北側へ陣を敷くためには大きな沼地を迂回してこなければならないので、投石機のような大型の攻城兵器は配置されておらず、騎兵と歩兵のシンプルな部隊であった。

 東の城門は力押しで陥落するほどやわではない。

 だがしかし、リデアは東に主戦力を固めなければならない事情がある。

 ベントリーの南側は多くの遊牧民族で構成された国であり、リデアも大軍をもって陣を敷くことはできない。南方に軍隊を進めようものなら、遊牧民族の連中はリデアの大軍であろうが平気で攻め掛かる。ベントリーと南方の連中に挟撃される可能性が極めて高いのだ。

 では大きく迂回して西の城門に対して布陣すれば良いのかと言うと、それもリデアにとっては難しい話である。西側は道が狭く、大軍での侵攻には不向きなのだ。どうしても有効な攻め手は北と東に限定されてしまうのだ。

 東に主戦力を集めているのならダブラーに任せておけばいい。あの老兵が守るからこそ、この国はリデアの侵攻を食い止めることができるのだ。老兵への信頼に理由は要らない。

 私は私の仕事をするのみ、北を死守するだけだ。ベントリーの国民の居住区が北側に集中しているからこそ、私は負けるわけにはいかないのだ。


― ― ― ― ―


 僕とセライラは、ランスリッドさんの指示のもと、街の中心部で住民の避難誘導が完了しているかの確認を行っていた。


 「あらかた避難できているみたいね」


 街を見渡すと、同様に避難誘導していたベントリーの兵士ばかりが視界に入る。一部、他国からの商人などが避難所へと向かっている姿が見えるが、完了したと言ってもいいだろう。


 「私たちも救援に行った方がいいんでしょうか」


 セライラは東の方向を見つめる。投石機から放たれた石が城壁に当たる音が響いている。

 シルフィさんはゼトさんを追い、既に北へと救援に向かった。

 セライラの心の中では防衛戦闘に参加しなければという思いが強いのだろう。


 「私たちはここで待機ね。北も東も、そう簡単に突破されはしないもの」


 北と東から一斉に怒号が響き渡る。だが決してその距離は縮まる気配が無い。


 「大軍を誇示してこの城壁が破られるなら私もそうしていたわ」

 

 有効な攻め手のないリデア軍を嘲笑するかのようにランスリッドさんが呟いた。

 ふと目をやった街路樹には、そこだけ平和なのか鳥のつがいが枝葉の上で寄り添っている。

 その様子がどうにも可愛らしく、思わず笑みが漏れた。

 

 東の方向から、これまでに聞いたこともない轟音が響くまでは。


― ― ― ― ―


 ハルク・ダブラーはその轟音と衝撃に思わず身を縮めていた。

 戦場で身を縮めたのは初々しい新兵時代以来だ。


 (一体全体どうした! いきなり城門が吹き飛ばされたもんだから、たまげちまった!)


 ライヴィスも何があったのか分かっていない顔をしている。

 こいつが唖然としてるのを見るのは生涯最初で最後だろうよ。長生きしてみるもんだ。

 しかし……どうしたもんか。

 吹き飛ばされた城門からは粉塵が舞い上がり、その向こう側を窺い知ることはできない。

 ただ、はっきりと見えるのは、粉塵の中を進むリデア兵の影であった。

 城門が吹き飛ばされたことで、視覚に思考が追いつかず、命令を下すのが遅れてしまった。

 そこを見逃してくれるほど敵も甘くは無いわけだ。

 思わず歯を食いしばる。

 その瞬間、リデア兵が城塞都市ベントリーの地を踏んだ。

週1ペースを維持したい気持ちはあります。

本当です。

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