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第5話 ブサメン初めて会話す。

 初めて服を脱がす相手はかわいい女の子がいいなと願っていたぼくが、マントとはいえ2本足で立つ黒ヒョウを脱がすことになるなんて…。

 あー、はいはい、フロントホックタイプね。


 前に回り込む。

 それにしても、この黒ヒョウの剣士はキャラが立っていてカッコイイ。

 身長が2mを超えており、あごに白い毛がひげのように生えている。オシャレひげみたいで渋くてカッコイイ。

 サーベルも2本差しているところを見ると二刀流だ。カッコイイ。口にもう一本咥えたら尚カッコイイ。

 後ろからは分からなかったが、左目に黒い革の眼帯をしていた。いわゆる隻眼せきがんの剣士だ。カッコイイ。

 そんなカッコイイ尽くめの剣士が、前に乗り出して一体何を見てるんだろうと気になったので目線を追う。


「ん? 黄色の光?」


 森の木々の間から黄色の光が見えた。ゲームで見る魔法のエフェクトにも見えるので、おそらく魔法だ。ここは魔法の世界だから、きっとそうに違いない。

 ひょっとして生の冒険者とモンスターがあそこで戦っているのかもしれない。あるいはモンスター同士のケンカかも。どちらにせよ、あとから絶対行ってみよう。


 それより先に近くにあるマントだ。どこか1か所が引っかかり、なかなか取れない。手が届けばいいのだが、身長差があるためマントをビンビン引っ張るしかない。全然無理だ。いい加減イライラする。


「むー…」


 仕方がない。腕の力だけでなく体重をのっけて引っ張ろう。

 後ろに回り「失礼」とばかりに剣士の尻を蹴る形で「せーの、ふんっ!」


 ビリッ!


 取れたっ! と思う間もなく均衡していた力がなくなり、ふわっと体が宙に浮く。凄い勢いで尻餅を着いた。ぎゃっ! あまりの痛さに目をむく。絶対お尻が2つに割れた! いや元からだ、なんてバカなことを思っていたら、目の前にある窓の外から悲鳴が聞こえた。


「ウガアアアアアァァァァァー……」


 逆さまになったふくらはぎから下だけが見え、「ブーツだ」と認識した瞬間、窓枠から消えた。

 え! やばい! 黒ヒョウの剣士を蹴落としてしまったぞ。

 あれ? でも、停止してたはずなのに動いてる! なんでだ?


 いやいやいや。それより落ちた黒ヒョウだ。あわてて立ち上がり、おそるおそる窓の下を見る。


「うわ…首が…」


 幸いなことに地面が土で、サスペンスなどで見る出血こそなかったが、頭から落ちたため首の向きが非常に残念なことになっていた。殺意はなかったから過失だよね。


 見るからに痛ましい黒ヒョウの周りに、モンスターの野次馬たちが集まってくる。そのうちの一匹のリザードマンが見上げた。

 ヤバッ!? 慌てて身を引く。うっ、見られたかな?

 机に何気なく置いた手の先に目がいく、色々な書類が乱雑にあり、灰色の布を被せられた鳥かごが乗っていた。

 あれ、こんなのあったっけ? マントに夢中になってて気付かなかったみたいだ。


 布を取ると、かごの真ん中に小さなベットがある。シルバニアファミリーの家具を思い出した。

 その布団から、ちっこい白い手と、整った顔を出してる女の子と目が合った。耳が尖っており、目がアーモンドの形をしていて瞳の色はきれいな青だった。

 中から何の音もしてなかったので、てっきり空っぽと思っていたので存在に驚いた。


「よ、妖精!?」


 一瞬エルフと迷ったがサイズで考えたら妖精だろう。こちらを驚愕の表情で見ていた妖精がわなわなと口を開ける。


「オーク!?」

「…オークじゃねえわ!!」


 思わず全力でツッコミを入れた。



 階段を駆け上がる足音が複数聞こえてくる。

 怪しいのがいるってバレたのか!? ヤバいよヤバいよ。妖精との会話は一旦中止して、取りあえず鍵をかけよう《時間停止》! 世界が活動を止め無音となる。


 さっきは勝手に動いてたので取りあえず止まってホッとした。

 さて、鍵を閉めに行こう。

 手にした戦利品兼、遺品となってしまったマントを話しながらグルグル巻きにしていたので脇に抱える。

 尻餅をついたとき勝手に《時間停止解除》となったが、原因は何だったのだろう?

 驚いたのが原因か、尻餅のダメージか、両方か…敵の真ん中で解除されたら危険この上ない。これは早いうちに安全な場所で試さないといけないな、そう考えながら鍵をかけたとこで《時間停止解除》。


 振り返って妖精のとこに戻る。

 実はこのかごは妖精の寝室のようで、寝てるうちに灰色の布を被され連れ去られたのだという。ちなみに、灰色の布の裏側に魔方陣が描かれていて、これにより外と内の音が遮断されてたらしい。おそらく尻餅をついた衝撃だと思うが、「先ほど地震がありましたよね?」と聞かれて「ええ…」としか答えられなかった。


「…しゅ、しゅ、瞬間移動!? しかも、無詠唱!?」


 大きな目をして、口をパクパクしてると思ったら妖精に超能力見せちゃっていた。それで驚いていたのか。金魚の真似?と聞かなくてよかった。

 うっかりしてた。こういう凡ミスは気をつけないといけないな。 

 でも、瞬間移動と間違えてくれているみたいだ。一瞬で移動したのだから確かにそう思っても不思議じゃない。漫画とかなら自分の特殊能力は他人に言わないほうがよかったというパターンが多いから、ここは訂正せずに瞬間移動にしておこう。


「ええ、まぁ」

「本物を見るのは初めてだけど…、その魔法が使えるということは、伝説の魔法使いの子孫ですか?」


 伝説の魔法使いの子孫、何その素敵ワード!

 織田信長の子孫です! ってくらい魅力的なんですが。

 そうですと言いたい。もしくは、「フッ。バレちゃいました」や、「よく御存じで」もカッコイイ。

 まぁでも、伝説の魔法使いの名前も知らないから、すぐバレちゃうよね。


「いえいえ。違います」


 と手をパタパタさせ否定してる最中に、


ドン!

ダンダンダン!


 外から扉を引っ張って開かないと分かると叩き出した。おそらく黒ヒョウの剣士たちだ。

「ひゃっ!?」


 妖精がドラマに出てくる借金取りのごとく激しく扉を叩く音に驚いてる。ガウガウ吠えてるのが「部屋にいるのは分かってるんだぞ!」と聞こえてくるから不思議だ。

《時間停止》! ふう、一旦落ち着こう。“まだ慌てるような時間じゃない”という言葉が頭に浮かぶ中、これからの行動を考える。よし、これでいこう。

 《時間停止解除》! あわわわ…言ってる妖精に、


「ぼくは逃げますが、あなたはどうします?」


 今が好機のようで一緒に逃げた方がいいのだが、念のために聞いてみる。ブサメンに助けられるのは嫌だ! という意見も大いにあるからだ。


「わたしも連れて行ってください!」


 よかった強固なブサメン否定派じゃないようだ。


「できたら、かごは置いてきたいのですが…」


 戦利品を持って帰るにあたり、正直このかごの大きさはかさばる。しかし、考えてみたら彼女は出会ってから1度もベットから出てこない、ひょっとしたら病に臥せっているのかもしれない。健康優良児そのものだったぼくは自分の至らなさに恥ずかしくなる。


「! …待ってください! かご、というかベットから出られません。どうか、このままで助けてください。それと、あそこの赤黒い水晶球も持ってください!」


 やはり、病気なのだ。妖精が指をぴっとさしてる方向を見ると、確かに棒状の台の上にテニスボール大のそれが乗っていた。水晶球の中には赤と黒がマーブル状で蠢いている。


「なんか空と同じですね…」

「早く!」


 おお、そうだそうだ。

 扉のほうは叩いても反応がないと分かるや、次は破壊しようとガツンガツンと剣かなにかでどついている。直に破られそうだ。


「分かりました」


 と赤黒い水晶球に手を伸ばすが…禍々しいけど触っても大丈夫? 不安に感じ妖精に振り返ると、


「触っても大丈夫です! 多分…」


 う…。マント越しに水晶球を取り、空いてる左手でかごの取っ手を持つ。


「では、行きますよ」

「はい。お願いします」


《時間停止》! よし、時間が止まった。


「さてと」 


 静寂の中、とりあえず机の上に手荷物を置き、まだちゃんと見ていないこの部屋を物色し始める。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

塔から出れませんでした。次回こそは。


次回「ブサメン勇者に会う」です

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