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ユウシャバスター  作者: ゆったり彩's
第1章「この異世界に転移したのが間違いだったのだろうか」
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日常:「少年と世界」

外来種がいらいしゅとは、もともとその地域にいなかったのに、人間の活動によって他の地域から入ってきた生物のこと。生態系や経済に重大な影響を与えることがあり、環境問題のひとつとして扱われる。


人間と魔物。長きにわたる戦いによって皮肉にも均衡を保ってきたこの世界には異変が起きていた。


それは、異世界から転移してくる侵略者たちの存在である。彼らはそれぞれ固有の「人智を超えた能力(チートスキル)」を持ち、過剰なまでの魔物の討伐や人間社会への干渉など、様々な傷跡を残していった。


事態を重くみた人間たちの国の王と魔物の頂点に君臨する魔王とがついに同盟を結び、侵略者に対抗するための組織が立ち上げられた。

これに伴い、侵略者たちは彼らが積極的に名乗ろうとする身分を表す言葉から『ユウシャ』と呼称を改められ、対抗組織は「ユウシャを討つ者」を転じて、『ユウシャバスター協会』と名付けられたのだった。




「―――これが、我が世界における新たなる秩序の誕生である。このユウシャバスター協会を中心に人間と魔物が互いに手を取り合うことで…ってレイジちゃんよぉ、聞いてんのかい人の話をよぉ。」

「いてぇ」


色黒の男性講師に頭を小突かれる。人がぐっすり寝てるとこに何てことしやがる。あと、ちゃんづけで呼ぶな気色わりぃ。


「今日はバスター免許(ライセンス)の更新日だってずーっと前から知ってたっしょ。なーんで前日にクエスト入れちゃうのよぉ。」

E級バスターとしての最後の日だぜ。そりゃあ当然


「記念に決まってんだろが。」


「もう一発!」

また小突かれた。このオッサン人の頭をなんだと思ってんだ。


「クラウス先生もう激おこよ。クエスト達成したら次の日は現場審査が入っちゃうっしょ。なーんで免許の更新日とかぶせちゃうのよ。」


この男性講師はクラウス・ザップマン。ちゅーとハンパなオカマ口調で喋る変態だ。こんなんでも仕事になるんだから講師なんてチョロイもんだよな。


「レイジちゃんよぉ。案の定眠くなって講習全然聞いてねぇじゃんよぉ。普通のバスターなら更新できないよ?」

「ぅるっせーな!オレは現場で実力見せてんだからそれでいいんだろ!?現に実技講習も免除だ。天才なんだよオレはよ。」


強気な態度にクラウスはため息をつく。彼が反論できないのは事実オレには飛びぬけた実力があるからだ。ほどなくして、講習終了のアラームがなった。


「もういいんだろ。さっさと審査行って、報酬もらってくるぜ。」

席を立って廊下へ向かう。


「ハイハイ、下のカウンターで新しい免許もらうの忘れないでねー。」

背後からクラウスの呆れた声が聞こえた。


クラウスがしつこく呼んでいた「レイジ」というのはオレの名だ。苗字はない。ただのレイジだ。

この名前は周りの奴らが勝手に呼んでいたあだ名が始まりだ。「イカれたヤツ」、「怒れるヤツ」縮めて「怒り」で、Rage(レイジ)だとさ。


他のヤツと比べてガラが悪いのはわかっちゃいるが、職業は一応公務員になる…はず。

「カウンターお待ちのレイジ様ー。新しい免許証のお渡しになりますー。」


Dランクの『ユウシャバスター』だ。


「つーか、オレの実力でDランクってありえねぇだろ。役所の人間も頭が固いよな。」

実際には能力だけでランクが更新されるわけじゃない。クエストの達成数に加えて、バスターとして活動した日数が一定期間を超えてはじめてランクアップの申請ができる。

オレの場合、前者は十分なほど足りている。問題は後者だ。


「無駄に歳食わねぇと高ランクのクエストが受けらんねぇとは…。Aランク受ける頃にはジジイになっちまうぜ。」


クソみてぇな制度だがオレはそれに抗わない。抗えねぇんじゃなく敢えて従ってやってんだ。くだらんことで協会に刃向かって免許を取り上げられてみろ、クエストを受けられなくなったらオレには本当になんにも無くなっちまう。


オレに家族はいない。気付いたころにはいなかった。


たった一人で街のはずれにあるスラム街で育った。

生きるためならテロ、略奪、殺し…なんでもやった。周りには敵しかいなかったから誕生日も忘れて、自分がいま何歳なのかもわからない。


免許証の年齢の欄は詳細不明を表す「×××(ペケ三つ)」がついている。



「あーっ!いたァ!このガキィ。」

ガラガラうるせぇ声がしたので振り向くと、昨日のクエストでユウシャにやられかけたあのリザードマンだった。


「クエストの翌日は現場審査ってルールになってるだろォ!なんで時間になってもこないんだァ?」

「うぜぇな、今から行くとこだよ。見りゃわかんだろ。」

思わぬ来客だったがオレは丁寧に答えてやった。


「今から!行っても!フツーに!遅刻だろうがァー!!」


トカゲ野郎は建物じゅうに響き渡るガラガラボイスで叫んだ。ルール破る前に鼓膜が破れるわ。

「くっそふざけんなよテメェ」


否応なく耳をふさいだオレをトカゲの野郎は笑う。

「ギィギャギャギャ…ビビったかちんちくりん。調子に乗るなよな、昨日の結果はマグレさァ。オイラとお前が直に殺りあえば5分もかからんよォ。」


「…それは、てめーが負けるって意味でいいんだよな?」


「身体だけじゃなくオツムも小さいみたいだなァ。お前は負かすだけじゃ済まさないぜェ?地べたに這いつくばらせて、泣くまでオイラの靴を舐めさせてやらァ。」



「上等だかかってこいやクソがぁッ!皮()いでサイフにしてやる!!」



「みっともないから落ち着きなさいよ、お二人さぁん。」

野郎の首を削ごうと駆け出したところを間に割って入られる。どこのどいつだ邪魔くせぇ。なんならまとめて…


「ギギャ!?クラウスの旦那!?」

立ちふさがったのは色黒の巨漢、さっきまでオレに座学を仕込んでいたクラウスだった。


「ねえトカゲちゃん、ここはクラウス先生に免じて多めにみてやってくれないかい?レイジちゃんには後でドぎついのお見舞いしとくから、ね?」

なにを言い出すかと思えば仲裁かよ。一度火が付いたら止められねぇのが男ってもんだぜ。それはトカゲ野郎もわかってることで…


「いや~あはははは、クラウスの旦那にそうまで言われちゃしょーがないっすよねェ!」


止まりやがった。しかもなんだ、フツーに笑ってやんの。「ギャギャギャ」はどこ行ったんだよ。


「ほら、こういうことだから。さっさと行ってきな。」

まんまと場を丸く治めて得意げな顔をしたクラウスは促す。


聞いたとこによるとクラウスは戦争の時代には現役の兵士で、魔物相手にブイブイ言わせてた、という都市伝説がある。たぶんウソだ、オカマだし。


「ちっ、しゃーねぇな。行くぞトカゲちゃん、遅れんなよ。」

リザードマンとともに昨日のクエスト現場に向かうことにした。


「だから!お前は!もう!遅れている!」

ちゃんづけで呼ばれたことには気づいてねぇ。やっぱバカだこいつ。



正面のドアから出たオレはなんとなく背後の建物に目をやる。この施設こそが「ユウシャバスター協会」。人間と魔物、両者の統一同盟の象徴とも言える場所、その本部だ。


協会の支部は世界各地に存在する。人間が主に暮らす領域と、魔物の領域、そのどちらにも偏りなく支部が設置された。

それらの支部の情報はすべて本部に集められて、協会全体で共有される。魔物の領域にあるから魔物向けの情報がメインということはないし、その逆も然り。


言ってなかったような気がするけど、あのリザードマンもオレと同じユウシャバスターだ。バスターになるのに人間か魔物かなんて一切関係ない。


種族に関係なく平等に利用できるって意味では、協会が中心となったこの世界は究極の社会体制と呼べなくもないのかもしれない。


「こんなにうまくまとまれる奴らがどーして戦争なんかやってたのかね。」


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