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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

男と彼女の世界

作者: 天音

四畳半の狭く汚い一室の隅。

そこに凡庸な男が佇んでいた。

特別、心身を鍛えているわけでもなければ才能に充ち満ちているわけでも無い。

言わば多少知能がある程度の只の動物である。

だが、そんな男にも一つの趣味を持ち得ていた。

今はもう何も語る事の無い彼女。

語る事は無かれど命は消えず残っているのか、体内からの脈動を感じる事は出来たし、時折口から「ゴフッ」と息と共に唾液が口の端から垂れるのが伺い知れた。

男は思わず顔を歪ませる。

それはまるで殺人鬼か変質者か。

先程例えた凡庸さ等という言葉では語り尽くせないような異常さ。

しかし、異常と言う概念は普遍的な物事が周りに蔓延しているからこそ成り立つ言葉。

この空間において、所謂正常的普遍性など皆無に近かった。

異常こそが正常。

正常は異常となり得る。


男はゆっくりと、まるでナメクジが花弁を這うかの如く、彼女の頬に触れた。

瞬間、ピクリと彼女の頬が引き攣り軽く後ずさる。

しかし、この空間から逃れる事は出来ない。

男にとって、そして彼女にとっての世界とはこの空間だけを指し示す。

男は熱い吐息を漏らしながら尚も彼女に近づく。

頬を辿り、鼻に触れ。

そして耳を探り、首筋へと至る。

暴力的な一面は一切見せず、あくまでも優しく優しく。

男は自身の鼻を彼女の髪へと近づけさせる。

まるで可憐な花に惹かれるミツバチの様に。

近づけば近づく程、認識せざるを得なくなる。

そう。

彼女はこんな泥にまみれたような空間にはあまりにも相応しく無い姿見をしていた。

肌は真雪のように白く、髪は黒檀のように黒い。

唇は血潮のように赤い。

だからこそ映える。

こんな泥のような空間だからこそ、尚の事それら全ての事が映え輝く。


男は顔や髪を堪能したあとは、静かにゆっくりと服を脱がせて行く。

服を脱がせる派と脱がせない派がいるかもしれないが、どうせ着ていても最後には全て消えて無くなる存在。

服どころかその身全て。

だからというわけでは無いが、服を脱がせる派なのである。

しかし、ただ脱がせるというのも芸が無い。

男は鼻息を荒く吐きながら立ち上がる。

四畳半の部屋全体にミシリッと軋む音が響き渡った。

どこへ行くかのかと思えば部屋の隅。

無造作に置いてあるハサミを持つ為だ。

彼女は声無き声を上げる。

何となくだが分かっていた事、されど恐怖は訪れる。

避けられぬ恐怖ほど怖いものは無いだろう。

男はゆっくりと顔を彼女の方へと向き直る。

その唇の端からは汚らしい涎が垂れていた。

次いで身体も向き直る。

男の下腹部はすでに怒張しており、嫌悪感を増長させる。

彼女の全身からは玉のような汗が吹き出ている。

恐怖や不安、全ての負という感情が彼女を支配し尽くす。

しかし、抵抗をするという選択肢は無かった。

抵抗をしなければ精神的な苦痛だけですむであろう。

だが抵抗をすれば身体的な苦痛まで感じ得ないのはまさしく事実だから。

男は尚も変わらず、その悪意のハサミを彼女の突き付ける。

そして服に切れ目を入れていく。

だが、優しく。

しかし、優しく。

丁寧に優しく服を脱がせていく。


彼女は思った。

この男は明らかに変な性癖を持っている。

それは分かる。

私みたいなモノに対して明らかに興奮をしている。

それは異常な事だ。

しかし、それは私が同じ人間では無いと知った上での事なのだろう。

もっと平たく言ってしまえば、そう。

無機物に意識なんて無いと思っているのだろう。

ただのペットボトルが意見や感情を持つだなんて考えていないのだろう。

ペットボトルのラベルがペットボトルにとっての服だなんて、それこそ感じ得ない事なのだろうと。


彼女は泣き震える。

これから何をされるのか。

男に取っては単なるマニアックな性癖。

誰にも知られる事の無い只の自慰。

恐らくその怒張した異物をペットボトルの中にでも入れる気なのだろう。

しかし、彼女にとってそれは陵辱。

更に最後には結局のところ破棄されるという最後。

殺害という結末が待っている。


男は笑う。

自己満足の為に。

彼女は声無き声を上げ続ける。

誰にも届かない慟哭を。

どちらも気付く事が出来ない。


何故なら、世界は主観での世界しか知り得ないのだから。

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