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続・病院へ行こう

「プッ……クックッ……エヒャヒャヒャ。(ぼん)の精神年齢は3~5歳ってとこだわねェ」

「ずいぶんムラがありますね。ヨボヨボになるほど年を取りすぎると、2~3年ぐらいの年の差は気にならなくなるんですか?」


自分と兄の仲睦まじい触れ合いを笑われたことにイラッと来たが、ここで怒れば兄一が再び怯えると判断した渚は、チクリと嫌味を言うだけに留める。


基本的に人当たりの良い渚であるが、この闇医者他数人だけに対しては、あまりいい感情を抱いていないのだ。


「子育てなんざしたことない(ばば)に、幼児の精神年齢なんて分かる訳ないわな。それに、どうせ2~3日で元に戻るだろうからどうでもいいことさねェ」

「本当に数日で治るんですね? ……おー、よちよち。けーちゃんはいい子でちゅねー」

「あたしゃ患者には嘘は言わないさね」

患者には(・・・・)ですか? その言い方だと……」

「お姉ちゃん、おしっこ~」

「ゴメンね、すぐトイレに連れていくからね。そうだ! 帰りにオムツ買って帰ろうか? ……その言い方だと、付き添いに対しては嘘をつくように聞こえますよ」

「オムツやだー」

「じゃあ、お姉ちゃんがしーしーを手伝ってあげるわね」

「……はぁ。用が済んだなら払うモノ払ってとっとと帰んな。こっちゃ色ボケ“兄妹”の幼児プレイに付き合うほど暇じゃないんだ」


老婆は呆れた顔で手を伸べてくる。

その手がプルプル震えてるのは年のせいか、あるいは体から漂うアルコール臭……もっと言えば単なる酒臭さ故か。


「……先生。この病院もどき(・・・)は患者の秘密や個人情報には関与しないんじゃなかったんですか? ()たちの関係性を嗅ぎまわったんですか?」


かつて魔王すらひるませたほどの殺気を叩きつける渚。

しかし老婆はどこ吹く風。皺だらけの顔を愉しそうにくしゃりと歪ませただけだ。


「嬢ちゃんはさっき(ぼん)のことを『兄さん』と言いかけてから『兄一(けいいち)さん』と呼び直してたろ?」

「……カマをかけた訳ですか」


これだから、この老婆は好きになれない。

いや、もっと厳密に表すなら苦手だと言うべきか。


「それに、あたしゃ確かに患者の秘密は絶対誰にも漏らさないが、患者の秘密を知ること自体には積極的だからねェ」


患者の困惑・苦痛顔写真の収集と同様、棺桶に片足を突っ込んでる婆の、墓場の中まで持って行く数少ない趣味さね、とおどける老婆。


「どうせなら、残ったもう片方の足も棺桶に入れてあげましょうか?」

「びえええええええええん!」

「ご、ごめんねけーちゃん。お姉ちゃん怒ってないからね。悪いのはけーちゃんじゃなく、あのオババだからね」


漏れ出た殺気に反応し、怯える兄一を見て渚は我に返る。

彼はさっきからおしっこを我慢しているはずなので、あまり怖がらせれば漏らしてしまうかもしれない。


(……それはそれで、そそるよね)


一瞬。

ほんの一瞬だけ、無垢な兄一に失禁させ、それを自分で拭き取りたいという黒い感情が鎌首をもたげる。

ゾクゾクとした何かが上ってきて背筋を震わせたが、老婆の冷めたような・見透かしたような視線を浴びて咳払いひとつ。


「コホン……ではありがとうございました。支払いはこれでお願いします」


渚は兄一に見えないよう、ずっと手を伸ばし続けていた老婆の掌に宝石を乗せる。

もちろん向こうの世界(・・・・・・)で手に入れたものだ。


現代日本において、いち高校生という立場では換金に困る貴金属類だが、こういう所(・・・・・)での支払いには訳に立つのだ。




診察室を出た後、兄一に連れ添って病院のトイレに入った渚は、これからのことを考えていた。


現状、自宅で暮らしているのは渚と兄一のみ。つまりは夫婦……ではなく兄妹水入らずの二人暮らしだ。


いまの兄一の精神年齢は著しく低いため、常に自分の目の届く範囲に置かなければいけない。


――カチャカチャ。ゴソゴソ。ポロン。


食事はもちろん、風呂も、就寝も、そしていまのようにトイレも、この体の大きな子供は一人でできないだろう。


つまり、すべて渚が世話をしなければ兄一は生きていけないのだ。


――チョロロロロ。


「それって、僕が兄さんの“すべて”を握ってるってことだよね?」


この人は自分がいなければダメなんだという、共依存にも似た感情が芽生えはじめる。


――ピッピッ。ジーッ。カチャカチャ。


「お姉ちゃん、終わったよ」


その危険な感情を断ち切ったのは、兄一の言葉だった。

彼は渚が軽くトリップしている間に用を足し終えていたのだ。


「え? けーちゃん一人でおしっこできたの!?」

「うん、何となくでやったらできちゃった」


どうやら兄一の“体“が用足しの手順を覚えていたらしい。

渚は自分の手を煩わせずに済んだことに、ホッとするより残念な気持ちを抱いてしまう。


と、兄一がまるで何かを要求するようにニコニコ笑って、軽く体を振るのに気付いた渚は、そのアホ毛の生えた頭を撫でる。


「けーちゃん、よく一人でおしっこできたわね。偉い偉い」

「えへへ~。僕がんばったよ」


この純真無垢な笑顔を見ていると、(よこしま)な考えが浄化されていくようだ。


「じゃあお姉ちゃんとおてて繫いで帰ろうか? 夜道は暗いけど大丈夫? 怖くない?」

「う……こ、怖いけど大丈夫! だって怖がってたら、もしオバケとか出てきてもお姉ちゃんを守れないもん」


まあ、いいか。

色々と思うところがあるものの、兄一が元に戻るまで()健全にやり過ごそう。


それに、下心の有無に関わらず、幼児退行した兄一の世話をする経験は、きっと自分の大きな糧になるだろう。


この兄一に勝るとも劣らないほど可愛らしく、そしてちょっとおバカな女の子を産んで育てるときの糧に。


そして、兄一が元に戻った後、(じぶん)が幼児退行を起こしたフリをして、甘える(からかう)ための糧に。


プロットを作らず勢いに任せて書いている弊害で、話が当初のコンセプトからずれて迷走気味に。


今の展開を楽しんでる方には申し訳ありませんが、ちょっと強引に軌道修正して初期のようなコンセプトに戻したいと思います。


つまり何を言いたいかと言うと、「精神面だけ幼女のフリをしたTS美少女に甘えられるエピソードを書きたくなりました」


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