第6話 ブサメン勇者に会う。(上)
安全を確認した1階の倉庫にて《時間停止解除》!
「わっ! 本当に瞬間移動した!」
妖精が周りを見ながら興奮している。
「ここに荷物を隠してたので、ちょっと待ってくださいね」
と、ぼくはてきぱきと荷物を整理していく。
実は10階に目ぼしいアイテムがとても多くて、《時間停止》中に6往復もしていた。
入口付近にあった木箱の中に、鞘にウネウネとした銀の文字が書かれている赤い剣が、どう見ても魔剣っぽいぞと思い全て持ってきちゃったのと、魔法陣の描かれてる皮の巻物が部屋のあちこちから出てきたのと、銀貨・金貨が結構あったからである。
ちなみに大量の銅貨や乾燥した薬草・ポーション類は、効果も不明なため置いてきた。
鎧、盾、高級そうな酒ははじめからパス。
でも、それにしても多い……。
ああ、“アイテム”という名の無限に入る袋が欲しい。
1階までおろしたものの持っていけそうもない物は、取りあえずモンスターが使用していなかった厨房に隠しておいて、機会があれば取りに来よう。
置いておく物を整理し次は持っていく物だ。
マントを風呂敷として使い、アイテムを包んで背負う。金貨と銀貨の入ったポーチを腰に2個。右手には衣服に包んだ水晶球。左手には妖精の籠と。よし! 完璧。
「お待たせしました。えっと、向こうに…」
魔法を見たので行きましょうか? と言う前に、
「あ、勇者様の気を近くに感じます!」
眉間に皺を寄せ、ベットの中に入ったままの妖精が言い出した。
「え!? 勇者っているの?」
「いますよ! 何を言ってるんですか。勇者様を知らない人がいたなんて驚きです。わたしの事も知らないと思いますが、わたしは勇者様と一緒に旅をしてる伝説の妖精ですよ。」
あれ? 伝説のって多くない?
登場した割合でいって多いよね?
「きっと勇者様がわたしを助けに来てくれたんだと思います! 早く外に行きましょう!」
ふと疑問に思ったので妖精に聞いてみた
「あの、盛り上がってるとこすみません。勇者がいるってことは魔王もいるんです…よね?」
「ええーっ!?」
何やら妖精は興奮しているが、妖精を捕まえていたってことは、ここは魔王軍の塔だよね……。
めっちゃ盗んでるですけど大丈夫かな? いや、その前に事故とはいえ偉そうな方も落としちゃってるよね……、
「もう! なにを考え込んでるんですか? 早く勇者様のとこに行きましょう!」
行きましょうと言われても外はモンスターがいて《時間停止》しないと危ないし、妖精には瞬間移動って事になってるし、どう行動するのがいいんだ……、
「とりあえずぼく一人で外を見てきますね」
荷物を置いて、《時間停止》!
ピタ!
やや強引だが、こうするしかない。妖精の口が「え!?」って形で止まってるけど、仕方がないよね。
外に出る。
うわー、久しぶり! やっぱり外いいね。解放感がある。
塔の階段をモンスターが結構駆け上がっていたので、入口付近にはマッチョの石像以外は誰もいない。
よし! 勇者を探そう。
恐らく塔の上から見たエフェクトは、妖精が言ってた勇者かモンスターかが使った魔法の可能性が高いのでそちらに向かうのが妥当だよね。
えっと、方向としては、ぼくが塔に来たのと真逆なので、塔をぐるりと回る。
「おふう…」
不慮の事故で落下した黒ヒョウを完全に忘れていたよ。
リザードマンが数匹で黒ヒョウを抱え上げて運んでいる現場だった。なんだかアリが巣に持ち帰ってるようにも見えるが、やっぱり供養するんだろうな……。
不運な最期を遂げた黒ヒョウに手を合わす。南無阿弥陀仏……。
エフェクト見たのこの辺なんだよなーと思いつつ勇者を探すも全然見つからない。
……あ、しまった!
外見を聞いていなかった。イメージの中のザ・勇者で探してたけど、人間じゃなくてちっこい妖精かもしれないんだよね。
うわー、結構歩いてきたけど、Uターンか。
「引き返して妖精に聞こう……」
振り返って小さくなった塔を見ながらため息をつく。
「どうせなら違う道から帰ろう」
わざと森の中を掻き分けて進む。
居たーーー!
おそらくカモフラージュの暗い緑色のフードの付いたコートを着た人物が8人。中腰で2人ずつ4列で進んでいた。
草原歩いてたから全然気づかなかった。森来て正解! てっきり勇者1人かと思ってたけど、あんなにわんさかモンスターがいるからそんなわけないよね。
隊列の横から見つけたので取りあえず正面へと向かう。
最前列2人は2m近くあるガタイの良い戦士男と、170cmないくらいの男だった。ちなみにぼくがギリ170cmなので、ちょい下くらいだな。フードの下の顔を見ると東洋人、というか日本人だよね。
戦士の顔には細かい傷跡があり、あごもガッシリといかにも屈強なタイプ。ちなみにイケメン。
大きな鳥の紋章の入った鉄の盾と、対のような剣を構えながら右横を警戒しているようだ。甲に金色で魔法陣が描かれている手袋をはめている。コートの下はチェインメイルを着ていて、首からは形の異なるお守りのような物を3個ぶら下げている。
隣の170ない男はひげ以外あまり特徴のないフツメンだ。
コートの下には黒い革の鎧を着ていて、右手には黒い刀身のショートソード。黒い革の手袋は黄色で魔法陣が描かれている。
コート以外は全身黒で、なるべく音を立てないような歩き方に見て取れたので、いわゆるシーフなのかもしれない。
その後ろの列も身長差のあるペアだと思ったら男女だった。女のほうは下を向いてるため顔は見えない。先に男から、
「え! うめしゅん!?」
うめしゅんというニックネームで呼ばれてる大人気男性アイドルグループの一員・梅本俊がいた。額にいかにも勇者がしてそうな銀のサークレットをしており、その中央には真紅の宝石が嵌まっている。
「は!? 何で!? 撮影?」
カメラなんて無いだろうとは思ってみても、ついきょろきょろしてしまったが当然そんな物は無い。
そんな物は無いのだが、完全にここだけ見ると映画の撮影だ。中に着ている鋼の鎧も相当凝っているので、製作費もかなりの大作だ。
いや、もしくはゲームのCM撮影かも? と念のため再びきょろきょろするも意味がない。
本当に本人なのかな? と、よく見るとテレビで見るより明らかに首が太く、見るからに筋肉もついている。あごの右側には2cm近くある古い刀傷もあった。
テレビではこんな傷痕は見たことがないので、一応特殊メイクも疑って爪でちょいちょいと触るってみたが傷は本物のようだ。
辺りを伺っている眼光の鋭さから言っても、平時の日本のアイドルとはとても思えない。
恐ろしい偶然でたまたま似てるのか、もしくはパラレルワールド的な? モンスターがいて魔法のある日本。
ううーん、ありえるのか? でも、神様が出てきて、時間停止が出来る時点で「あり」な世界だよね。
あ、飛ばされた地点ってぼくが隕石にぶつかった交差点なのかもしれないな。
…などと色々と考えながら、少しかがんでうめしゅんの隣の女性の顔を覗く。
「は、春川あやな!?」
今度はコートの下に白い法衣を着た、Fカップでも有名な国民的人気女優がいた。
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