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TS少女は幼女プレイをするようですよ(その1)

ちょっと出かけるので早めの更新です。

いやー、記憶喪失って本当にあるもんなんだな。


金曜の夜に渚とテレビゲームをしていたはずなのに、目覚めたら火曜日の朝だったでござる。


しかも何故か、渚(♀)と同衾していたというオマケ付き。


着衣の乱れとか“栗の花のような臭い”は無かったから、一線を越えた訳じゃないだろうが、どうにも心臓に悪すぎる。


後で渚から話を聞いて、現状と照らし合わせてようやく記憶喪失だったことを受け入れたんだが、何で渚と同じベッドに寝ていたかは分からずじまいだった。


だってさ、その質問をしたとき、

『そうか、兄さんは記憶を失っていたときのことを覚えていないんだね』

って、安心したような残念だったような、何とも言えない表情を浮かべたんだが、その後がまずかった。


『あ、でもゲームをやった事までは覚えてるぞ。ホントお前汚いよな。3本目に“あんな告白”をして揺さぶってくるんだもんな』


って返しちまったもんだから、お互い気まずい雰囲気が再発しちまって、話がそこで終わったんだよ。


とまあそんな訳で、お互い色々と触れないことが暗黙の了解みたいになってしまった。






それからさらに時が経過すること3日。

金曜日の夕方にそれ(・・)は起こった。


『みぎゃああああ!』


湊音(みなと)家に突如響いた悲鳴と、何かが割れる音。


「今の声……渚か!?」


自室でくつろいでいた俺は、一も二もなく悲鳴の発信源――キッチンへと急行する。


そこで俺が見たものは、床に倒れた渚と割れた皿の破片だった。

どうやら夕食の支度をしている最中に、高いところに置いてあった皿が渚の脳天を直撃したらしい。


「おい、渚。大丈夫か!?」

「うーん、あ痛たたた……あっ、お兄ちゃん(・・・・・)()は大丈夫だよっ」






渚の使う一人称と二人称がいつもと違うことに違和感を覚えた俺は、リビングに移動して互いに向き合う。キッチンに居たままだと、割れた皿の破片で危ないしな。


「パッと見ケガは無いようだが、頭の方は大丈夫か?」

「うん、ちょっとだけ痛かったけど、へーきへーき」


おかしい。

いや、言葉だけ聞けば普通なんだが、そのイントネーションと言うか、声の高さと言うか妙に引っかかる。


身内に高評価をつけるのもしゃくだが、渚の喉から発せられるソプラノボイスは、天上の調べのように綺麗な音色で、一度カラオケに連れていかれたときは、『コイツ、男のくせに女性歌手の歌を綺麗に歌えるのかよ』なんて軽く嫉妬したほどだ。


しかし、今はその美声がやけに甘ったるいと言うか、幼く感じるんだ。


それに、体全体に纏った雰囲気とか空気も引っかかる。


例えば今の渚の恰好は、学校の女子制服(スカートとブラウス)の上にエプロンという、可愛らしさの中に混在する落ち着いた家庭的イメージの外見なんだが、それとは真逆・よく言えば闊達、悪く言えば落ち着きのない印象を受ける。


「あ! でもやっぱりちょっとだけ頭が痛いからなでなでして。渚ね、お兄ちゃんに頭を撫でてもらうの大好きなの!」

「……………」


姉さん、事件です……いや、ウチには姉なんていないけどさ。



「だからお前は幼稚園児じゃなく高校生なんだよ。ついでに言えば、お前は妹じゃなく弟。つまり男なんだってば」

「えー、でも渚にはおっぱいがついてるよ、ほら!」

「バ、バカやめろ! 見せなくていい!!」


エプロンを下げ、ブラウスのボタンを外して、丁度良いサイズの胸を見せようとする渚に対し、慌てて顔を背けることで視線を切る。


ラッキ……いや、クソッ。少しだけピンクのブラジャーが見えちまったじゃねえか。


「それに男の子のお股にはぶらんとした亀さんがついてるんでしょ? だけど渚は女の子だから亀さんなんてついてないもん」

「わ、分かった分かった。認める! お前は間違いなく女の子だから、スカートを脱ごうとしないでくれ!」


コイツの感覚だと男のシンボルは亀さんなのか。

俺にとっては象さんなのに。


どうにも信じがたいことだが、渚は頭を打った衝撃でおかしく……って言うと失礼だな。

ええと、幼児退行を起こしたらしい。


加えて、記憶の方にも致命的な障害がみられる。


一般常識等を司る意味記憶の方は問題ないようだが、個人的な体験などを司るエピソード記憶の方がエラーを起こしてるっぽい。


さっきのやりとりで十分に察しただろ?

渚は女性体で頭を打って我に返ったせいか、自分のことを生粋の女の子だと思い込んでるんだ。


加えて、渚自身が“能動的に”行ってる性別を変える方法を忘れているのも、“思い込み”に

拍車をかけている。


「と、とにかく病院へ行こう、な? えーと、あのバァさんの病院の番号は……あっ、こら返せ!」

「お電話ダメ! お兄ちゃんは渚ともっとお話しするの!」


渚は俺のガラケー(・・・・)を奪い取り、ぷくっと頬を膨らませる。

しっかり者と言った外見イメージの強い純和風の少女が幼子のようにむくれるというアンバランスさに、ついつい魅入られてしまう俺。


「ほら、そんなことよりご飯ができてるから一緒にたべよ?」

「あ、ああ……」


とまどう俺はグイグイ来る渚に促され、皿の破片を片付け食堂兼キッチンのテーブルへ。


とにかく色々混乱していたもんだから、渚の『よし、いい感じの導入だよ。この調子で僕が男だって意識できなくなるくらい無防備に甘えよう』という呟きが俺の耳に入ることはなかった。


食べさせ合いっこからの始動で、多種多様な幼児プレイのフルコンボを叩きこむッ!



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