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ユウシャバスター  作者: ゆったり彩's
第1章「この異世界に転移したのが間違いだったのだろうか」
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回想:「昨日の出来事」

隣町のはずれにある森へとやってきた。ここは昼間でも不気味なほどに暗い。ヒカルダケが光らない分昼間の方が暗く感じるかもしれない。


「ヒカルダケか…」


そう、ヒカルダケ。名前の通り本当に暗いところで光るだけ。まずくって食えたもんじゃないし、毒もないから罠にも使えない。昼のこいつは光らねぇから役立たず。


もしもオレがクエストを受けられなくなったとしたら…

「こいつと同じか。」



「なァーにボソボソ言ってんのお前ェ?協会の係員もう来てるぞォ。」

見ると協会の制服を着た職員が10名ほど、現場の記録をとっていた。


クエストの最終的な結果と、達成の過程をふまえてバスターに報酬が支払われる。

そのための審査というのがこれから行う現場審査というわけだ。


「えーと、最終的にとどめを刺したのがレイジさん。…リザードマンのビゲロさんは何をしてました?」

記録表を持った職員が問う。他の職員は現場の状況調査をしてる。一晩たってるからあんまり意味ねぇんじゃねえかと思う。


「早々にぃ、ヒザつかされてぇ、やられかけてましたー!」

オレは元気よく教えてやった。少しでも心象良くしねぇと取り分が増えねぇから。


「おい、オイっ!お前なんてことをォ」

慌ててらぁ慌ててらぁ。だって事実だもんな。召喚の光にビックリしてる間にやられてたもんな。


「じゃあ自分がどんな成果あげたのか言ってみろよ?せいぜい茂みガサガサいわせてビビらしたのと、ちゃっちい剣一本吹っ飛ばしたぐれぇだろ?」

トカゲの顔がこわばる。ぐうの音も出ませんってか。だがこらえるような小さな声でこう続けた。


「戦いはダメダメだったァ。でもこれは回収してあるゥ…。」

そこでヤツが取り出したるは、昨日のユウシャが使ってた光る板切れ!クッソ、してやられた!どおりでどこ探しても見つかんねぇはずだ。


「この形と大きさは…協会のデータベースにあった『すまーとふぉん』だなきっと。ご苦労、貴重なサンプルだよ。」

『すまー…なんちゃら』を受け取った職員はトカゲに賛辞を述べる。ちくしょー、変なとこで出し抜きやがって。


「ということはユウシャの…」

と職員が切り出したとこでオレの出番かな。


「そう、昨日のユウシャの『人智を超えた力(チートスキル)』はそれを使った召喚術だ。よくわからんがユウシャ自身が思い入れのある戦士を呼び出してたっぽい。」


人智を超えた力(チートスキル)」とは、ユウシャたちがそれぞれ固有で持っている強大な魔法だ。この世界のどの魔術大系とも一致せず、基本的に理屈や原理なんてものをぶっとばして望んだ結果だけを引っ張りだすような力だ。


その効果はさまざまで、戦闘に特化したものもあれば手のひらから金を出す能力だったり、女にモテまくるとかそういうよくわからん効果になるやつもいる。これはこれでこの世界に悪影響を与えてるんだが、今はそこまで考える気分じゃねぇ。


「ユウシャはその戦士の名前を知っていたし、戦士はユウシャをマスターと呼んでいた。異世界から自分の部下の兵士を呼び出す技だと思う。」

完璧な解説だろ。


「ところでェ…」

トカゲが呟くように言う。うるせぇから黙ってろ。

「あのオンナ戦士はどうなったんですゥ?」




「残念だけどテメェは主役になんざなれねえよ。メインを張るのは…オレだ。」

時はユウシャにとどめを刺した直後にさかのぼる。


トカゲ男は女騎士にひどくやられたみてぇでぶっ倒れそうなのを気力だけで持ちこたえてる感じだ。ざまあねぇな。


「ざまあねぇけど…気合いはもってんじゃねぇか」

持ってた回復薬を一つ、ヤツの懐に転がしてやった。ありがたく思え。



女騎士は青ざめた顔でこっちを見てやがった。オレを睨んでんのか、ホトケになった主人を見てんのかは知らねぇ。オレが近づいても剣を構えもしねぇ。こいつは終わりだな。


「寝てろ」

当て身。拳の一発でヤツの意識を奪った。あとは男の方と同じように殺っちまって…


いや、待て。


このときオレの頭は妙に冴えていた。人を殺った後にしてはありえねぇぐらいに。


そもそもこいつはユウシャなのか?


仮に男のチート能力が「異世界の部下を召喚する」だったらこの女もユウシャってことで間違いないだろう。駆逐の対象だ、ぶっ殺す。


しかし、仮にだ。「自分の知る架空の存在を召喚できる」という能力ならば、この女はこの世界で産まれたことになるんじゃないか?


以前にも似た例があった。その時のユウシャは光る板ではなく、「半分くらいを埋める絵ともう半分をビッシリ埋める文字が書かれたカードの束」で召喚を行っていた。確か40枚前後だったと思う。裏面は全部同じ絵柄で文字は隅に小さく書いてあるだけだった。


召喚されたのは人じゃなく…違う、人っぽいのもいた。でも大半が見たこともない魔物で…

結局、生態系を乱す恐れがあって殺処分になったが。


この女はどうなんだ?ユウシャじゃないんなら人智を超えた力(チートスキル)妄想の具現(リアライズ)も発動しない…はずだ。この世界の人間として生きることもできるんじゃないか。


クソ。余計なことが思い浮かぶ前に殺っちまえばよかった。胸糞わりぃ。


事情を聴かないことにはどうしようもないが、ちょうど気絶させてしまった。

「協会に任せるしかねぇな。」

どちらにせよ、オレは尋問には向かねぇ性格だ。


協会に連絡するとすぐに護送班が到着した。ふだんこいつらはユウシャの遺体を本部に運ぶだけの仕事をしている。今回は事情を話し、まだ生きている女も協会へ護送するよう要請した。

「あとの判断は任せる。」

と、一言添えた。


護送車を見送り、後ろを振り返るとなぜかトカゲの野郎の位置が移動していた。回復薬のビンは空になっている。最後の力を振り絞って家に帰ろうとでもしたのだろうか。ユウシャの遺体があった辺りで力尽きて気絶している。


まったく意味が分からん奴だ。しかし薬を使ったんだ。放っておいても死にゃあしねぇだろ。





今思えばあれはユウシャの板切れ拾いに行ってたんだな。蹴っ飛ばしてかっぱらってやればよかったぜ。




「あの女性か…まだ意識が戻らないそうだ。回復次第、本部の専門家が尋問を行う予定になっている。」

そんなに激しくドツいた気はしねぇけどなぁ。主人を目の前で殺されたショックとか…そんなもんだろうか。


「その他に、何か報告することは?」

職員に問われるがオレには特に何も言うことがない。早く帰らせてくれ。

「じゃア、オイラから一つ…」

トカゲが応える。またコイツは余計なことばかり!


「昨日のユウシャも戦闘に慣れていない感じだったァ…まるで素人がいきなり戦場に放り込まれたみたいにィ…。」

以外にもまともな報告だった。トカゲの言う通り、この世界に侵入するユウシャのほとんどが戦闘には不慣れなのだ。


戦闘センスの無さを人智を超えた力(チートスキル)で無理やりカバーしているように見えることから、『ユウシャ達は戦闘の訓練を受けずに侵略を行っている』仮説と、『ユウシャ達は自分の意思でこの世界に来ているわけではない』という仮説の二つが有力視されている。


「さらに言えば、ヤツは繰り返し『異世界転生』って言ってたな。新しく産まれ直してるわけじゃないから『異世界転移』が正しいと思うが、その辺の定義の甘さもヤツらの共通点の一つだ。」

言葉足らずなトカゲのために付け足してやった。実を言うとクエスト前に偵察して得た情報なんだがな。


「ふむ、ではこちらも上に報告しよう。審査は以上だ。教会へ出向いて報酬を受け取りなさい。ご苦労だった。」

ちょいちょい上から目線なのが腹立つな。


ともあれ、クエストの事後業務は終わり。金もらってメシでも食いに行くか。




協会につくと見慣れたガタイのいいイケメン細マッチョがいた。色黒じゃない方。

「おう、レイジ。クエスト帰りか?」

やはりガリウスだった。相変わらず爽やか笑顔が超うぜぇ。

「ちげぇよ、審査終わりで報酬もらいに寄ったんだ。」


「こっちもちょうどお前に用があったんだ。あとで二階の応接室にきてくれよ。」

思わぬところでメシの予定が狂いやがった。かったりいな。




無事報酬は受け取った。取り分はオレのほうが多いとはいえ、トカゲと二人で山分けにしたからたいした金額じゃない。でも何日か分の生活費にはなるだろう。

「さて…」


なんだか約束があったような気がしたが非常にめんどくさい。正直そんな気分じゃないし、オレの舌は肉料理をご所望だ。ハンバーグっ!焼き鳥っ!


「おう!気前よさそうだな。あとでメシでも行くか、お前のオゴリで。」

協会の入口にガリウスが立ちふさがる。くっそ、読まれてたか。





ガリウスとともに応接室に入ると見覚えのない女がソファで待っていた。


「はじめまして!私、今日付で新人バスターに登録されました、エルゼリア・フリューゲルと申します!エゼットと呼んでください!」

女は立ち上がって元気よく名乗る。オレより背が高い。それで…その、いろいろ大きい。


すかさずガリウスが口を挟む。

「なんだお前、女性が挨拶してんのにおっぱいばっか見てんじゃないぞ!エロガキめ。」

うるせーほっとけバカ!


「そんで、オレにこの新人紹介してどーなるんだよ。他にも腐るほどいるだろ新人なんて。」

実際常に新人は一定数いる。内訳はどちらかというと人間を殺すのに躊躇の少ない魔物が多い。


「実はだな、お前に頼みたいことがあってな…」

ガリウスは区切るようにして言う。もったいつけんな気色わりぃ。




「しばらくの間、このエゼットと相棒(バディ)を組んでクエストに出て欲しいんだ。」










「…は?」

衝撃のあまり時間が止まったかと思った。


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