受注:「新たなクエスト」
翌日、早朝に協会を訪れると昨晩しつこく絡んできやがった女、エゼットの姿があった。
どうやらオレを探しているようでキョロキョロ辺りを見回している。
めんどくせぇことになりそうだから見つからねぇようにしないと。
なぁに、オレの戦闘スタイルは「暗殺」。気配を消して行動するのなんて朝飯前よ。
「あっ!いたぁ!レーイージくーんっ!!」
ものの数秒で見つかっただと!?バケモノかアイツは!
「どこ行ってたんですか?探したんですよぉ!」
オレを見つけるやいなやエゼットはすごい勢いで抱き着いてきた。そのままオレは床に押し倒される。
「近所の宿屋に殴り込んでもどの部屋にもいないし…、ホントに心配したんですからねぇー!」
ほら、やっぱり殴り込んでた!
「ウザい…!離れろ…!」
早朝といえど、協会には多くの人目がある。高収入のクエストを奪い合うように受注するためだ。
そんな往来のなかで朝っぱらから甘ったるいラブコメなんざ披露してたまるかってんだ!
あと…、なんか当たってんだよ!やわらかいのが!!
「おぅおぅ、おアツいねぇお二人さん。」
近寄ってくるのはイケメンマッチョ。
「ガリウスさん!おはようございますっ!」
エゼットが元気よく挨拶する。
…オレを床に組み伏せたまま。
ガリウスは苦笑しながらオレ達…いや、オレに告げる。
「昨日キミらに預けようとしたクエストがまだ残ってるんだ。ガリウスの紹介だって伝えれば受けられるから、あとでカウンターで聞いてみ。」
エゼットが目をキラキラさせながら答える。
「ついに初めてのクエストですね!ワクワクしてきました!」
…オレを床に組み伏せたまま。
去っていこうとするガリウスが一度だけ振り返って
「念のため言っとくけど、近親相姦は問題だとおもうぞ。その…世間体とかな。…無粋だったか?」
…血はつながってねぇんだよ!!
…あと、そういう関係でもねーし!!
相変わらずベタベタ引っ付いてくる女は無視してクエストカウンターへと向かう。
受付ではメガネをかけた地味な風貌の女性がせっせと書類仕事をしていた。
「よぉ、ユウシャ狩りの仕事をくれよ。」
オレが声をかけると彼女は表情一つ変えずチラリとこちらを見た後、
「…ライセンス…見せて下さい。」
と、ポソリ消え入りそうな声で促した。
黙って免許証を取り出し、提示する。
おかしい、普段はクエストの受注手続きに入ってから見せるのに。
まぁ、謎はすぐに解けたけどな。
「…本日、レイジさんはエルゼリアさんと相棒を組んでのクエストのみ受注可能となっております。…つきましてはお相手の方を連れてカウンターへお越しください。」
ほーらやっぱり。
「なんだよそれ!?オレは相棒は組まねぇんだよ。さっさとソロクエストのリストを出しやがれ。」
食ってかかってやったがこの受付嬢は
「…ダメです…。上が決めたことなんです…。」
身じろぎせず淡々と言葉を返す。なかなか肝が据わったヤツだな。
「ガリウスだろ。ガリウスにこうしろって言われたんだろ!」
間違いなくアイツの仕業だ、そうに決まってる。
「おぉ…、いえ、言えません。守秘義務ですので…。」
「おぉ」っつったべ今!
さすが、わかってるじゃないですか~みたいなニュアンスの「おぉ」だろ今のは!
「もう観念して一緒にクエスト受けましょうよぉ、レイジくん~」
すっかり忘れてたがエゼットはまだ後ろにくっついてクネクネしてやがる。うぜぇ。
どうしても相棒を組ませたいようだな。しっかり根回しが効いてやがる。
「なら、今日はやめだ。休みにする、クエストは受けねぇ。」
明日になればこいつらもいい加減諦めるだろうよ。
「そんなぁ~ひどいですレイジくん…。」
エゼットはようやく静かになった。ざまぁねえな。
「…私にはどーでもいいですけど…。このクエストをクリアするまでレイジさんには他の仕事をまわすなって言われてるんで…。」
受付嬢がまたポソリと呟い…
「…なんだって?」
なんか大事なことを聞き流した気がするが。
「へへ…おめでとうございます…。今日から無収入です…。プータローですよ…。いえ~い…。」
受付嬢、初めて口角を上げやがった…!
よく見たら小さくダブルピースまでキメてやがる。
「…誰の差し金だ?」
脅す。
「ガリウっ…守秘義務です。」
よし、いますぐボコボコに…
「おい!いい加減にしろ!あとがつかえてんだよ!」
「そうだ!クエスト受けねーなら帰れ!」
「ガキと違ってヒマじゃないのよ!」
後ろから急に文句を言われた。しかも一人や二人じゃない。
さっきも言ったが今は協会のラッシュアワー。受付嬢と揉めている間に長蛇の列ができていたらしい。
「ほらほら…どーするんですレイジさん…?」
「レイジくん、おねがいしますよ~!」
さらにエゼット、受付嬢からも煽られる。
列をなしているバスターたちを見れば、最終的には力づくで追い出されるかもしれない。
あぁもう、くそったれ!
「今回だけだからな!余計なことしたらすぐ街に帰すからな!」
しかたなくオレはエゼットの同行を認めた。
「レイジくん…!わたしは信じてましたよ!」
表情がパァっと明るくなるエゼット。そんなキラキラした目で見るなっつーの。
「へっ…最初からそー言えばいいんですよ…。では、他のカウンターも全て開けますんでお待ちの方々はそちらで手続きを…。」
受付嬢がそういうと、オレが立っていた場所以外のカウンター全てにいつの間にか掛けられていた「休止中」の札が外され、並んでいたバスター達はそれぞれ散っていった。
「相変わらずクソガキだな。」
「女の子泣かせちゃダメじゃないの。」
「童貞。」
「あれが天才だってんだから泣けてくるぜ。」
皆口々に悪態をつきながら。
最初から全部仕組んでやがったなコイツら…!!
「…よそ見はしないでくださいよ…。これからクエストの説明をします。」
真剣な顔に戻った受付嬢に促される。
エゼットがいようと関係ない。オレがユウシャを速攻でぶっ殺して終わらせればいいだけの話だ。
「…今回のクエストはズバリ…」
どんな敵でも必ず隙が出る。そうだ、エゼットを囮に使おう!バスターが一人だと敵に油断させて…
「『幼女の追跡』です…!」
疲弊したところをオレが…、
思わず膝から崩れ落ちてしまった。
…そろそろ胃に穴が開きそうなんだけど。