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仮面の素顔

作者: 清 水

「お疲れ様でーす」

 タイムカードを切って帰り支度を手早く済ます。三時間立ちっぱなしの腰は凝り固まっていて、身体を捻ると絶妙に心地よい響きを奏でる。

「お疲れ様です」

 消えゆく声で呟いたのは同僚の笹木さんだ。年は僕と同じで、バイト歴は向こうの方が何ヵ月か早い職場の先輩にあたる人物だ。

 笹木さんは基本的に無口だ。寡黙な女性である。

 僕より先にバイトをしているにも関わらず、他の先輩らとの交遊はあまり見られない。飲み会やカラオケにも参加せず、ただ黙々とシフト通りに出勤し仕事を済ませて帰宅する。まるでバイトロボットだ。

 語弊を招くかもしれないので先に言わせてもらうと、僕は別に笹木さんを非難するつもりはない。そも、バイトとは仕事であり金稼ぎ。遊んだり喋ったりするのはあくまでプラスアルファにすぎないのだから笹木さんは何ら間違ってないし、むしろ店側としては鏡のような存在だ。

 それともうひとつ付け加えると、笹木さんは喋りかけても無視するような冷たい人間でもない。どころか運がいい時は珍しい笑顔を見れるときだってあるのだ。

 笹木さんはこちらから話しかける分には応じてくれるし、人間関係をこじらせない程度に必要な会話は向こうからも振ってくる。常に自分と他人との間に一定の距離をとって、踏み込みも踏み込ませもしない。ある意味、コミュニケーションの取り方は僕なんかよりずっと上手なのだろう。

 最初はそんな笹木さんはただの絡みづらい人だと思っていた。しかしいつからだろう、人とは未知のものに触れたくなる生き物なのだ。知的探求心と好奇心が僕の心をくすぐってやまなくなったのは、バイトをはじめて半年ほどがたった時だった。

 笹木さんは常に一定の距離をとって人と関わる。言い方は悪いが、それはつまり分厚い仮面を被っているということだ。話しはすれど決して素顔を見せることはなく、また向こうもこちらの素顔を見ようとはしない。分厚い仮面の奥から何を見ようともせず、ただそこに佇むだけ。

 僕はいつからか彼女の素顔を見たいと思うようになっていた。それは性格の悪さからかあるいは人の知的探求心の現れなのか。どちらにせよ誉められたことではないということは重々承知している。

 しかしだとしても僕は彼女の分厚い仮面を剥いでその素顔を見てみたい。別に晒しあげるつもりは微塵もない。無理強いをするつもりもない、ただの単なる好奇心なのだ。

「今日すごい混んでましたよね」

 身支度を整えながら笹木さんに言葉をかける。

「混んでましたねー。レジ凄い大変じゃなかったですか?」

「ほんとしんどかったですけど、上山さんに手伝ってもらったんでどうにかなりましたよ」

「ああ、上山さん。あの人凄いですよね、何でもできて」

「そうですよね。普段はあんなにおちゃらけてるのに、仕事のときは誰よりも真面目で。きっと内定もすぐもらえますよ」

「上山さん来月で抜けるんでしたっけ?」

「あんまりこれなくなるみたいですけど、籍はおかせてもらえるみたいですよ」

「あっ、そうなんですか。でも就活も大変そうなのに、私なら多分やめちゃいますね」

「……僕らももう来年は就活ですよ」 

「早いですよねー。遊んだりできるのもあと少しか……あっ、もしかして待ってくれてます? すいません、今日はちょっと用事あるんで先に帰ってもらって結構ですよ」

 身仕度を終え笹木さんを待っていると、笹木さんは愛想笑いでそう言った。

 僕も愛想笑いで頷いて、一人肌寒い帰路についた。

 吐く息は白く、空気は凍てつき突き刺さる。

 相も変わらず笹木さんは踏み込ませてくれない。ある程度の距離を適切に保ち、誰も悲しまないようにそっと離れていく。

 その技術はもはや一級品といえる。世渡りが上手な人なのだろう。

 対して僕はなんとも話下手なのだろう。一向にあちらのペースで押しきられてしまった。

 これではダメだ。どうしたって距離が縮まるわけがない。どうすればより近づけるのか。

 遊びや飲みの席に誘えるならばその場の空気でどうにかなる気がしなくともない。いつもやんわりと断っているけれど、もしかしたらそれはバイト仲間というくくりの飲み会に抵抗があるのかもしれない。笹木さん個人をプライベートで誘えば、あるいは可能性が残されているのかもしれない。

 となれば目下の目標は遊びに誘うことだ。いきなり二人きりは流石にハードルが高いので、バイトのタメの人達で遊ぶということにしよう。

 そうと決まれば思い立ったが吉。ラインで早速日程を取り決めて、行動に移さなければ!



「うー……おはようございます」

 頭が痛い。吐き気が胃を殴り続け、倦怠感が肩に手をかけてくる。

 完全な二日酔いである。

「あっ、おはようございます。昨日はすいませんでした、どうしても外せない予定が入っていたもので」

「いえいえ! お構い無く、うぷぅ」

 口を開けると汚いもんじゃ焼きが飛び出そうだ。

 結局笹木さんだけがどうしても予定の会う日がなく、飲み会は笹木さん以外の同期の面々で行われた。

 最初はそれは寂しい気持ちがあったと思う。しかし酒とは恐ろしく、あれよあれよと夢ううつ。アルコールの海を一日泳いだ結果、僕は二日酔いという境地にたどり着いてしまった。

 さらに他の人の予定も昨日以外合わなかったので、僕は二日酔いでバイトにくるはめになってしまったのである。

 いや自制すればよいだけの話なのかもしれないが、それでは飲み会の意味がない。らんちきに騒ぎどんちゃん酒をあおってこそ、飲み会が飲み会たる理由ではなかろうか。

 込み上げる吐き気と後悔の念を紛らわしながら身仕度を整える。幸い今日は連休明けなのでお客さんもそんなに混んでいない。

「大丈夫ですか? 顔色悪そうに見えますけど」

「大丈夫ですよ! こんくらいいつものことなんで」

 口に込み上げる酸っぱい味は嘘をつかない。

 どうしたものか。これではとても接客をできそうもないし、一度出した方が賢明かもしれない。

 時間はあまりないが背に腹はかえられまい。レジでもんじゃ焼きを作るよりは遅刻の方が幾分もましだ。

 僕は外の風にあたってくるといい残し、トイレに直行した。そして一瞬の躊躇もなくもんじゃ焼きを便器の中にぶちまけた。

 汚いそれを流しながら僕は少しスッキリした頭で考える。結局今回の作戦は大失敗に終わり、僕が得るものは何もなかった。

 どうしたものか。

 遊びに誘うのはやはり断られてしまう。ならば正攻法で日常のコミュニケーションで徐々に距離を縮める他ないのだろうか。

 もしくは頻繁にラインを送るとか……なんてうざい男だろうか。

 やはりここは正攻法でいこう。徐々に距離を詰めて仲良くなるしかあるまい。今までその方法が上手くいった試しはないけれど、それは過去の話だ。それになんだか最近笹木さんとの距離が近づいている気がしなくともない。

 さっきだって心配して言葉をかけてくれたし、僕は案外話上手で距離を詰めていたのかもしれない。

 そうと決まれば思い立ったが吉。早速行動にうつそうじゃないか!



 確かにその方法は効果があった。

 笹木との距離は大分縮まって、今では呼び捨てで呼び合うなかだ。敬語も使わなくなって、なんだかようやく友達らしく慣れてきた。

 そう、僕は約半年をかけてようやく笹木の友達になれたのである。なんとも遅く、どれだけ僕が奥手だったことか。

 呼び捨てで呼び始めたのも笹木からだったし、親しくしてくれたのも向こうからだった。きっとあまりにも奥手でしかし関わろうとしてくる僕が惨めで仕方なかったのだろう。

 しかも依然、一定の距離は保たれたままである。

 きっとこれが世界の命運を握る作戦だったなら世界はとっくに滅んでいるだろう。僕はどうしようもないアンポンタンなのだった。

 夏の夜は蒸し暑い。独り暮らしなので帰ったら洗濯やら掃除やらやることも沢山あるわけで、なんとも足が重くなる。

 そんなときは決まってうまいものを食べるのが僕流だ。甘いもの、しょっぱいもの、辛いもの、酸っぱいもの。苦いものだけはどうにも好きになれないのが、まだ子供だと言われているようで少しだけ恥ずかしい。

 そういうわけで僕はコンビニでアイスを買って、歩きながらそれを頬張っていた。ガリガリ君は安価な上に量も多く、更にはくじもついているというなんとも良心にみちた商品であろうか。

 ちなみに僕は当たりがでても交換しにいくことはあまりない。自分が舐めた棒を店員に見せるのが、なんだか食べ残しを公に晒すようで恥ずかしいのだ。

 夏の夜道を気だるげに歩いていると、前方から騒がしい女の人達の声が聴こえた。夏の夜はカブトムシとカナブンとヤンキーがよく出没するのはもはや風物詩といっても過言ではない。

 路肩で肩を組んでぎゃあぎゃあと喚く三人組の女達から、脳をつんざくアルコール臭が臭った。みんな露出の多い服を着て、覚束ない足取りで夏夜の道を歩いていく。

 アルコール臭がたまらなく臭いので、僕は早足で女達の横を通り抜けようとした。

 早足で過ぎる僕の肩をがしっ! と何者かの手が掴んだ。

 僕が驚いて振り返ると、肩を掴んでいたのは見まごうことなき、笹木だった。

「……え、笹木?」

 きょとんとしてる僕を置いて、笹木の口が僕の食べかけのガリガリ君を頬張った。

 一口で、およそ半分のガリガリ君が笹木の口に溶けていった。

「んはぁーっ! やっぱアイスはうめぇなぁ!」

 この人はあの大人しい彼女と同一人物なのだろうか。もしかしたら空似や双子という可能性がなきにしもあらず。

 否、彼女はやはり笹木だ。にわかには信じられないけれど、彼女は間違いなく笹木であっている。

 半年以上彼女を見てきた僕がそう思うのだから、間違いない。

 だとしたら残りの二人は笹木の友達だろうか。二人とも派手な金髪に長いつけまつげと、実に豪華絢爛な衣装であられる。

「サキッチ、こいつ知ってんのぉ?」

「んー? 知ってるよぉ? たしかねぇ、えっとぉ……」

 ずい、と笹木が真っ赤な顔を寄せてくる。目はうつろで吐く息はアルコール臭く、完全に出来上がっている状態だった。

 ガリガリ君が滴になってポタリポタリと流れ落ちる。

 どうするべきか。今ならまだ人違いだといって逃げ出すこともできなくもない。笹木もこの様子を見るにきっと何も覚えていないはずだろう。

 だが待て。

 これは僕の望んでいたことではないのか? 仮面の下の素顔を見るチャンスではないのか?

 どうするべきか。

 夏の夜。相手は酔っぱらい三名にこちらは男一名。いざと変なことになったら、逃げ出すくらいはできなくもあるまい。

 ならば、ここはこちらから名乗って探りを入れてみるとしよう。

「あの、実は僕笹木とーー」

「んぷっ」

 それは一瞬の出来事だった。

 僕が喋ろうとした瞬間、笹木の顔が青白く変化した。眉をひそませ、肩をつり上げる。腹から肩にかけての上半身が波打ち、頬がいやに膨れ上がる。

 まずい。

 だがそう思った時にはもう遅く、ブツはすぐそこまで迫っていた。

 思わず僕は笹木のことを突き飛ばしてしまった。だがそれも致し方ないことだろう。誰だってそうしたはずだ。

 しかしそれすらも手遅れだったに違いない。

 突き飛ばした結果、笹木の口からあふれでるもんじゃ焼きは見事な放物線を描いて周囲に飛び散ってしまった。全てがスローモーションに見えたのはきっと人間の火事場の力に違いない。

 笹木の連れが悲鳴を上げて避けようとする。僕も悲鳴を上げて少しでも被害を減らそうと腕でそれらを防ごうとする。

 ふらり、と笹木がもんじゃ焼きを撒き散らしながら揺らめいた。きっとバランスが取れなくなってしまっているのだろう。

 咄嗟に僕は腕を差し出し笹木の身体を抱き寄せようとする。しかしそうするまでもなく笹木は僕のほうへと倒れこみ、薄気味悪いもんじゃ焼きを僕の胸一杯に撒き散らした。

 悲鳴。嗚咽。阿鼻叫喚の地獄絵図。

 それは夏の夜に繰り広げられた、僕たちの死闘の結果であった。



「その、ほんとにごめん」

 あのあと、笹木は完全にダウンしてしまった。他の連れの二人に連れ帰ってもらおうと思ったが、その二人もどうやら怪しい。いつ潰れるか分かったものではない。

 とりあえず僕は笹木を彼女の家まで介抱した。すると彼女の家に近づくにつれ笹木の顔色が青白く変わっていき、つく頃には酔いも大分醒めておぞましい顔になっていた。

 おそらく、色々思い出したのだろう。

 それから僕は笹木の家にあげてもらい、シャワーと着替えのジャージを貸してもらい、今に至る。

「別に気にしてないよ。僕もいつもは逆の立場だから」

「いや、でも、なんていうか……」

 弱った。

 ここまで落ち込まれると流石にどうしたものか。それに笹木が落ち込んでいるのはきっともんじゃ焼きを撒き散らしたことではなく、自分の素性を知られたことなのだろう。

 別にヤンキーだろうがなんだろうが誰も気にしないというのに、意外と彼女は繊細なのかもしれなかった。

「別にいーよ。それに笹木がヤンキーだろうとギャルだろうと僕は気にしないし」

 コップに水を汲んでソファでうなだれるように座る笹木に手渡す。

 それに僕としては実はというと嬉しいのだ。笹木の仮面の下をようやく見れた気がして、本当の意味で笹木を知れた気がして。

「ん、ありがと」

 ちょびちょびと水を口に含んでいく笹木。

 もう何回も戻したおかげか徐々に顔色もよくなってきていて、肌に赤みも戻ってきている。

「……私さ、正直あんまし幼なじみと他の人を会わせたくないんだ」

 幼なじみ、とはさっきの二人のことだろう。

「なんで? 二人ともすごく心配してくれていたじゃん。いい人達なのに」

「うん。そうだよ。だからこそ、私は迷惑をかけたくない」

「……迷惑?」

「私って人見知りで最初は結構暗いじゃん? そうすると寄ってくる人も真面目な人が多くてさ。いやそれ自体は別にいいんだよ? 私も嬉しいし」

「じゃあ、なんでそれが迷惑につながんの?」

「うーん……やっぱ、色んな人の中には正義感の強い人もいてさ。私は幼なじみだからなんとも思わないけど、他の人達から見たらヤンキーにしか見えないじゃん? それで殆んどの人は私から離れてくんだけど、中には付き合うのを止めろっていうお節介さんもいて。

 私にはそれがあいつらを否定してるようにしか聞こえなくて、嫌だったんだよ」

 水を途中で含みながら彼女は続ける。

「そんだけ言われてりゃもちろんあいつらの耳にも入っててさ。中学おわる位の時に、私らといると窮屈じゃないのかって言われちゃって……本当に悪いことしてたと思ってる。それに私のせいで自分等の悪口言われてるのに、それでも私の心配する友達なんて中々いないだろ?

 だから私はあいつらとの時間を大切にしようと決めたんだ。それが私にとっての最善であったし、せめてもの恩返しでもある」

「……それで他の人とはあんまり絡まなくなったってことか?」

「んー、まぁそうなるな。あくまでも結果的にそうなっただけで、独りを望んでいるわけじゃないけど」

「なるほどなぁ……」

 笹木には笹木の事情があったというわけだ。それは僕なんかが簡単に口を出していいものではないのも、バカな僕でも理解できた。

 それに僕はもうひとつ、今まで騙し騙しにしてきたことも理解した。

 けれど、その前にまずは一つ訪ねなければならない。

「今さらだけど、何でそんな大事なことを僕なんかに話してくれたんだ?」

「んー……酒の勢いってやつ?」

 そういって笹木はにへらと微笑んだ。

 その瞬間、僕は確信した。やはり僕の気持ちは嘘いつわりない、本物だったのだと。

「笹木。僕と付き合ってくれない?」

「は?」

 笹木は即答した。

「いやまって。私別にそんなん求めて話した訳ではないよ? ただの昔話てきなノリなんだけど」

「うん、それは分かってる。だから、元から僕はお前のことが好きだったんだよ」

「……はぁ!? てかいつから?!」

「どうだろう。好きって気持ちに気づいたのはさっきだけど、その気持ち自体はずっと前からあったな」

「まじかよ……いや待ってくれ。別に嫌だとかそういうんじゃなくて、ただ驚いているだけなんだ……もう少し時間をくれ」

 そういって笹木は膝を抱え込んで眉を潜める。

 僕としては即答でふられる覚悟もできていたので、これはなんとも予想外である。

 ややあって笹木が顔を上げた。僕の顔を見るなり辛そうに顔をしかめて、立ち上がる。

 やはり振られるのだろうか。だとしても僕は彼女に素顔を晒せた。僕は本当は彼女の素顔を知りたいんじゃなく、彼女の特別になりたかっただけなんだ。

 彼女を好きになってしまってから、ずっと彼女を知りたくて、彼女の理解者になり特別になろうとしていたのだ。

 それに気づくのにも大分時間がたってしまった。

 僕は彼女に素顔を晒して彼女も僕に素顔で答えてくれるのならば、もはやその中身までは求めまい。

 笹木がじっとこちらを見つめている。僕も笹木を見つめ返して視線を交わす。

 やがて、笹木の口がゆっくりと開いた。

「その、なんだ、私は……うぷっ」

 笹木の口が大きく開いた瞬間、飛び出してきたのは透明なもんじゃ焼きたちだった。



「お疲れでーす」

「お疲れ」

 バックルームに戻って凝り固まった腰をならす。その横では笹木もストレッチをしていて、ポチポキと心地よい音がバックルームに響いていた。

「今日すんごいこんでた」

「けっこー混んでたよ。レジ大変じゃなかった?」

「新人がまだ全然できないから、もう助けるのが大変で大変で」

「そりゃそうだ。きっと上山さんもそう思ってたんだろうねぇ」

「だろうね」

 結局答えは保留され、僕たちはなおも曖昧な関係を続けている。

 僕としては彼女の素顔に答えてほしいところだったが、それはまだお楽しみ。

 いや案外この保留こそが彼女の素顔なのかもしれないし、そう考えると僕の目的は既に達成されたことになる。

 だがそれは果たして僕の望んでいることなのか。当初の僕は確かにそれを望んだが、今は笹木を手にしたくて仕方がない。正直、何度か笹木の裸体を想像したり似ているセクシー女優にお世話になったことは否めない。

「なぁ。このあと暇?」

「暇だよ」

「よっしゃ。じゃあ飯食いいこう!」

 最近ではこうして笹木が僕を誘うことも珍しくはない。僕から誘うことも増えたし、なんだかようやくほんとに友達になれた感じはある。

 笹木と僕の距離は曖昧な距離に変わって、案外それを笹木も僕も楽しんでいるので、なんだか締まらない話である。

 でもいずれ締めてみせよう。白黒つけて、彼女を手に入れてみせよう。

「早くいこーよ。もうみんな近くに来てるって」

「みんな?」

「うん。私の友達」

 笹木はにへらと微笑む。

 それが叶うのは、きっともっと後のことになると僕は思った。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  ガリガリ君の棒を交換する前に、洗えば問題ないのでしょうか。 [一言]  まじめそうな人ほど、裏がありがちです。
2016/04/03 19:54 退会済み
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