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ユウシャバスター  作者: ゆったり彩's
第1章「この異世界に転移したのが間違いだったのだろうか」
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始動:「ヨウジョストーカー?」

オレとエゼットの二人は住宅街の影に潜んで張り込みをしていた。

もうまもなくクエストの対象となっている人物が姿を現すはずだ…!


「レイジくん、来ましたよ。アレが今回のターゲットです!」

息を殺しながらエゼットはオレに耳打ちする。

言われなくてもわかってるぜ…!獲物はぜってぇ逃がさねぇよ!!



街角から飛び出してきた目標…ッ!その正体は!!







「いそがなきゃ、いそがなきゃ!」


金髪ショートヘア、フリフリのお洋服がよく似合う5歳ほどの女児だった。









「幼女の追跡(ストーキング)ゥ…?」


カウンターで膝をついたオレは力なく受付嬢に聞き返す。

頼む。聞き間違いであってくれよ…。



「その通りです…。あなた方には幼い女の子を尾行してもらいます…!」

淡々と返す。


「ユウシャ狩り以外のクエストもあるんですね!わたし初めて知りました。」

のんきな顔を貫き通すエゼット。


「あなたがたは今日から『ユウシャバスター』ではなく、『ヨウジョストーカー』となるのです…!」


どうしようか、本当に帰りたい。

わざわざ相棒(バディ)を組ませてまでオレにやらせたかった仕事がこれか…?

呆れて言葉も出ねぇよ。誰か納得いく説明をしてくれ。


「まぁ冗談はさておき、話は最後まで聞いてくださいよ…。これはこれでユウシャの痕跡につながっている可能性があるんですよ…。」


幼女とユウシャに繋がりがあるだと…!?

多少はモチベーションが戻ったぜ、話を続けろ!








「金髪で、ぷにぷにほっぺの女の子。間違いなく、情報通りの娘ですね!あの子が尾行対象のレイチェルちゃんで間違いなさそうです!」

エゼットが資料を片手にオレに告げる。

そうとわかれば後はバレずについて行くだけ。楽勝だぜ…!


市内をトタトタ忙しそうに駆けていくレイチェルを後方の物陰に隠れながら追う。


途中、彼女はとある店に立ち寄った。

「すーいーまーせーん!すーいーまーせーん!!」


店先から店主に呼びかけているようだ。

「なんだよ、ここが目的地か?」

「お菓子屋さん…ですよね。ここ。」


レイチェルは街の子どもに人気のある菓子店に立ち寄り、買い物をするようだ。

「たくさんはいったキャンディのやつと、えーっと、チョコのケーキのやつを、いっぱいください!」


店主が商品の入った袋をレイチェルに渡す。彼女は子ども用の小さな財布から紙幣を支払い、お釣りをもらったが、手が滑ったのか硬貨を地面に落としてしまった。


「ああっ、ああっ!落としちゃいましたよ!全部拾えるかなっ!?」

エゼットがいつにも増してうるさい。隠れて見ている親かテメェは。


店主に助けてもらい、お釣りを拾い終えた幼女は

「どーも、ありがとうございましたっ!」

礼を言ってまた街を駆け出して行った。


買い物袋は彼女の身体には大きすぎたようで、時折引きずりそうになっている。


「なんでしょうね、子どものはじめてのおつかいを見守っているような気分です。ハラハラします!」

エゼットの目がまた輝いてやがる。

「どーでもいいけど、大声出してバレたらぶっ飛ばすからな。」








「このほど、街のあちこちで幼い女の子の失踪事件が多発しています…。」

受付嬢は抑揚のない声で説明を始める。


「誘拐事件の線も疑われましたが、不審な人物が目撃されたこともなく、失踪直前まで子どもたちに不可解な行動も見られませんでした…。」


「じゃあ単なる家出じゃねぇのか。」

「レイジくん、ひどいこと言わないで!」

エゼットが噛みついてくる。だってそれしか考えられないだろ。


「ええ、レイジさんの言った通りなんですよ…。

いなくなった女の子たちはみんな自分の意思で失踪しているんです…!まさに家出ですよ…!」


衝撃。


自分の住む街でまさかそんな異常なことが起こっていようとは。



普通のヤツならそう思うだろうな。

現にエゼットは開いた口が塞がらないといった顔で固まっている。


「ユウシャ…だな?」

聞き返すと


「さすがです、レイジさん…!」

受付嬢がニヤリと笑みを浮かべた。








「かどのおみせでおかしをかって、おやまのふもとのさかをのぼって…」

レイチェルは道順を忘れないようにするためか、繰り返し呟きながら走っていく。

幸いオレたちはまだ気づかれていないようだ。



呟きにあった「おやまのふもとのさか」だろうか、彼女は急な坂道の下で立ち止まった。

子どもには辛いであろうその坂をしばらく見つめた後、

「いそがなきゃ、がんばらなくちゃ」

と言って坂道を登り始めた。


すでに疲れているのだろう。両手で抱える買い物袋は持ち上がっておらず、地面にこすられるように引きずっている。


「♪だーれにもーなーいしょーで、ふーふーふふーふふふ」

自分を鼓舞するように鼻唄を歌いながら斜面を上がっていく。



その様子を下から見つめていたエゼットは

「レイジくん、マズくないですか。」


なにがだよ。バレる様子もないだろうが。

このときエゼットが感じていた「マズいこと」は数秒後に現実のものとなった。





引きずられていた買い物袋に穴が開き、そこからお菓子が坂を転がり始めた!





転がっていった大量のお菓子を見たレイチェルは

「…うわぁーん!!ママー!マーマー!!」

その場で大声をあげ、泣き出してしまった。


「もう見ていられません!助けに行ってきます!!」

エゼットが駆け寄ろうとするのをオレは必死で止める。

追跡クエストってことを忘れてんのかコイツは!気付かれたら失敗になっちまうだろ!



「もうなくな、おまえはよくがんばった。」

ふと、坂の下から誰かが上がってきた。


転がり落ちたお菓子を拾いながら。


その子はレイチェルの隣に並び立つと、彼女の頭にポンと手を乗せて言った。

「あともうすこしだよ。まだげんきはのこっているね?」


レイチェルよりもすこし背が高い、肩まで伸びた薄紫色の髪をなびかせた、その慈愛に満ちた声の主もまた



幼女だった。



二人は手をつなぎ、坂の頂上にあった茂みから林の中に消えていった。



…見とれてる場合じゃねぇ!

「追うぞ!」


「どうしよう、友情パワーですよ!その手があったかぁ~!!」

この女またボケてやがる!









「…ユウシャ達がもたらす不利益には2種類あるのをご存知ですよね…?」

受付嬢は問いかける。


応えるのはエゼット。オレは今更確認する必要もねぇ。

「一つは人智を超えた力(チートスキル)ですね。自然法則を捻じ曲げて、現実離れしたありえない現象を起こす力です!」


「…よくお勉強なさってますね…。もう一つについて説明できますか、レイジさん…?」

急にオレに振るんじゃねぇよ。


妄想の具現(リアライズ)、だろ。どういうわけかユウシャが現れたとき、この世界の何かがユウシャにとって都合のいい形に書き換わっちまう場合がある。この世界の人間には()()()のうちにだ。」


教科書レベルだぜ。










オレたちも林に入り、二人の幼女の行方を捜す。

だいぶ距離を離されてはいたが、遠くの方に見知った後姿を見つけることができた。


逃がすなッ!追い続けろッ!!



林の最深部で二人の幼女は開けた場所にたどり着いた。

追いついたオレが見たものは










「…今回の失踪事件、協会はユウシャ自身の犯行によるものではなく、妄想の具現(リアライズ)によって引き起こされたのではないかと推測しています…。」


「…あくまでも憶測ですが、これが正しかった場合…」










「待ってくださいレイジくん、おいてかないで…!」

ようやく追いついたエゼットだったが、目の前の異常な光景に唖然とする。


眼下広がるのは小さな村。


一見なんの変哲もない村に見えるが、明らかにわかる違和感…!




広場のベンチに腰掛ける幼女


せっせと荷物を運ぶ幼女、露店で商売をする幼女!


芝生に寝そべって昼寝をする幼女!!


大工仕事に励むのも幼女!!!




この村の住人はすべてが幼女だったッ!!






受付嬢はポソリと、静かに言葉を紡ぐ

「…妄想の具現(リアライズ)によって幼女が一か所に集められていた場合、その周辺には…」




「ユウシャがいやがるってわけだな…ッ!!!!」



書き替えられた世界に生まれた「幼女の村」。


無垢なる心が集まるこの地には、



討つべき敵(ユウシャ)が潜んでいる…ッ!!










時を同じくして、一人の男が協会の受注カウンターを訪れていた。


「…おや、これはこれは。あなたが直接カウンターを訪ねるなんて、明日は槍でも降るんですかねぇ…?」

気の抜けた受付嬢が彼の姿を見て言った。


「今日は夕方から私用がある。昼間のうちに片付けられるクエストを寄越してくれないか。」

どことなく高貴な雰囲気を漂わせるその男は淡々と告げる。


「また貴族同士の会合とかってヤツですか、あなたも若いのに大変ですねぇ…」

ゴソゴソとファイルを漁りながら心にもない気遣いをする受付嬢。


「僕と変わらない年頃で『殺しの天才』なんてもてはやされている少年がいるくらいだ。金持ちの接待なんてワケないさ。」

ため息混じりに呟く。


「ふひひっ…()()()()()()()()でしょうに…。」


「さっくり終わりそうなクエストですと、『幼女の追跡』ですね…。あっ、申し訳ありません。これは既に例の男の子が受注してまして…」

「いや、それでいい。」

彼女の言葉を男が遮る。



「彼がどういう人間なのか、興味があるんだ。」

一言告げると、彼は玄関から出ていった。




「…槍どころじゃありませんね…。世界、滅んじゃうかも♪」

受付嬢は妖しく笑い、手続きを始める…。



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