TS少女は幼女プレイをするようですよ(その3)
ポッキーゲームのように口から飛び出したソーセージを咥えた渚と向き合う。
俺らの両親が生まれる前から売られていたチョコ菓子と違ってソーセージは短いので、それを口で受け取るために、必然的に互いの顔が近くなる。
さて、そのお子様になった渚だが、目をキラキラ輝かせてたかと思えば、俺の顔が近づくと目を閉じやがった。
さらに時おり、ちらっ、ちらっと目を開けて確認してきやがる。
やめてくれ。それじゃホントにキスをするようだろうが。
「ん~」
ここまで渚を至近距離で見たことって無かったよな?
近づいて見れば見るほど、コイツの美貌がいかに規格外かを理解させられる。
油断してればその煌めきの中に引き寄せられ、ソーセージではなく唇そのものを性的な意味で食べたくなってくる。
そこをグッとこらえて数ミリ顔を近づけるが、俺の唇はソーセージにまだまだ届かない。
……ってコイツ、少しずつソーセージを自分の口に入れてやがる!
ソーセージの渚の口から出ている部分が短くなればなるほど、俺はより渚に接近しなければならない。
慌てた俺は彼我の距離がゼロになる前に、慌ててソーセージの先端を咥え、一気に引き抜いて自分の口内へ入れる。
「あー、残念。お兄ちゃんにとられちゃった」
イタズラがバレて残念がる子供の態度だが、それをミドルティーンの少女が行った場合、やたら小悪魔めいた印象を受ける。
渚の口から伸びた銀の糸が、アーチを作りながら俺の唇(の中のソーセージ)まで続いている様は、まるでディープキス直後のようでムラムラしてくる。
……いや、ディープキスなんてしたことないから、単なる想像なんだが。
「お兄ちゃん、渚の味はどうだった?」
「ふぉっふぉふぁふぇ」
感想を伝えるため、口に含んだソーセージを舌の上で転がし、付着していた“それ”を舐めとり味わう。
ソーセージを転がしたことで、俺と渚を繫いでいた唾液の糸が切れるのを勿体なく思ったが、そこをこらえて味覚に意識を集中させる。
ふむ。ほどよい粘度があって、渚が直前に食べてた食材の味が混ざってるはずなのに不快感は無く、それでいて甘さを感じて……ってコレ、ソーセージの味違う!
『渚の味』なんて紛らわしい言い方したから、ついシャレにならないモノをティスティングしちまったじゃねえか!
渚もそれを言うなら。正しくは“渚のソーセージの味”だろうがァ!
「お前、自覚が無いだろうがもう少しで重大な事故に繋がるところだったぞ、分かってんのか」
「? よくわかんないけどゴメンねお兄ちゃん」
渚の目ではなく、唇を見ながら注意する。
ああ、マズい。すごく美味しそうだ。
まるでさっきのアレに甘い麻薬でも仕込まれてたいたかのように、渚の味をもう一度味わいたくなってくる。
この少女もどきにソーセージを渡せば、もう1回同じことをやってくれるだろうか?
いや、いっそのこと直接唇を奪って舌をねじ込んでもいいかもしれない。
――ポタッ、ポタッ。
「ん……あれっ?」
「お、おい渚。お前鼻血が垂れてるぞ!」
その“赤”は、流されそうになっていた俺を我に戻してくれた。
夢から覚めたかのように、渚を貪ることしか考えてなかった“雄”の欲望が夢散していくのが分かる。
「ッ……ご、ゴメンねお兄ちゃん。ちょっと着替えてくる~」
「あ、ちょ……大丈夫かよ!?」
「ごちそうさま~」
行っちまった。
「それにしても、危なかったな」
一人になった食堂でボソリと漏らす。
さすがにガードが緩いどころか無防備な渚相手に欲情したら色々アウトだろ。
「っと、そうだ。今のうちにバァさんに電話かけとくか」
渚は嫌がったが、頭を打って幼児退行を起こしたうえで、さらに鼻血だ。
きちんと診てもらうべきだと思い、医師免許を持たない自称医者の番号をダイヤル。
そして、詳細を説明したのだが。
『アンタ等バカ兄妹のままごとに付き合う程、アタシゃヒマじゃないって言っただろ!』
「いや、何言ってるのか分からないよ。つーか渚は大丈夫なのか? ちゃんと元に戻るのか!?」
『アーアー、五月蠅いさねェ。気が済んだら元に戻るだろ!』
ガチャンと受話器を叩きつける音がスピーカーから聞こえてきて、通話が途切れる。
ったく、アレが医者の態度かよ。
「“気が済んだら”ってのがどういう意味かわからんが、あの様子じゃ渚を連れてっても門前払いくらうだけだな」
それに、腕だけはいいバァさんの態度を鑑みるに、渚の退行は問題なし。一時的な物とみるべきか。
それ自体は喜ぶべきことだけど、問題は俺の方だよなあ。
「男とか精神年齢とかはさておき、アイツの体は女の子なんだ。あんな調子で無邪気にこられたら、どこまで保つやら……」
さっさと飯食うか、それとも渚が戻ってくる前に一発抜いておくかなあ。
「やっちゃったやっちゃったやっちゃったやっちゃったやっちゃったよ」
自室に戻った渚は、食べ物と鼻血で濡れたブラウスとスカートを脱ぎ捨て、ベッドにダイブ。
アホ毛と八重歯が特徴的な少年がデフォルメされた抱き枕を抱えて、ゴロゴロと転げまわった。
見目麗しい少女が、ピンクのブラジャーとショーツという下着姿で悶えているにも関わらず、あまり色気を感じないのは、鼻に詰めたティッシュのせいだ。
「あーあ、興奮して鼻血さえ出してなければなあ」
兄一と至福のひと時を中断して逃げ出したのも、それが原因だ。
鼻血をティッシュで塞ぐということは、間の抜けた顔を兄一に晒すことになる。
兄一の気を引きたい渚にとって、それは許容できることではなかった。
……ちなみに、幼児のフリや汚い食べ方を見せつけるのはOKで、鼻ティッシュがNGというのは、あくまで渚の感性によるものでしかなかったりするが、それはさておき。
「だけど、方向性自体は悪くないよね。僕と間接キスした兄さんは、結構動揺してくれたみたいだし」
ただでさえ優しい兄のことだ。
頼ってくる幼児を拒むことはできず、いつもなら断固拒否する過剰接触も受け入れざるを得ないのだろう。
兄一を騙していることに負い目を感じるが、それでもなお“欲しい者“を手に入れようと邁進する様は、”女“として成長いることだが、当の渚にその自覚はない。
「よし、次は|このDVDの出番だね……そうだ、せっかく着替えるなら服もコレに変えて……」
次回予告:家族で団らん中にテレビドラマでベッドシーンが流れた場合の気まずさ。




