怪物は如何に封印されたのか
「ナマリです、黒金 鉛。覚えました? 先輩」
「先輩を一発殴っておいて、随分だな」
「そりゃあ殴りたくもなります」
「まぁ、それくらい元気がある方が良いな。と言うか名前知ってるし。さて、改めて研修の続きとするか」
「あーー、あの流れわざとだったんですね……」
先輩は手に持ったバインダーをナマリにチラつかせながらキビキビ歩き出す。
「一応先輩である前に私の教官でもありますもんね。そりゃあデータも持ってますよね。
しかし、凄いですね。伝説と言うか、有名と言うか、あの怪物が封印されてる場所の封印状況の確認なんて」
慌てて先輩の後を追いながら、渡された資料を読み返す。
400年前辺りから世界を騒がせた一角。本気を出せば世界を滅ぼせる存在。人間だったらしいが今は人外の怪物。血を喰らう鬼、吸血鬼。
殺した人間の数は記録で見ても億を超えるとか。だがそんな怪物も封印されたと言う。
「と言うか……、此処に封印されてるの本当にその吸血鬼なんですか?」
ナマリの素朴な疑問の声に先を歩く先輩が振り向いた。
「ほう、何故そう思う?」
「誰も手が付けられないほどの怪物ですよ? そんな怪物、封印出来るものなのかなーーって」
「不可能では無いだろ? 例えばだが、封印したのがその吸血鬼と同じ怪物クラスの力を持ってれば可能だろう。それに一対一とは限らない。何十人で封印に挑んだってことも考えられるだろう」
「確かにそうですけど……、いざ実際にそんな怪物が封印されてる所に対面すると思うと実感が湧かないですね」
先輩の問いに現実味が湧かないナマリ。と言うのも今までそんな怪物、化物と呼ばれる存在と今まで疎遠だったからと言うのもある。ある日突然平凡な暮らしから急に有名人の付人として過ごすように言われるようなもんと言えば良いのか。そんな浮わついた感覚がまだ残っていた。
「気持ちは分からんでも無いがその内慣れるだろう。さて、そろそろ着くぞ」
長い廊下みたいな通路を抜け、気が付けば大広間みたいな場所に着いていた。
先輩は足を止めず広間の奥へ足を進めるが、ナマリはその広さに驚き一度足を止めると、辺りを見渡して観光用のパンフレットを見るかのように資料に目を通す。
資料によれば大広間の奥辺りに巨大な封印用の祭壇があり、そこに巨大な十字架が突き刺さっているそうだ。吸血鬼はその十字架の根元に頑丈に封をされた棺桶に入れられた状態で埋まってると書かれている。
「…………なんだこれは?」
突然の先輩の言葉に視線を資料から先輩の方に向けるナマリ。しかし、ナマリは先輩よりも視線の先で気になったことがあった。
資料に書いてあった祭壇の十字架が見当たらなかったのだ。