第12話 ブサメン村に行く。
走る勇者達と、馬を取りに行き勇者の元に馳せ参じようとしている二人の盗賊との間に、突然ぼくが出現……したように見える。
ああ、目測した距離がぴったり! ほぼ同時にぼくの近くに人が集う。
盗賊が馬から下り跪く。
「何で居るの?」という顔を勇者であるうめしゅんが一瞬ぼくに見せ、どちらに話しかけようかと躊躇してるのを感じたので、ぼくは盗賊のほうに掌を出す。どうぞどうぞ。
その仕草を見て、うめしゅんは盗賊へと向く。
「二人ともご苦労でした」
うめしゅんが盗賊達を労い跪いてる2人の盗賊が「はっ!」と答える。
「なかなか良い馬だな。しかし、ナルシニからの往復にしては随分早いが」
戦士が馬を眺めながら盗賊たちに問い、顔のシュッとした方が顔をあげる。
「別働隊に狼煙を上げた後、国境沿いを通りましたら、魔物除けした小さな村を発見し、そこの村人から買い上げました」
え? 村あるの!
宿屋が存在したら、部屋を借りて隠してあるアイテムを移して、もう1回塔に取りに行くのも可能だよね。宿屋がなければ空いてる小屋でもなんでも借りればいいし。
国境沿いとか言ってたけど、分かるかな……。あ、馬の足跡を辿ればいいんだ。
それにしても、お腹が空いてきたな。お昼食べてないから……リンゴを持って来れば良かったかも。村に食堂があったらいいな~。
「村人は東はずれの北の領地の村だと言ってましたが、遠くから警戒する佇まいや、村を囲む堀や柵、魔法壁などとても普通の村とは考えられません」
髭の盗賊が話している。
考え事をしている間に会話がどんどん進んでいたようだ。魔法壁ってイメージするとバリアみたいなものなのかな。
警備の厳重な村らしいので倉庫としてはバッチリだね。
シュッとした盗賊が戦士に聞く。
「別働隊からの狼煙も確認しましたので、合流するまで一時村に非難しましょうか?」
「いや。水晶球があるから村に迷惑がかかる。北の領地の村というなら尚更だな。狼煙で確認が取れているなら、こちらからハールス隊に向かったほうがいいな」
戦士が答え、うめしゅんを見る。思慮深い表情が浮かぶうめしゅんが「そうですね。そうしましょう」と言い、盗賊から渡された馬に颯爽と跨る。
……おお、カッコいい! 映画みたい!
皆もそれに続く。
ええ、モデルも馬に乗れるの? というか、鞍が着いていない馬に乗るときって、鬣をあんなに鷲掴みにするのに驚いた。毟る勢いだよね。
シュッとした盗賊が戦士に「キシャエル様達に馬を渡しに行ってきます」と言い、「ああ」と戦士が頷く。
そんなやりとりを眺めていたら、うめしゅんがぼくに「乗らないのですか?」と聞いてきた。
ぼくにも馬を用意してくれてるんだと嬉しくて感動したのだが、そんな自転車感覚みたいに乗れるわけがない。
しかし、乗れません言うのは恥ずかしいので、
「とてもありがたいのですが、私には魔法がありますから……あ、それよりも」
ようやく、うめしゅんに塔の出来事を伝えれるよ。だいぶ人物名など忘れちゃったけど。
ぼくからの報告を聞いた勇者が戦士を見る。
「確かに驚きだ。まさか魔族が捕虜をとるなど……」
「餌、でしょうか?」
勇者が自分の考えを述べる。
ええーっ!? あのおっちゃんたちを食べられるの? 魔物怖っ!
「人の肉を好む魔物の記録もあるが……もう少し情報が欲しいな」
戦士がモデルを見る。
「何か手はないか?」
ふよふよ浮いてる妖精を聞き役として貸していただきたいのだが、みんながモデルを見ているので、今は声を挙げづらいよね。
手はないですってモデルが答えたら進言しようかな。と考えていたら、モデルはあるにはありますとひとつ前置きしてから、
「『使い魔』が最適かと思いますが、そのためには私の魔晶石だけでは不安なので皆さんのもお借りしたいのと、意識を飛ばしている私を支えていただかなければなりません」
「魔晶石は問題ないが……」
戦士が考えていると、何かに気付いた勇者が塔の方角を見ながら「それでいきましょう」と言った。
皆が勇者の視線を追うと、馬に乗って向かって来る春川あやなたちが見えた。
モデルが懐から魔法陣の描かれた羊皮紙を取り出し、ぶつぶつと詠唱する。
魔法陣が緑色に輝き、若葉色の羽を持つ小さな蝶が現れた。イリュージョン! と思っていると、役目を終えた羊皮紙が砂のようにさらさらと消える。
馬上のモデルがくたっとなり、二人乗りしていた春川あやなに体をあずける。
「申し訳ございません、キシャエル様。宜しくお願いいたします」
蝶からモデルの声がして春川あやなに謝辞を述べる。
「聖大地母神様の名に懸けてお守りしますのでご安心ください」
前で眠るように瞼を閉じてるモデルと蝶とを交互に見ながら春川あやなは力強く言い、一転して「それより、くれぐれもお気をつけてください」と優しく言った。
小さく笑ったモデルは素直に「はい」と答える。
「魔法使い殿。それでは向こうで」
と言い残し、塔へ羽ばたいていく。ぼくのことだと気づき慌てて「はい」と返事をしたが聞こえたかな?
「では、行きましょうか」
先に勇者と戦士と髭の盗賊の3人が出発しているので、部長顔をした神官が皆を促し、蝶とは逆の方向へと馬を駆け出す。
一人残されたぼくは“馬って結構、砂埃を舞い上げるんだね”と思いながら《時間停止》!
目の前の砂埃が停止したのを見ながら考える。
ヒラヒラと舞う蝶の速度では塔に到着するまで割と時間があるし、先回りして待ってるよりも先程話題に上った村に行って食べ物を買おう。
時間を止めたらいいが、普通の状態だと喉の渇きと空腹感で結構やばい。弁当を食べてから隕石に当たればよかった……と思っても仕方がないので、早速春川あやなたちを追い抜いてこちらに向かって付いている蹄の跡を辿ることにした。
モンスターから手に入れた金貨や銀貨だけど、価値は同じはずだから売ってくれるよね。
「ここか」
白くて縦に長い大きな鳥が、夏みかんくらいあるてんとう虫型の昆虫を捕食してる姿を見たあと、密集した林に入口を隠すようなノイズがあり、それを抜けた先に例の村へと出ることが出来た。
蹄の跡を辿らなければ、絶対に見つかりっこなかったと思う。盗賊の人たちはよく見つけたものだ。
盗賊は村と呼んでいたが、傷のある柵がいくつも立っており、堀や高い壁など戦国時代劇に出てきそうな砦であった。
ドーム状に黄色っぽい光が全体を覆っているのが、バリアこと魔法壁だろう。小石を投げ防がれるのかを見たかったが今は止めておこう。
村を囲む壁に間隔をあけて簡易な屋根がついていて、見張り役だと思う頭だけがいくつも出ている。時間を止めてて動かないので、生首が置かれているようにも見え、ちょっとしたホラーだ。
さて、時間停止を解除して声をかけようかな。
鉄で補強された頑丈そうな扉の正面の見張りには顎鬚ともみあげがくっついてる鬼瓦のような顔をしたおっちゃんだった。
怒鳴られたり攻撃されたりしそうなので、この人より優しそうな人を探そう。
迂回しながら見て行く。
坊主頭だけどあれって女性かな?
男性ならかなり中性的な顔立ちだけど、一番優しそうなのであの人に声をかけよう。《時間停止解除》!
「わ!? ひ、人!?」
声をかける前に気付かれ、顔の割に低めの声で驚かれた。あ、男性なんだ。
「……あなた今、突然現れたわよね?」
ぼくが答える間もなく、
「ちょっと、あなたジッとしてなさいよ! ほら見えるでしょ。わたし、魔法が使えるんだからね。変な動きしたら痛いの飛ばすわよ」
え! おネエなの?
先端に青い石を括り付けた棒を威嚇で見せつけるように掲げる。
「ザトラー、たいへーん。早く来てちょうだーい」
坊主頭のおネエがぼくを見たまま仲間を呼ぶ。「今日は次々と何か起こるな」と言いながら呼ばれたのは鬼瓦……って、結局この人が来るんなら選んだ意味ないよね。
「あの人が突然現れたんだけど?」
「そんな馬鹿なことがあるか! ちゃんと見張ってたのか? おおかたさっきの男たちのことでも考えてたんだろ」
「ちょっ、馬鹿じゃないの! わたしはロッジ一筋なんだから!」
さっきの男たちはおそらく盗賊のことだと思うけど、なんだこのやりとり……。
「おい、ザトラー。俺も見たぞ。瞬きした瞬間に現れた」
見た目でぼくがスルーした目の下に青い隈のある痩せた男も会話に加わる。
「ほら~。わたしはちゃあーんと見張ってましたー。ねー、ミグミグ」
「ああ、もう分かった。ミグルが言うんなら信じてやろう」
「ええー? なにそれー!?」
どんだけ~! が飛び出てきそうな雰囲気と、このままでは食べ物がなかなか手に入らない気がしたので、こちらから声をかけよう。
「あの~、お取込み中のところすみません。先ほどこちらで馬を購入した人っていましたよね?」
3人が驚いた顔でぼくを見る。もしかして忘れられてた?
「えっと、ぼくはその人達の仲間でして、食べ物と、水でもいいので何か飲み物を戴きたいのですが……あ、もちろんお金はありますので、購入します」
言いながら銀貨の入ったポーチを少し持ち上げる。ぼくの話を聞いた3人が何やらこそこそ話し出す。
「君は商人か?」
「いいえ。違います」
鬼瓦が聞いてきたので答える。食料の買い付けに来たと思われたのかな?
「あ、欲しいのはぼく一人分だけです」
鬼瓦が分かったと手を挙げ、ミグミグと呼ばれていた目の下に隈のある男と二言くらいに話して、ミグミグの頭が消える。さらに援軍を呼びに行ったのかな? なんか不安だ。
「ねえねえ、あんた。さっきの馬を買った人と知り合いでしょ? あの2人ここにまた来るの?」
おネエが話しかけてきたが、鬼瓦が遮るように大きな声を出す。
「ああ、もうお前は黙ってろ。食べ物のことだが、上の者を呼びに行ったのでしばらくそこで待っててくれ」
ミグミグが呼びに行ったのか。
「分かりました」
なるべく早くしてほしいなと呻くように鳴いたお腹をさすりながら思った。
読んでいただきありがとうございます。
お腹が空いたので、塔の前に村へと向かいました。
次回も村が続きます。