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第8章:ハリルードの襲撃者

若干の戦闘描写があります。殺伐としています。

----------

 カイルが立てるようになるまで、彼らはたわいのないことを語り合った。カロシュは問われるままに自分の知りうる白獣について説いて聞かせ、カイルはアルバを始めとする他国の者がみるノーサについて、率直に語ってくれた。

 日が落ちる前に宿営地に戻り、カロシュはアラム達に全てを話した。白獣に会った、という予想外の出来事にエアは初めて見る驚愕と動揺の顔を見せ、アラムはやや青ざめた顔で無事を言祝いでくれた。


「それはともかくとして……。カイルさん、予定は変えません。明後日の朝、ここを出て回廊経由で『目的地』に向かいます。いいですね? それまで回廊に入ることは許可しかねます。カロシュが同行するにしても、です。カロシュもいいですね?」

「えっ……駄目、なの?」

「当然です。今回の僕の仕事は、貴方を無事に『本来の目的』まで案内することです。今回の白獣との遭遇は想定外の事態ですが、目的が果たされたわけではないでしょう? ならば、僕のやるべきことは、万全を整えて貴方を『本来の目的』に導くことであることに変更はありません。

 カロシュの護衛だけで不十分だというのでは無いですが、『目的』が果たせなくなる恐れがある以上、皆でそろって行動すべきです。第一、エアさんを一人残して行くつもりですか? 貴方は」

「エアを仲間はずれにするつもりはないよ!」

「でしたら、明日は準備に専念して行動を慎んで下さい」


 回廊越えでの移動は、決して楽な行程ではない。道はさほど険しいものではないが、確たる水場がなく食料の調達も難しい岩地だ。前もって備えるべきものが多い。

 アラムは穏やかではあるが、案内人としてなすべきことについては容赦ない。今日一日を安静に過ごしたエアの傷は、もう痛まないとはいうものの完全に癒えたわけではない。騎乗しての移動には支障ないかも知れないが、いざ事態が起こって戦うことになればいつもと同様とはいかないだろう。白獣はともかくも、カロシュも単独でカイルを狼の群れやその他から守り切れるとは言い切れない。


 翌日、カロシュは森で鳥を狩り、アラムは下拵えをして旅程に備えた。エアは身体を慣らすために水の確保を引き受け、カイルもそれを手伝った。そうして5~6日分の旅程を支える準備を整え、次の朝、宿営地を後にしてハリルードに向かった。


 太古には渓谷だったハリルードの回廊は両側の岩壁で日が遮られるため、この季節の移動では快適だ。とはいえ、所々でわずかに地衣類があるだけの荒涼たる風景は、2日もすれば飽きる。変わらず生き物の気配はなく、カイルは恨めしそうに蒼穹を舞う鷹を見上げるだけだ。


「この子だけだよ……私を癒やしてくれるのは……」

「結局戻ってきたんだな、そいつは。そしてお前の頭が定位置のままか?」

「もう、どうでもいいよ。重さにも慣れたし。でもどうして頭なのだろうね?」

「……その黒髪が気に入っているのだと思いますよ? 日が当たると暖かいですし、色が同化するので空からの脅威に最適なのでしょう」


 白獣に遭遇した翌朝、気付くと姿を消していた黒い翼猫(ルグイン)だったが、回廊に入って2日目の午後に不意に戻ってきた。てっきり飼い主の元に戻ったのだと残念がっていたカイルの喜びはひとしおで、軽やかな羽音と共に当たり前のように頭に降り立った猫を咎めることもなく、文字通り猫可愛がりしている。すっかりカイルの飼い猫のようだ。猫もカイルの頭を定位置に、されるがままに触れさせ馴染んでいる――相変わらずカロシュやエアには威嚇することを忘れないが。

 ちなみにアラムはそもそも構おうとしない所為か、お互いに無関心だ。だが、アラムの夜番の時には何故か共に火を囲んでいることが多い。カイルとは違う意味で、どうも不思議な関係だ。

 『所詮、猫ですからね。賢いですが、気まぐれです。気にしないのが一番です』と切って捨てるアラムだった。


 翼猫が戻ってきた翌日、3日目。ハリルード回廊の旅程も、ほぼ半ばを過ぎた。ナンとチーズだけの簡単な朝食の席で、アラムはこの先の予定を口にする。


「この先からは、回廊の幅が広がって岩壁が低くなります。そのため日が差しやすくなりますから、気をつけて下さい。なるだけ日陰となる側を行って、ちゃんと水をとって下さいね。今日、明日までが回廊です。抜ければまた草原に入って……その先が『白獣の森』の入り口です」


 生き物の気配が全くなく、また当然白獣にも出会わなかった回廊越えは順調すぎる行程で、予定より半日は早く回廊を抜けそうだ。アラムの読みはあたった。森廻りを選択していたら、まだ半分も進んでいなかったに違いない。


「――エアさん、この先が『本来の目的』です。そのつもりで――カイルさんをちゃんと見ておいて下さいね? カロシュも、カイルさんから目を離さないように」


 ハリルードに入って以来、エアはやや神経質なほどに周囲を気にしていた。先に遭遇した白獣のことがよほど気になるのだろうか。回廊の道が曲がるたびに周囲の岩壁を警戒し、風が鳴るたびに剣に手をあてる。これ以上カイルに気を配るとなると、後ろに乗せて進みかねない。


「そうね、いよいよ『本来の目的』……。ええ、分かったわ。ありがとう、アラム。本当に、今回は無理を言いました。貴方の主にも深い感謝を」

「――お礼を言うのはまだ早いと思いますよ? まだ『目的』は果たされていないのですから」


 少し改まったエアの返事に、アラムの声もいつもとは違う色を見せる。


「とはいえ……カイルさんのことです、本当にどうなるか分からない。想定外に白獣に出会ったりするのですから……。だから『本来の目的』が果たせなくても、恨まないで下さいね? そこまで僕たちは保証できませんから」

「――カイルだからこそ、問題なく果たされそうだがな?」

「そういう問題じゃないのだけど、カロシュ。……ま、否定しないけど」

「大丈夫! 私は何としても、どれだけ時間がかかろうが、もう一度白獣に会うから!!」

「だから、そういう問題じゃないのですってば! 第一、白獣の森への滞在許可は3日しか出ていません!!」

「えっ! そんなの、短すぎる! 聞いてない!!」

「都合の悪いところだけ忘れないで下さい! きちんと説明してあります!!」


 知らぬうちにいつもの調子に戻ってしまった会話に、『……全くもう、緊張感というものがないのだから……』とアラムは嘆息して空を見上げた。エアも少し緊張の解けた顔つきで苦笑している。


「……気を取り直して。さあ、支度して出立しましょう。荷はきちんと縛って下さいね。カロシュ、念のため弓はすぐ使えるようにしておいてくれる?」

「分かった。遠矢でいいか?」

「近矢と両方で。――ううん、近矢だけでいいや。遠矢は僕が受け持つ」


 ハリルード回廊は交易路からは離れているため、盗賊達の心配はほとんどない。だが、何事にも絶対はありえないし、狼が出ないとも言い切れない。ここまで何事もなかったとは言え、白獣の気配が去ってしばらくの時が過ぎた。他の獣が戻ってくる恐れは十二分にある。

 アラムは弓射に、特に遠矢に優れている。どちらかというと接近戦での騎射が得意なカロシュとしては、遠矢を彼に任せることに異存は無い。

 馬具に吊した革の矢入れを点検し、矢を補充しておく。ノーサの民が使う弓矢は騎射を前提とした短めの複合弓(ケマン)であり、背負うことなく矢と共に革の籠に仕舞い、馬具の左右に吊すのが一般的だ。剣はそのまま腰に下げる。

 アラムが武装の指示を出すことは珍しい。エアの神経質な態度と合わせて気にならないこともなかったが、カロシュは素直に従った。ここまでの3年間、様々な経験をしてきたが、一見何の根拠のなさそうなアラムの指示が外れたことはない。もしかしたら、自分の与り知らぬ何事かがあるのかも知れない。そう考えて、カロシュも気を新たにした。

 アラムを信頼している。だからこそ、特に問いただそうとは思わなかった。


「では、出立しましょうか。僕が先行します。カロシュは殿(しんがり)で。荷馬はその後ろでいいです」

「私はエアの前? 後ろ?」

「エアさんと併走して下さい。カイルさんが壁側で」

「分かりました。カイル様、こちらに」


 ……何かの襲撃を前提としたかのような隊列。それに対しエアは疑念すること無く従っている。カイルも、隊列の意味するところまでは掴み切れていないようだが、何かしらの雰囲気を感じているようだ。


「――エアさん、先ほどは僕と主にお礼を言っていましたが……。でも、僕はノーサです。そして<ジョシャ>です。僕の判断は、何よりもノーサの(のり)に、そして我が主に従います。それは忘れないで下さい。――カイルさんを守るのは、貴女です」

「わかったわ……」


 互いに真摯な瞳を交わし、アラムとエアは馬を進めた。カロシュは何かの使命を背負ったかのような二人の後ろ姿を見つめながら、今となっては何一つ疑うことのない“これから起こる事態”について想いをはせた。


*****


 ――最初に気配を察したのはカロシュだった。だが、その位置を確定するまでには至らない。すぐさまアラムも気付いた。無言で弓をつがえると、人の背丈の3倍ほどの高さにある岩壁に向けて鋭く射放つ。

 大気を切り裂く矢の音。続く呻き声は明らかに人のもの。

 アラムは続けて数度、矢を放つ。複数の呻き声と崖から何かが落ちる大きな音が3つ響き、静寂だった回廊の空気がにわかに殺伐としたものとなった。


「エアさん! カイルさんを馬から降ろして陰に! カロシュ、多分高みからの射手はもう全部だと思うけど、油断しないで! 次は騎馬! 弓騎兵じゃないから、まずは馬を狙って!!」


 進行方向から馬蹄の響きが轟く。反響してはっきりしないが……多分20騎は下らない。カロシュも弓をつがえ、姿をみせた騎馬の一軍に向かって次々に矢を放った。

 左右がない回廊、しかも守る対象がいる状態ではこちらからの追物射は無理だ。迎え撃つしかない。


「カロシュ! アラム! 私はどっちへ?」


 騎乗したまま抜剣しエアが指示を仰ぐ。彼女の脚の傷を考えると、下馬させるべきではない。だが騎馬の民ではない彼女に騎乗したまま迎撃させるのは酷だろう。


「馬を降りてカイルの守護に専念しろ、この場で迎え撃つ!」

「だけど、私もそちらに――」


 騎射を続けるカロシュは、エア達を追い抜いて前に出る。後を追おうとするエアを留め、振り返ることなく彼女に告げる。


「お前の役目はカイルを守ることだ!」

「――そうですよ。 そしてカロシュ、貴方も(・・・)です」


 横に並ぼうとするカロシュを振り返り、前に手を伸ばしてカロシュを押し留めたアラムは、至極満足そうな笑みを浮かべていた。


「貴方の仕事は“護衛士”です。だから、カイルさんとエアさんを守って下さい。

 ――ここから先は『僕の仕事(・・・)』なんだ。すまないけれど、カロシュにも譲れないんだよ?」

「お前、今更何を言って……」

「これが『本当の目的』なんだ。ごめんね、ここまで話すことが出来なくて」


 近づこうとするカロシュの脚を、初めて感じる有無を言わせぬ迫力で押し留め、アラムは再び前を向く。その顔にはカロシュも見たことのない、冷淡で凄惨な笑みを浮かべている。

 二人による最初の騎射で、多くの襲撃者が馬から落とされている。だが、多くは命を奪うほどの傷を負っているようには見えず、まだ騎乗したままの者が半数以上だ。不意打ちのつもりが先制されて予定が狂ったのか、襲撃者たちは馬の足を止めこちらの様子を伺っている。


「今から残りの馬は止めるから……もし討ち漏らした奴らがきたらお願いするね。地に足を着けた相手に、カロシュが後れを取ることはないでしょ?

 ――スミ! 行けっ!」


 最後の言葉と共に、アラムは懐から取り出した袋を空高く投げ上げる。それに呼応して、カイルの頭に張り付いていた黒い翼猫が飛び立ち、その袋を器用に前足で捕らえると襲撃者たちの頭上で袋を引き裂いた。

 頭上から舞い降りる細かな「何か」が、日にキラキラと反射する。襲撃者たちはすかさず鼻や口を覆ったが、何の変化ももたらされなかったのか不可思議そうにしている。

 だが、その「何か」を受けた馬たちの反応は対照的だった。嘶きと共に棹立ちになり、見えない恐怖に怯えて騎手たちを振り落とす。すでに乗り手のいなかったものを含め、ほとんどの馬たちが我先にとその場から逃げ出した。

 風に乗って届いた白い糸のようなものに、カロシュ達の馬も反応する。必死でなだめるカロシュは、そのものの正体を知っていた。ノーサの戦士たちが他国との戦いで使うもの――白獣の体毛だ。その匂いに本能的に耐えられる動物は数少ない。軍馬であってさえ、脚を止める。


「このノーサに争いを持ち込んだこと――その命で償うといいよ?」


 低い声でそう告げながら、アラムは弓をしまい何故か下馬する。物騒な言葉とは逆に、抜剣すらしない。何かを待つかのように、視線を岩壁に回した。



* * * * *



「そうだな。――サヴィル、アラム。今、ここにノーサの(のり)を示せ」


 高みから突然響いた声は、大きくはなかったが無視できぬほど通る清冽さを持つものだった。カロシュの知る――あの日、ハライヴァの(サラー)で聞いた、あの忘れ得ぬ声。


「あの時の……? ……っっ?!」


 声を追って視線を向けた先には――4騎の【白獣】が居た。うち3騎には騎乗帯がつけられ、2騎の背を駆る者がいる。一人は長い白髪をたなびかせた小柄な人物。もう一人は陽光に反射し鋼色に光る黒銀の髪を持つ、カロシュと同じ程に長身の人物――ノーサの【白獣士】だった。

 相変わらずどこか(わか)い、そして圧倒的な威圧感をもった声に従うように、黒銀の髪の青年は一つ頷くとそのまま白獣を駆って崖を降りる。その後に、騎乗帯だけをつけた空の白獣が続く。白獣にとってこの程度の崖は何の障りにもならない。わずか二、三度の跳躍で二頭の白獣は降り立った。


「――アラム、3人残せ。人選は任せる」

「えっ、僕がそっち? 後から割り込んできて、自分だけ楽しいこと独り占めって、狡くない?」


 黒銀の白獣士から発せられた低い声は、畏怖さえ感じさせる冷厳なものだったが、アラムは何事もなくそれを受け、楽しげな声で応える。対する黒銀の彼は無言のまま、白獣を襲撃者達に向けて跳躍した。



 ――息をもつかせない、瞬きすらできない――そこからの一連の出来事を称するならば、そうとしか言えないものだった。

 実際、カロシュ達はただの傍観者として、だが目が離せぬままに、その光景を見つめるしかなかった。


 アラムは――誰も乗せぬ空の白獣と二歩併走し、三歩目にはその背に乗った。白獣はそのまま岩壁を横飛びしながら、襲撃者たちの後背に回る。そして襲撃の最後尾でなにやら指示をだしていた人物に狙いを定めると、アラムはその脇を駆け抜けながら身体を横に倒すようにして、その人物のふくらはぎ辺りを切り裂いた。

 狙われた男からは鮮血が飛び、脚を奪われて倒れ込む。アラムはその背にすかさず飛び降りると、首に腕を回して絞め落とす。相手の力が抜けたことを確認し、手早い慣れた動きでその口に布をかませ、続いて手足を綱で縛る。

 その間に、背から彼を降ろした白獣は近くにいた襲撃者の一人の脚を奪い、その太い前脚で背を押さえつけている。

 最初の一人の意識と自由を完全に奪ったアラムは、突然後背に現れた彼らに反応しきれず、また初めて見るであろう白獣の姿に腰を抜かしていた一人を次の目的に定めた。素早く近づき、剣の束で後頭部を殴りつけると、先ほどと同様に手足と口の自由を奪う。次いで白獣に押さえつけられ、恐怖で気を失ってしまっていた最後の一人にも同様に処理を終えた。

 無駄な動きなど何一つない、見事なまでの早業だった。


「これで3人、っと。――お疲れ様、クウ。ただいま」


 指示された3人の身柄を押さえたアラムは、周りの凄惨な状況などどこ吹く風で、白獣の口吻部(マズル)を撫でている。対する白獣も嬉しそうな動作で、アラムの頬を舐め返した。アラムはぎゅっと白獣の首筋に抱きつき、その雪白の毛皮に顔を埋める。白獣の身体が彼を包むようにまとわりつき、労るように愛おしむように再会を喜んでいた。

 そんなどこかほのぼのした光景の周りで繰り広げられていたのは、凄惨ともいうべき殺戮だったのだが――。


 その凄惨な殺戮は、襲撃者たちだけにもたらされていた。

 黒銀の髪の白獣士は、ただ一騎、襲撃者たちの一群の元に踊り込んだ後、まるで舞うかのような動きで短槍を振う。その鮮やかな軌跡と共に、次々に彼らの血潮が回廊の大地に迸る。

 ――ノーサの白獣士たちは、専ら剣よりも片手で扱う短槍を用いる。白獣に騎乗しての戦いを想定し、相手の身体を薙ぎ、相手の剣を払い、側に寄せることなく突き離すその武器が最適なのだ。

 そもそも軍馬であっても、容易には白獣の側には寄りたがらない。その距離感を活かすためには、剣では間合いが足りないのだ。カロシュも剣よりは短槍の方が得手だ。


 突然現れた白獣の姿に動揺する襲撃者たちは、体勢を立て直す間もなく次々と彼一人に屠られてゆく。初動の遅れはさておき、仲間達が片端から斃されるのを見て彼らも反撃にでる。だが、いかんせん技量が違いすぎた。

 もとより白獣士は一騎当千と称される。速く、しなやかで、身の何倍もの高さを跳躍する白獣の身体能力に加え、彼ら自身の戦士としての技量は並大抵のものではない。向けた剣を交わすことすらできぬまま、剣を振りかぶったその腹に石突きの打撃が襲い、素早い動きで繰り出される穂先に喉を薙がれ絶命してゆく。

 彼が短槍を振るうたび、黒銀の頭部に巻かれた長い額帯がたなびき、一歩遅れてその背に戻る。それはアラムのものと同じ色文様で、後ろで一つに結ばれていた。

 一撃でその命を奪うことを意図した動きは、血飛沫をまき散らし大地を緋に染めたが、彼は返り血に染まることなく無表情のまま殺戮を続けていた。襲撃者たちは彼を取り囲もうとするが、白獣は平然と跳躍しその輪から抜け出す。下馬した状態で、白獣の行動を止めることなど出来はしない。岩壁を横飛びし、そのまま跳躍し、あらゆる方向から繰り出されるその斬撃から逃れる術もない。

 平原での白獣も強い。だが、その類い希な跳躍力を活かすことができるこの場所では、地に降りた人間など戯れの獲物のようだ。


 ――逃げる者も容赦しない、殲滅を求めるその物騒な槍の舞は、無意識に助けを求めたのかカロシュ達の方に駆け出した最後の一人を大地に突き刺して終わった――。




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[スミ]は黒い翼猫の、[クウ]はアラムの白獣の名前です。殺伐とした空間に似合わない、もふもふ達。

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