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恨みは転生する。ウェドル会戦

作者: lime

 没案をつなげて短編にして投降したっていう形です。

 見にくかったり、醜かったり、意味不明なところがあると思いますので注意してください。


 続編です! https://ncode.syosetu.com/n7954eq/

 私は転生者だ。これだけでも希少だが、私は二度の転生をした人間だ。二度の転生は天文学的な巨大数になるくらいの確率らしいのだが、私は二度とも神の温情で転生した。


 第一の人生は、地球の貧民の次男として生まれた。

 その時は生活に苦しんでいた親が、私の事を奴隷商に売り、私はその後、鉱山奴隷として働き、三十五才でその世を去った。

 その時、初めて女神様にあった。

 私はその時、「生きたいか?」と、質問された。勿論、奴隷として過酷な労働を強いられていたので生きたいとは一瞬も思わなかった。

 そして次に、「親を恨んでいるか?」と、質問された。勿論、奴隷として売られ、恨んでいたが、親の申し訳なさそうな泣き顔を思いだし、私はいいえと答えた。

 そう言うと、いきなり女神様が「つまらん、もう一度やり直してこい」と言い放ち、私をもう一度新たな人生を歩むことになった。その時から、私は影で女神様の事を邪神様、と呼ぶことにした。


 第二の人生は、何処かの世界で、地球にはなかった、魔法と言うものがある世界で、普通の農民の家に長男として生まれた。

 その時はなにも起こらず、揺ったりと暮らしていた。……ある時が来るまでは。


 私が二十才になり、ちょうど私と私の恋人との結婚式があった。村には御祝いの雰囲気が漂っており、決して悪いものではなかった。

 しかし、隣国の帝国兵が村を占領し、私の恋人は連れて、私は殺された。

 その時、また女神様に会った。


 女神様は私に、「帝国を憎んでいるか?」とした。勿論、恋人を連れていき、村中を破壊していった帝国兵を恨まないわけがなく、私ははいと答えた。

 次に女神様に、「自分がどうなっても殺したいか?」と、質問された。そこで私は勿論と答えた。


 そうすると、女神様は高笑いしながら「これだから人間と言うものは面白い、では貴様にはまた同じ世界で起きてもらおうか……女として」そう言われ、私は意識を失った。


 そうして、三度目、今回は侯爵家の長女として生まれた。

 勿論、今までの人生が男だったために、口癖や仕草を直すのは大変だった。

 しかし、私が生まれた侯爵家は代々、武官の仕事に就いていて、現侯爵は陸軍魔法総帥だ。

 そのお陰で、普通の貴族よりは礼儀作法は甘かった。ただ、その分、余った時間を剣や魔法の訓練に回し、戦略などの勉強をさせられた。まあ、それは帝国を滅ぼす事を誓った私には嬉しかったが、何故か親が私の事を心配していた。


 十年間近く努力した結果、私は陸軍大学校に首席入学した。

 ただ、十年間努力しても剣は上達せず、魔法だけが上達していたため、大学校卒業時には中間位の成績になっていた。

 そして、私は卒業と同時に、友好関係を結んでいる聖国との国境線に有る、ウェドル砦へと、ウェドル防衛隊、隊長として移動させられた。

 私の階級は中尉と、低いが今までの士官が居なかったと言うことで、隊長と言うことになった。

 まあ、私が侯爵家の令嬢と言うことで安全な場所に移動させられたのだろうが、私にとっては不満しかなかった。



~~~~~~~~



「隊長? なに考えているんですか?」


 私が今までの事を一人で振り返っていると、私と同じく大学校から配備された私の友達、メルリィ少尉が話し掛けてきた。


「いや、ただ考え事をしていただけだよ。それよりも、ここには誰もいないから名前で呼んで欲しいのだけれど」

「いいや、言いません! 公私混同は良くないと、教わりましたよね?」


 メルリィ少尉は、この世界で言うマニュアル人間、と言うような人種だ。本人は「軍旗にしたがっているだけです!」と言う風に言っていて、自覚がない。


「なにか失礼なことを考えていませんか?」

「ううん、なにも」


 ただ、メルリィ少尉の長所は、洞察力がとても優れていることだ。勿論、それだけではないのだが特に優れている点は洞察力だ。

 メルリィ少尉は今の会話だけで、私が少し失礼なことを考えていたことに気付いた。それだけ優れている。私とは真逆だ。


「やはり、君は尋問官の方が似合うと思うけれど?」

「はあ、またそれですか? 私はーー」

「はいはい、分かってるよ」


 メルリィ少尉が、軍部に入った理由は、親が帝国兵に殺され、その恨みを晴らす事と、第二、第三の親を出さないように、と言うしっかりとした理由を持っている。

 今、私がした説明を聞いていれば分かるとおり、メルリィ少尉は平民だ。勿論、大学校にはいるためには推薦が要るが、私と同じ様な境遇なので、私が推薦した。


「大学校に推薦したのは私だけれど、尋問官の才能は十分に有るね」

「はい、そうだろうとは思いますが、帝国に復習を遂げるまでは絶対になりません」


 この会話は毎日といっても過言ではないほどしており、もう私は無意識で言っている位だった。

 そんな中、何時もと違う事が起きた。


「「コンコン」ヴァンピィ中尉!」

「貴様! ノックの仕方も分からないのか! そこにならえ!」


 そう、焦った二m程の男性が返事を待たずに扉を開けた。勿論、そんな行動は上官にする行動ではなく、軍規に従っているメルリィ少尉の怒りを食らっていた。


「メルリィ少尉、軍規に従うのは平時なら正しいが、ガストン軍曹の慌て様が平時だと思うか? それをよく考えろ」

「はっ!」


 流石にあの慌て様が平時の行動とは思えず、確り聞くために、少し残っている私の良心が痛むが、一度メルリィ少尉を黙らせた。


「何があったの?」

「はっ! それでは、」


 ガストン軍曹が報告したことは、驚くべき事だった。

 それは、聖国が帝国と組み、私達の居る王国へ宣戦布告した、と言うことだった。


「それは本当?」

「は、はい、今王都から伝達が」


 ガストン軍曹が言い放った言葉は、今まで明るい雰囲気を

だった執務室を凍てつかせた。


「そ、そんな馬鹿なっ! 今まで三十年以上同盟を結んできた国だぞ! 冗談も程々にしろ!」


 そんな中、沈黙を破ったのはメルリィ少尉だった。しかし、実践経験がない成人になったばかりの少女には荷が重く、騒ぎ立てていた。


「少尉、そんなに騒ぎ立てて何になる? その時間で何が出来ると思う? それを確りと理解した上で行動しろ。それでは無能と変わらない」

「で、ですが! そんなことは起きる確立は、……何でもありません」


 これ以上騒がせてしまうと、他の人に聞かれてしまい、士気の問題に関わるので、睨んでメルリィ少尉を黙らせた。


「それで、援軍は?」

「いえ、その、援軍は来ないようです」


 その言葉を聞き、静かになっていたメルリィ少尉は、またもや騒ぎだした。勿論、こんな田舎に援軍が来ないと言うのは事実上の放棄と言っても言い。

 多分、このウェドル砦の有る東ウェドルを捨て、要塞都市ウェルの有る所を基準に守ると言う、作戦を参謀本部は決定したんだろう。戦線を下げ、労力を減らすと言うことは合理的だ、しかしそんなことが現地の人達が認めるわけがなかった。


「そして死守するようにと」


 その言葉を聞き、メルリィ少尉の顔は青く染まった。



~~~~~~~~



 メルリィ少尉が顔を青ざめる三、四時間前、王城では武官、文官が忙しなく動き回っていた。


「それは本当かね!? ファリー外務大臣」

「は、はい、紛れもない事実です」


 私はヴェリィ、陸軍魔法総帥だ。

 今、私を含め、外務大臣、内務大臣、陸軍総帥、参謀長、と言ったそうそうたる顔ぶれが、集まり御前会議をしていた。

 議題は友好関係を結んでいた聖国が、帝国と同盟を組んだことに対してだ。


「そうか、参謀長、何か案はないか?」


 この台詞通り、国王は無能だ。

 勿論、全てに置いて無能と言うことではなく、戦時に置いての無能と言うことだ。平時なら賢君と呼ばれても可笑しく無いくらいの働きをして居る。

 しかし、私達からすれば、人の上に立つ身として文武両道である方が望ましい。今の王ならば、前の歴史上希に見る位の凡君であった王の方が良い。


「はっ! では」


 参謀長が言った案、と言うものは、要塞都市ウェルを基準とした戦線を構築し、そこで各自対応しながら時間を稼ぎ、聖国と対談を持ち込むと言う案だった。

 勿論、それはとても合理的だ。ただ、対談に持ち掛けられるかが、一番の難所だ。だが、私はその事を考えていたのではなく、安全だと思い聖国との国境線、ウェドル砦に送った私の娘の事を考えていた。まあ、そんなことで場を混乱させるわけがないので、娘には悪いが死んで貰おう。


「それでは対談、と言うのは難しいのでは?」


 私の娘は今年で十九才になる。

 勿論、私の教育方針の元に我が娘には、戦略、交渉術、剣術、魔術、等と言ったことを教えていたが、私自身、子供がこんなことを真面目にやるわけがないと思っていた。

 しかし私の娘は真面目に取り組んでいた。流石の私でも気味悪く見ていたが、大学校に首席入学したのは誇りだ。


「ではそれで、解散」


 そんな無責任な王の言葉により、御前会議は閉じられた。



~~~~~~~~



 そして時は戻り、ウェドル砦にて。


「まだ攻めてくると確実に決まったわけではない、それにそんなことをしているのなら、街の人を助けようとは思わないのか」


 私が、わざと大きめに声を出すと、今まで青ざめさせていた顔を上げ、不安な顔だが、その目にはこの街の人達を守る、と言う強い意思があった。


「はっ! では全員で町に出て避難勧告をーー」


 しかし、ガストン軍曹は馬鹿なので後先考えていない案を私に提案してきた。しかも驚きだったのは同じ大学校を卒業しているメルリィ少尉まで、その案に頷いていたことだ。


「貴様等は馬鹿か? そんなことをしたら門を守者がないではないか、少しは考えたらどうだ?」


 私が呆れ多目に言ってやると、二人は「は! 忘れていた!」と言う様な表情をしながら私を見ていた。


「流石は首席入学syーー」

「そんなことはどうでも言い、早く町に行け」


 流石にこれ以上会話してしまうのは不味いと思ったので、少し不機嫌に命令をした。

 そうすると二人は急いで扉を開け、部屋から出ていった。


「はあ、何で私の周りには馬鹿ばっかりなんだ」


 二人が部屋からいなくなった瞬間、私は堅苦しい口調を崩し、溜め息を吐いていた。


「あぁ~、でも、メルちゃんは指示すれば滅茶苦茶良い方向に進むからなぁ、って、それよりも戦略を考えなきゃ行けないのかー」


 勿論、始めから戦略は考える気だったが、文句を言わないとやってられない位に、不機嫌になっていたからだ。……因みに、口調は、私の最後の男としての抵抗だが、十年間以上躾られた結果、かなり女っぽくなってしまっている。


「はあ、たしか無人地帯よりもこっちの方が高いしなぁ、でも籠ってると、どうせ突破力に長けた重装騎兵に押されるしなぁ、それだったら野戦の方が良いかな」


 阿呆の様な口調で言っているため、良く分からないと思うので説明すると、ウェドル砦一帯は丘に有り、緩衝地帯よりも高地に有るため、立て籠りには有利だが、そんなことは相手もわかっている。

 なので、機動力の有る軽装騎兵か、攻城や突破力に長けた重装騎兵か、行軍、機動力、準備に時間が掛かるが最も攻城に有利な魔法兵が来るはずなのだが、可能性的には重装騎兵が高い。


 理由を言うと、軽装騎兵は五時間程度で、聖国側の国境線の都市からウェドル砦に到着できるが、壁を破壊出来ずに、侵入に時間がかかる。

 魔法兵は、ウェドル砦まで二日程掛かる。その理由は、数が少ない優秀な魔法兵を集めるのに時間が掛かるからだ。

 勿論、攻撃力の強い単純な魔法を使うだけなら、そこら辺にいる人でも出来るが、コントロールを確りできないと、戦いで全く運用出来ない。だから時間が掛かる。


 だから、魔法兵程、攻城能力はないが軽装騎兵よりも全然あり、行軍速度が一日程度と、軽装騎兵程速くはないが魔法兵よりも全然早いので、重装騎兵になるはずだ。

 そんな短絡的に決め付けるのは悪いと思うが、ウェドル砦に配備されている兵は、兵種を問わずに三百名ほど、対して、聖国の王国方面の先発隊として出せる重装騎兵は、七五〇。だから少しでも可能性が有るのなら、違う兵種に対しての作戦でも、一応の時間が稼げる。だから私達は重装騎兵への戦略を決めないといけない。


「はあ、戦略っていってもなぁ、本当にこんな少数で援軍が来ない、小さな砦に籠る何て無謀は出来ないし、どうしようか」


 ただ、この世界には戦略と呼べるものが全くない、強いて言うならば密集陣形の改良程度だ。

 この世界の戦いは、大魔法の打ち合いが普通で、たまに重装騎兵で戦うと言う様な物だ、だから魔法歩兵以外の歩兵と言うのは肉壁にしか使えないと言う兵種に思われている。


「はぁ、それだったらテルシオで良いかな」


 その思いを覆すために、私の知っている地球での一昔前の陣形、テルシオを採用した。


 テルシオと言うのは、槍兵、完全装備した槍兵、の四辺を銃兵、威力の高い銃兵が囲む、防御に特化した陣形だ。私自身、あまり覚えていないのだが、たしかこれはフランスが開発した陣形だったはずだ。


 そんなことを考えながら、私はペラペラと、この砦にいる人達の能力が記録されている紙束を捲っていた。

 そして分かったことは、残念ながら大魔法なんて立派な物を使える人は一人も居らず、完全装備出来るほどの装備が全くないと言うことだ。


「う~、流石に砦を背後にしているから、背面の魔法兵は要らないとして、問題は前面の威力の高い魔法兵役が居ないんだよなぁ、まあ私でも良いんだけど」


 私なら、この砦にいる誰よりも強く、性能の良い魔法を使えるが、前面にいると言う事は必然的に殺されやすくなると言うことになる、勿論私はこんな所では死にたくないし、それに指揮官である私が死んでしまったら、次はメルリィ少尉に指揮権が移るため滅茶苦茶になってしまう。


「まあ、私一人でも前面を対処してその他の人に側面を担当してもらえば良いか、背後に砦があるから人は要らないし」

「「コンコン」失礼します、メルリィ少尉です。入ってもよろしいでしょうか?」


 そんな事を素の口調で言っていると、街に避難勧告をしに行ったメルリィ少尉が帰ってきた。


「別にそれは良いが、何故こんなに早くに? 幾ら街が小さいからってそんなに避難勧告が早く終わるわけがないだろう?」

「いえ、その、実は、ほぼ全員が逃げずに徹底抗戦をするつもりなようで、言うことを全く聞かないんですよ」


 この街は小都市レベルの規模で、愛着を持っている人が多く、そんなことになるとは思っていた。その際は別に居てもらって構わない。勿論、私達が負ければ住民達は殺されるだろうが。


「はあ、それだけなら別に放置しておけば良いだろう?」

「あと、第二王子を騙る物がーー」


 避難勧告を聞き頭が逝ってしまった人が居たらしく、しかし万一、本人だった場合は首が物理的に吹っ飛ぶ程度では済まない罰を受けることになるため、上官の私に良いに来たみたいだ。

 それだけなら良いように聞こえるが、メルリィ少尉はそんな軍規に従いつつも、面倒な物を押し付けているだけだ。……本当に私が侯爵令嬢と言うことを覚えているのだろうか?


「その馬鹿も連れて来ているんだろう? 早くつれてーー」

「だから本人だっつぅの、ってあれ?」


 勿論、私が侯爵令嬢で、第二王子と面識があるため、私に相談しに来たのだと思う。

 しかし、私が連れてこい、と言い終わる前にその自称第二王子は勝手に姿を表した。

 その姿は、澄みきった金髪に、青色の両眼、そして口調は色街に居そうな引き込みの男、と言う様な口調だった。

 それはつまり、本物だった。


「げっ」

「げっ、とはなんだ、げっ、とは? 相変わらず貴様は淑女としての常識がない」


 この、私の淑女らしくなさに文句を言う王子は、所謂バカ息子と言う様なやつだ。

 今、この辺境にいる理由も、多分暇だった、つまらないから、と言う馬鹿みたいな動機なはずだ。それくらい、王子としての常識がない馬鹿だ。


「何故貴方は避難勧告を聞きに真っ先に逃げない? 貴方は王子なのですよ? 少しは自覚を持ってください」


 流石に、そんな性格なことは昔から知っており、「王子様がこんな窮地に助けてきてくれるなんてぇ、素敵! 抱いて!」と言う風には微塵も思わず、逆に説教じみたことを話していた。


「はあ、お前もか、まあ良い、俺は魔法が得意だ、何かやれることはないか?」


 こんな発言をするほど、第二王子は根は優しい。しかし、前線で戦う王など、指揮官としては論外中の論外だ。だからこの王子には直ぐ様お帰り願いたいのだが、話を聞かないのは簡単に想像できた。


「じゃあ、避難勧告をお願いします、一般人が居ると邪魔なので」


 第二王子は、そんな発言に少しだけ頬をひきつらせたが、私の指示を聞き、部屋から出ていった。


「ああ、メルリィ少尉は今、砦にいる人達を門の前に集めておいて」

「分かりました」


 私は第二王子と一緒に部屋から出ようとしているメルリィ少尉を呼び止め、新たに命令をした。勿論、誰でも察っせると思うが、戦いのことについてだ。


 そうして、また一人になり、今度は一言も喋らずに確りと案を練っていた。




「やあ、諸君、私はこんな晴天の日にこんなことを言うのはとても不愉快だが、言わせて貰おう、今話す内容は君達の命だ」


 翌日、私がメルリィ少尉が集めた兵たちの前で、少し格好付けて話を始めると辺りの兵がざわめき始めた。


「勿論、風紀を乱しているから、うざいから、と言う理由で君達が死ぬわけではない」


 私を化け物の様に見ている兵士が多数居たため、私が少し解説してやると、ホッと肩を撫で下ろしていた。しかし、それじゃあ何故俺達の命が? と言う顔をしている者は残念ながら一人も居なかった。


「予定では明日の今の時間に、同盟破棄した聖国の騎兵がここにやって来るからだ」


 流石にそこまで言えば分かるようで、兵士たち全員が私の事を驚愕の表情で見ていた。勿論、こんなことは軍規に違反するがそんなことを注意している暇さえないのだ。


「結局、ここには魔法兵が居ないため、きつい戦いになると思う。勿論、魔法兵ではないがそこそこ魔法は得意なので私が主体の作戦となる」


 そこまで言うと、不満を言う者が大量に出てきた。もうそれは大量と言うより全体だった。


「別にこの作戦には参加しなくても良い」


 そんなことを聞き、「じゃあ俺も」と言う風に次々と手を挙げる兵士が出てきた。しかし、私は、「だが、」と、一度区切り、兵士たちの顔を見渡した。


「その選択をしたら、この街を守るものは居なくなり、そして愛する者、物は我々を裏切った卑怯者の聖国に奪われ、破壊されてしまう。そんなことを許してしまって良いのか!」


 私が拳を強く握り締め、力強く語りかけると、手を挙げていた数人が手を下ろし、私の話に聞き入っていた。


「いいや、絶対にダメだ! 私はここに来てまだ浅いが、この街が良い所だと言う所と言うことは分かる。そんな街をみすみす破壊させて良いと言うのか!」


 更に語りかけ、唾まで飛んでしまう程、熱心に言うと、少しづつ手を下ろしていく者が増えていき、私が言い終わる頃にはすべての兵士たちは手を握り締め、目の奥には希望の二文字がかかれていた。


「では聞こうではないか! 貴様等はこの街を捨てるような愚か者なのか! それとも、悪から街を守る正義なのか! どちらだ!」


 私が締めとして、そんなことを言うと、兵士たちの士気は最高潮になり、我々は正義だ! 悪からこの街を守るんだ! と言う風に騒ぎだしていた。


「それなら、指揮官である私にしたがってほしい!」

「「「おう!」」」


 そうして私は野戦で戦うこと、そこで陣形を組み、死力を尽くし砦を守ること、そしてその結果生き残る可能性は零に等しいことも。


「「そんなことは関係ねぇ! 俺達がこの街を守るんだ!」」


 しかし、そんなことはどうでも良いようで、どんどんと士気が高まっていた。


「では作戦は明日から開始だ。それまで確りと体力を付けておけ」


 そう言いながら、私は執務室へ戻っていった。



~~~~~~~~



 ウェドル砦の兵達が騒ぎ立てている時、聖国軍と言えば。


「今回の目標は王国側の新国境線の基幹である、フェルス、ウェドル、ダールの三つの砦を攻撃する! 私達はその中のウェドル砦攻略を任された!」


 私の名前はデューク、我ら帝国に占領された聖国軍の一部隊を任された、第八皇子だ。

 皇子と言う事でその中でも、比較的攻略難度の低いウェドル砦攻略部隊に命じられたが、私としては不服でしかない。この戦いで武勲を上げれば皇帝継承権が得られるはずだからだ。


「……はっ!」


 聖国の兵達は私の様な侵略者のトップ辺りの権力をもつ者に指揮をされるのが嫌らしく、士気は滅茶苦茶に下がっていた。勿論、命令に従わないと言う愚かな真似をする者は居なかったが、「ぶっ殺してやる!」と言う様な意志が有ることは誰一人として隠していなかった。


「ウェドルは小さい砦だから攻略は簡単なのだろうが、この士気じゃ不味いぞ?」


 私がそんなことを問い掛けても、返答はいっこうに返って来ず、顔を見ると、直ぐ様に視線を逸らされた。


「ここの元の指揮官は相当親しまれていたんだな、ここまで士気が下がるとは」

「……当たり前だ、貴様の様な侵略者共に心から従う聖国軍人なんて居る筈がない」


 やっと返ってきた言葉は、帝国、と言うより皇帝を蔑むような発言だった。

 普通の皇子、皇子で無くとも帝国軍人なら激怒する様な内容だが、それに関しては同意見だ。

 別に聖国に攻め入るのは別に良い。

 ただ、聖国を力で捩じ伏せ、王国と戦うと言うのはとても愚かだ。少しでも王国が優勢になれば、聖国でも反乱、革命が起きるかもしれない。と言うより、なると確信できる。


「少しは口を慎め」


 私が少しだけ高圧的に命令をした。

 勿論、蔑むような発言をしたものから睨まれた。


「はあ」


 私も戦いたくはないが、皇帝の命令に従わない事はできないため、攻め入るしかない。そんな状況に嫌気が差していた。



~~~~~~~~



 私とメルリィ少尉は執務室に戻っていた。

 メルリィ少尉は自分が、下手を打ったら簡単に殺されてしまう戦いが近い、と言う事でそわそわと緊張していた。


「メルリィ少尉、そんなに緊張しなくても良いぞ? それに緊張しすぎると死ぬぞ?」

「いや、そう言われましても、死ぬと言うのは恐怖が……」


 人生一度目のメルリィ少尉には、死と言う者がどう言う物か分からず、漠然とした恐怖を感じているようだった。まあ、私の様に前世の記憶を持つ者の方が希少なのだけれど。


「死ぬときは死ぬ、死なない時は死なない、そう考えれば良いと気軽になると、私は思っているが」

「そんな楽観的に考えられるのなら簡単ですよ」


 本当にメルリィ少尉の脳内は理解が出来ない。何故私の事を考えなしの能天気と馬鹿にしたのに、あの糞みたいな性格の第二王子には態度を改めて、私は侯爵令嬢なのだけれど、一度立場と言うものを理解させた方が良いのだろうか?


「そもそも、私が負ける作戦を立てたとは思っていないからね、相手が余程の策士ではない限り」

「はあ、どうしてそんな楽観的に居られるんですか? 本当に脳内お花畑なんじゃ」


 そんな、良く分からない肝の据わり方をしているメルリィ少尉に、今度は本当に能天気と言う疑惑をかけられた。

 そんな中、ノックもせずに入ってきた人が居た。


「よっ! 避難勧告は終わったぞ、他に何かやることはーー」

「ないです、強いて言うならば直ぐ様にこの街からお帰り願いたい」


 入ってきたのは馬鹿(第二王子)だった。

 王子は争いの前と言うのに、凄く気軽い。これには本当に危険判断能力があるのだろうか、私だって死ぬ可能性が有るのなら少し位は緊張すると言うのに。


「そうか、遊撃をすれば良いんだな!」


 どうやらこの馬鹿は、自分の立場を理解しておらず、更には一人で遊撃する、と言う理解不能なことまで言っている。野球ではないのだけれど。


「はあ、じゃあ、明日は私と共に前面を頼みます」

「その溜め息はなんだ? そもそもやってもらいたい事があるのなら最所から言えよ」


 私は貴方の思考回路に対して、なんだ、と言ってやりたいんだが? それに、やってもらいたいことは逃げてほしいと最初に言っただろう。


「じゃあ」


 そんなことを言って、馬鹿で、自分の立場を理解していなくて、意味不明なほど自由奔放に生きている、第二王子は帰っていった。


「はあ、何であんな奴に君は畏まっているんだ? 私も貴族なのだが、差が酷すぎるだろう?」

「いやぁ、そのぉ、だって、ねぇ、ヴィだよ? あの王子とは比べ物にならない」


 王子が現れた事により、メルリィ少尉は少し落ち着いたのか、私が話し掛けても頭を抱え叫ぶ事はなくなった。ただ、まだ少しは焦っているようで、普段私に話し掛けるような口調で返してきたが。


「はあ、全く君と言う奴は、まあ、落ち着いたのなら良いよ、今日はもう返って休んでいて」

「分かりました」


 そうして、部屋には私以外居なくなった。


 私は何時も一人になると、馬鹿みたいな口調で独り言を始めるが、流石に状況が状況なので、そんなことをする気には成れなかった。

 勿論、先程も言った通り、勝つつもりだが死者を出さないと言う事は絶対に無理だ。それなのに第二王子が陣形に組み込んでしまったために、王子だけは殺させてはいけない、と言う状況になってしまった。

 

「はあ、何で私は、戦って負けたら死ぬし、王子が殺されたら国に殺されるし、最悪だ」


 勿論、そんな中で戦わせるのは誰かに見られたら、説教どころか減給レベルでもましな位な事が起きてしまう。

 しかし、あの馬鹿(第二王子)を放置しておくと、さっき言われた通り、勝手に意味不明なことをするため、責任問題が出てきてしまう。


「あれは疫病神か何かなのか? これまでで一度も私に有益なことをしてないぞ? それよりも不利益にしかなってない」


 ただ、今回に限っては少しだけ有益にはなっている。テルシオの全面の魔法兵役が私一人ではなく第二王子と二人になり、少しだけ防衛成功の確率が上がる、そして王子と言う事で、もしかしたら手柄をたてれば出世できるかもしれない! と言う風に士気が上がる、現に避難勧告を王子と共に行った者達は士気が上がっていた。


 まあ、こう言う風に有益な所を挙げているが、結局、王子が死んでしまう、捕虜として捕まると言うデメリットが圧倒的に不利益であり、王子がどれだけ有益な事をしようとしても絶対に不利益になる。


「利益不利益で押さえ込まれた結果、あんな性格になってしまったのかな?」


 一瞬だけ、第二王子の現状に同情しかけたが、幼少期の頃からあんな性格で、押さえ込まれる前からあんな性格をしていた事を思い出した。

 

「絶対に、それだけはないな」


 そんな風に思いながら、時間は過ぎていった。



 翌日、起床時間になり、砦に居る兵士たちを集合させた。


「これより作戦を開始する、陣形は昨日確認した通りだ」


 兵士達の前に立ち、兵士達に向けて語りかけると、全員が軍人としての義務を全うする、と言う思考が感じ取れた。


「緊張するのは別に良いが、それで失敗はするなよ、機会は一度限りなんだ、成功か失敗か」


 勿論、脅している訳ではない。実際、兵士達は力が漲り過ぎていて、このまま作戦を実行すると死にかねないからだ。この位で緊張されては困る。


「まあ、それは良い、実は力強い協力者を作戦に加える事になった。勿論、私も急に言われて驚いた位だ。だから私に文句を言う前に本人に言ってくれ。では」


 私が少し前置きをすると、兵士達は文句を言わず食い付いた。まあ、強力な協力者なのだから注目するのは当たり前だ、ただ、それはメリットだけ、言っているだけで、私はデメリットを言っていない。それがどんなに厄介だとしても、私は知らない。


「どうも」


 私が冷や汗をかきながら、紹介したのは金髪蒼眼の美青年、要するに第二王子だ。

 兵士達はそれを見て固まっていた。まあ、無理もない、あの歩く災厄(第二王子)の性格を理解していない者からすれば、魔法の使える王子が、遊び、若しくは物見遊山に来ている様にしか見えない。


「どうしても、どーしてもっ! 助けてほしいと、ヴィに言われたから助ける事にした」


 しかし、厄災(第二王子)は、周りを全く見ていない様で、兵士の全員が固まっている事に気付いておらず、馬鹿みたいな口調で話始めた。

 しかも、内容が内容なので、一斉に私へ視線が向いた。

 そんなもの、私だって文句を言ってやりたい。だが、相手は王子だ、たかが侯爵令嬢が文句を言って良い立場ではないんだ、その様な感情を込め、兵士の一人づつを睨んだが、全員から睨み返された。


「だから、ヴィと一緒に前面を担当する事になった」


 未だに、第二王子は状況を分かっていないようで、陽気に話している。

 それに対して私は厄災(第二王子)が言葉を発する度に、どんどんと目線の温度が下がっている、兵士達に睨まれ続けていた。その視線は私がふるふる、と首を横に振っても、ぶんぶん、と首が吹っ飛びそうになるくらい横に振っても、変わらなかった。


 

「だから、よろしくなっ!」


 もうそこまで来ると、兵士達は私に、何故、と言う怒りの視線を向けていたのが、殺気の入った睨みに変わっていた。

 最終手段として、私が泣いてやると、流石に兵士達は黙った。別にこの行動は卑怯ではないはずだ、謂れのない事で殺気を向けられたら誰でも泣く。……馬鹿(第二王子)は例外だが。


「ん? どうした? 全員でにらめっこしてんのか?」


 やっと、兵士達の状態に気付いたようだったが、良く分からない認識の仕方をしたらしい。

 流石に、立場を理解しているはずの、第二王子以外の全員が一斉に王子を睨んだ。その時の一致の仕方は誤差が一秒もなく、神掛かっていた。


「まあ、良い、早く締めろ」


 やっぱり、第二王子は目線に気付かず、私に少し命令口調で言ってきた。私は君を絞めたいよ。


 そんなこんなで、防衛戦前の集会は終わった。この集会は後の王国に伝承され、童話になるまで有名な話になる。勿論、第二王子が美化されたが。



~~~~~~~~



「もうすぐ、ウェドル、ダール、フェルスの新国境線に聖国軍がぶつかる頃か」


 辺りの武官達が走り回って、命令や資材などを確認しているなか、私は娘達が居る新国境線について夢想していた。


 元々、ダール、フェルスは、中堅都市があり、交通網も整備され、行き来が盛んで、確りとした砦を建設してあり、防衛力としては少し後ろの旧国境線までいかないものの、かなり強い。

 しかし、ウェドルは、農村が有っただけの地域だったので、全く発展していない。

 今は小都市レベルには発展しているが、友好国家と面していたために、防衛設備の改築、増築等は後回しにされていて、魔法中隊レベルで壊滅的な被害を受ける位だ。


 だから、ダールやフェルス等はまだ防衛戦で勝てるが、ウェドルは、相手が余程の間抜けでない限り、負ける。勿論、ウェドル側の指揮官が有能なら、ほんの少しだけ可能性があるが、指揮官は私の娘で、初陣だ、どうせ教本通りの作戦を立て、殺されるだろう。


「あっ!」


 そんな中、一人の文官が声をあげた。


「確か、今第二王子って……」


 その言葉を聞き、私は狡い第二王子の顔を思い出した、そして自由奔放に、国内を歩き回っている姿を想像した。

 そしてその瞬間、文官達全員が立ち上がり、何処かへ走っていった。概ね、外出届けを見に行ったのだろう。


 しかし、第二王子がウェドルに居る可能性は有る。

 何故か第二王子は、私の、無愛想で見た目だけが良い娘に、惚れている、それを助けようとしてウェドルに駆け付ける可能性も零ではない。


「まあ、その時はその時か」



~~~~~~~~



「なあ、こんなに固まってたらただの的だろ、大丈夫なのか?」


 皆が皆が、もしかしたら死ぬかもしれない、と言う事に緊張してきた頃、第二王子も少し緊張してきたのか、私に真剣な表情で質問をしていた。


「大丈夫な訳がない、そもそも砦は弱く、兵数も少なく、出来るだけ聖国兵を殺すが、ほぼ死ぬ、生き残れる確率は数パーセントなんじゃないか?」


 兵士達にもそれは伝えたため、有りのままの事を話した。勿論、ここで騒ぎ立てるようなら殴ってでも気絶させるのだが、と言うか気絶させたいのだが、王子は全く狼狽えていなかった。


「はあ、何でそんな確率の低く戦いをしようとしてるんだ、逃げれば良いだろ」


 本当に王子は馬鹿らしい、軍人と言う物がどう言う物かを確りと理解出来ていない様だ。

 軍人と言う物は、死ねと言われたら死ななければならないし、殺せと言われたら殺さなければいけない。そう言う物だ。


「だから君には逃げれと言っただろう」


 まあ、この第二王子は馬鹿で、チャラいが、純真と言うか、真っ直ぐだ。だからこう言う事は子供には余り教えたくはない。


「前方! 重装騎兵が接近! 戦闘体勢!」


 メルリィ少尉が発した言葉により、話し声はなくなり、辺りは緊張した雰囲気になった。


「じゃあ、言った通りに、どんどん打っていって」


 私は魔法を打ちながら王子に語りかけた。

 その魔法が聖国兵に当たると、何故か直ぐ様に陣形が崩れた。勿論、こちら側もそんなことを考えている暇はなく、どんどんと、魔法を打ち続けた。


 しかし、少しすると陣形を組み直し、こちら側に真っ直ぐに進撃を始めた。ただ、こんなことを見逃すのは余程の馬鹿だ。

 そんなことを考えながら、事前に伝えておいた命令を下した。


「パターンB、陣形を移行!」


 そして側面に居た、魔法兵達は前面に動き、そして、それと同時に槍兵達は横陣を生成した。


「目標は騎馬だ! 兵を狙うな! 撃てっ!」


 相手は私達へ真っ直ぐに進んでいるため、適当に魔法を撃ち続けても相手に当たる、ただ、相手にぶつけても重装備なので余程の威力がない限り、殺せないため先ずは騎馬を攻撃する。


 勿論、騎馬は軍馬なので側面に居た魔法兵の魔法単体では、怯みもしないが、弾幕を張っている今、一発だけ当たると言う事はなく、十発程度が連続で当たり怯んでいた。


「兵は私達が対処する! 槍兵は、もしもの時に備えて注意しておけ!」


 どうやら相手を倒すのに集中しているようで、誰一人として返事をするものがいなかった。

 集中してくれているため、落馬している兵が大量に出ている、だが、その兵士達の対処は私と第二王子だけなので、少し追い付いていない。


「ぐっ! 間に会わなっ」


 私がそう言う寸前、倒し損ねた聖国兵が私の首を狙い、剣を横に振った。

 私も相手も、死んだと思ったが、横に居た第二王子が私の事を押し倒し、間一髪の所で助かった。


「総員! 少し耐えろ!」


 そして私の顔の間際で勝手に、私の部下に指示を出し始めた。本当なら私が指示をできなくなったら、次に階級の高いメルリィ少尉になるはずだ、それに、私は指揮が出来なくなったわけではないが?


「ヴィ、お前は女だ、その顔に傷がついたらどうする? 嫁ぎ様が無くなるぞ? 確りしろ」


 王子の性格なら軽口を言い、直ぐ様退く筈なのだが、一向に私の上から退かずに私の心配をして居た。ただ、そんな中でも戦況が動いて行かない訳がなく、少しずつ近付いてくる兵達が増えていた。


「王子、今はこんなことをしている場合ではないんだ、だから今すぐに退け、幾ら貴様が王子だからといって、今に指揮官は私だ」


 私が、第二王子でない限り殺されても可笑しくない様な発言で、威圧した。流石にそれ以上すると本気で怒るのかと思ったのか立ち上がり、元の立ち居ちに戻った。

 そして王子は元の場所に戻る際「顔が赤くなってるぞ?」と、悪戯が成功した子供の様な表情をして私にウィンクをした。


「そ、そんなわけがないだろう」


 勿論、元々男だった私が男に惚れる訳がなく、王子は勘違いをしているのだと思う。ただ、何故か心臓の鼓動がドクドクと煩く体の中で響いていた。


「そんな事を考えている場合ではない」


 そんなことで思考の殆どを持ってかれていたが、金属と金属がぶつかり合う、接触音が響き渡った事により意識が現実へ戻された。


 今の状況は、五、六人が陣に迫り、槍兵と戦っているが、それ以外の聖国兵は今まで肉壁としてしか使えなかった歩兵が、魔法兵以外で負けた事がない重装騎兵が破れている事を、認められずに呆然と立ち尽くしている兵か、混乱状態に陥っている兵が多数だった。


「よし! 後は防ぎ続けるだけだ! 勝利は近いぞ!」


 勿論、その防ぎ続けると言う行為が難しい事は誰でも分かっているだろうが、難しいが、何て言う言葉よりも士気が上がるから、そう言う風に味方達を鼓舞した。


「よし、少し負傷している槍兵は後方へ下がれ! 魔法兵は余り魔法を撃たずに体力を温存しておけ!」


 私と王子が近付いてくる兵達を魔法で撃ち殺し、そして槍兵、魔法兵共に、今は活躍する事がなくなった。勿論、今活躍する事が無かろうが、この戦いは長期戦になる予定なので今の内に休ませるのが得策だろう。


 その十分後、聖国軍はこれ以上戦っても、被害が増すだけで意味がないと判断したのか、逃走していった。


「勝ったぞーっ!」


 その王子が発した事実に、皆が固まった。

 勿論私も、こんなに早く防衛戦が終わるとは思ってもおらず、死者も二、三十人以上でると思っていたが、結果は一人も居なく、圧勝と言う事だった。


「「「いやぁったー! 勝った! 勝ったぞぉ!」」」


 そして、脳内でその言葉を噛みしめ、そして嬉しさが我慢出来なかった様で、王子を中心に胴上げが始まっていた。作戦立案、作戦指揮のどちらも行ったのは私なのだけれどな。


「勝てましたね、中尉、貴女の言葉通り勝てましたね、流石は首席殿」

「馬鹿にするのは止めてくれ、そもそもこれで終わりな訳がないだろう? ダール、フェルスの両、新国境線が崩壊していたら、ウェドルは挟撃に合う、と言うか下手したら簡易的な包囲網が完成してしまう、それだからまだはしゃぐのには早い」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 このウェドル砦防衛戦は、ヴァンピィと言う女性士官が始めて歴史書で現れた戦いで、そして戦略と言う概念を作り出した歴史的な戦いになった。 アダムス暦、五二十年、アダムス帝国の実質的支配下になったルストギア聖国が第二オルト王国に進撃を開始した年。

 これが後に西大陸統合戦争に繋がっていく。


 聖国はダール、フェルス、ウェドルの三つの砦に奇襲を描け、ウェドル以外の砦で勝利した。


 ダール砦では、今まで友好国家だった聖国との国境線と言う事で、指揮官が血統だけが良い、無能が指揮官だったため、聖国が攻めてくると言う情報を聞くと、その無能は即座に逃走し、その後、その無能は発見されなかった。


 フェルス砦では、退役間際の老将、ルギス大佐が指揮官として着いていた。このルギス大佐と言う人は、第二オルト王国独立戦争にて活躍した英雄だった。しかし、圧倒的な戦力差により敗北した。その差は五倍、圧倒的だ。


 最後に、ウェドル砦では、陸軍大学校を卒業したばかりの女性士官が配備されていた。

 その女性士官は、大学校入学時は首席だったが、卒業時は中の上程度の成績と言う事で、配属理由はダール砦の無能と変わりない。


 しかし、その女性士官は今では、戦う上で常識的な戦術を作り出した人だ。もう大抵の生徒達は分かったと思うが、当時中尉だった、ヴァンピィと言う名前の人だ。

 これでも分からない馬鹿が要るかも知れないので、こう言えば分かるか? 『王国の吸血鬼』と言えば。


 ――出展、アデル共和国、ガルス大学、戦史科、誰でも分かる西大陸の戦史。



~~~~~~~~



 防衛戦が終わり、砦の兵士達はお祝い気分で、皆宴の準備をして居た。その様子は一時の平和だと言う事を忘れさせられる様な、平和で、日常的な雰囲気が辺りに溢れていた。


「王子! ビール持って来たので一緒に飲みましょう」

「い、いや、まだ敵が来ないとは限らないから」


 しかし、中心に居るのは、何故か第二王子で、作戦立案、指揮をした私には、誰も来ていなかった。まあ、私が報告書を書いている為、遠慮してくれているのだろう。私にとってもそれは好都合だ、しかし寂しい事には変わりない。


「なに固いこと言ってるんですか! 今日の主役は王子なんだから!」

「い、いや、主役は俺ではなく」


 ……違った、ただ単に兵士の全員が、今回の戦いで勝ったのは王子のお陰と思っているらしい、まあ、私は自分を認めて貰いたいから戦っているのではなく、国を守って要るだけなので、別に誉められたい訳ではない。

 それに王子は私を守ってくれ、戦いを続行させたと言う点では、かなり活躍している。なので誉められても良いとは思うが、何故私は誉められず、王子が褒められるんだ。


「ヴィ? 大丈夫? 皆から忘れ去られているけど?」

「別に私は褒められたいから戦っているのではない、それに報告書を書かないといけないから、私にとっては好都合だ」


 どうやら私は、全員から忘れ去られた訳ではなく、メルリィ少尉が私を慰めながら近付いてきた。


「んふふ~、相変わらずヴィは素直じゃないねぇ」


 どうやらもう酒を飲み、酔っぱらっている様で、形式にこだわっているメルリィ少尉が、私に抱き着き名前呼びをしていた。まあ、凄く酒臭かったので、呑んでいると言う事は瞬時に分かったのだが。


「絡み酒って言う事は前から知ってるけど、今は報告書を書かないt――うぐっ」


 メルリィは絡み酒であり、一度呑むととんでもなくうざくなる。だからその事を注意した。しかしそんなことで酔いが覚めるわけがなく、しかも私の口にビールが入ったジョッキを口に当てられ、強制的に飲まされた。


「ふぇ、ふぇぇん! 何で王子は褒められるのに私は誉められないの!? 不公平だよ! 理不尽だよ! 女だから悪いのかよ!」


 そして私、と言うかこの体は泣き上戸だ、そのせいで、宴をしていた兵から見られたが、王子の説得により何時もの事だと気付き全員から無視された。


「良いもん! 私にはメルちゃんが居るもん! 悲しくなんてないからね!」


 一応この状態の私は思考は確りとできるのだが、行動に全く反映されずに、何時も何も出来ない中で、ただ恥ずかしくなっている。と言う結構精神的に来るものが有るため、酒は嫌いだ。


「素直で可愛いよぉ!」


 そしてそれに、酔った状態のメルリィに抱き着かれ、その場は更に混沌とした。



~~~~~~~~



 翌日、王城では昨日ほどの騒がしさは無くなっていたが、未だに騒がしい人達がいた。


「うーむ、この報告は本物なのだろうか」


 前回と同じメンバーで御前会議が開かれた、議題はウェドルから届いた報告書についてだ。

 一番報告書が届く筈がないウェドルのみ、戦術的勝利と書かれた報告書が届き、他のダール、フェルスの両砦からは報告書が届かず、敗戦したのは目に見えていた。


「字は本人の物なんだけれど」

「そんなことだけで、信用できません! 中尉が帝国に魂を売ったと言う可能性もあります!」


 私が少しだけ弱めに発言をすると、頭の弱い陸軍総帥が私の発言を真っ向から否定した。

 そもそも、この男と私は犬猿の仲であり、その関係は大学校時代からだ。

 大学校時代、私は魔法科で首席だった、そしてあの男は通常兵科で首席だった。その時彼は、と言うか今でもそうだが、物理至上主義と言う様な思考をしており、魔法を真っ向から否定していた。


 昔から、そう言う様に仲は悪く、今回は私の娘が帝国に裏切ったと決め付け、陸軍魔法総帥の立場から下ろそうとしているのが良く分かる。


「はっ! それではなにか? 私のあの娘が帝国に裏切ったとでも言うのか? 馬鹿馬鹿しい、それなら貴様の馬鹿息子の方が可能性があるわ!」

「な、なにぃ! それは侮辱と受け取っても――」


 流石にこの異常時に、いつも通り喧嘩すると言うのは滑稽と言う物だ、今は原因を作ったあの男に、参謀長、内務大臣、外務大臣から睨まれている、それだから貴様は馬鹿なのだ。


「しかし、兵士は街を守るために戦っているため士気が高い、か、厄介なことになったな」


 勿論、分かると思うが、厄介な事と言うのはウェドルに愛着を抱いている者達が、街を捨てるより、と帝国に裏切る、もしくは暴動を起こすかもしれない、と言うことだ。


「そんなことは関係ない! 戦線を拡大する方が危険だ!」


 陸軍総帥は本当に馬鹿だ、戦線を拡大してもしなくても人員は大して変わらない。それどころか不満を持つ兵を入れてしまうと、兵士達の中で不和が生まれてしまう。もしかしたら、新たに第三勢力として我々に歯向かうかもしれない。


「はぁ、何を言っているんだ、歯向かう可能性のある兵士を引き込む方が危険だろう、少しは考えろ」

「なっ! 参謀長が何様だ!」


 性格がとても悪いが、凄く合理的な参謀長、と言うか王以外の全員が陸軍総帥の発言に呆れていた。勿論、どれだけ馬鹿な発言をしたのかを理解していない総帥は、何故呆れられているかも理解できていないため、ハブられているとでも思ったのか騒ぎ始めた。


「それよりもだ、この指揮官の処遇をどうするかが問題なんだ」

「おい! 私の話を――」


 もうあの男に付き合っていても無駄だと、思ったのか参謀長が一番の悩みどころの指揮官――私の娘の処遇について、議題を替えた。

 勿論、普通では一階級上がる位の戦果を上げているため、大尉になるはずだ。しかし、しかしだ、フェルス、ダールが敗北している中でウェドルだけ勝利していると言う状況は信じがたい。それこそ、陸軍総帥が言ったことを懸念する。


 しかし、その思考で階級を上げない場合、もし本当に勝利していたら正当な評価がされないと、奇跡的な指揮をした指揮官が帝国に行ってしまう。しかもその時の指揮を今度は我々に向けてくる、こんな悪夢はそうそうない。


「上げないと言うのは反感を買うからなぁ」

「うむむむ、それならば指揮官とその副官を交代させれば良いだけなのではないか」


 陸軍総帥総帥の呟きが、その場の空気を固めた。

 この男は馬鹿だ、それは今までを見ていたら分かると思う。しかしそれだけなら私のライバルには絶対にならない。もしライバルになったら、私も相当の馬鹿になる。

 ただ、この男は所謂天才、と言う物だ。会議などでは無能以下の論外だが、作戦立案能力は神掛かっている。その作戦立案能力は私以上だ。


「しかし、代替要員が殺されたりでもしたら、意味が……」

「それなら、裏切りで処罰し、殺されていないのなら誰かしら、王都に来るだろう。代替要員は無能を出せば良いだろう」


 作戦立案、詳しく言うと草案の提案について長けているが、詳しい所は雑になっている、今の台詞で言えば、代替要員は無能で言いと言ったが、現地の兵達に無能と知られたら不満は上がる、下手したら無能を殺して反旗を翻す可能性もある。


「ならそうしよう、そもそも余がここに居る必要が有るのか?」


 結局、今回も王が飽きてしまい、会議は締められた。最後に王は自分の必要性に私達に質問をしていた。まあ、軍部だけで会議をしてもいいのだが、今は国家継続の危機であり、形式上は王に居て貰わないとかなり不味くなってしまうから、王には耐えて貰わないといけない。


 そんな事を考えつつ、もうこの国は崩壊寸前だと感じていた。

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