時間がやばい!!
「で? これからどうする?」
新聞部に到着した俺はさっそく陽花に話を切り出した。時間がない。ツンツンモードたちを呼び戻す方法を考えなきゃならないし、会長たちが何をしてくるかわからないから先手を打ちたいところだけど、
「まずアンタに言わなきゃならないことがあるわ。ミスコンまでに暴力女を呼び戻すことは諦めなさい」
「諦めたら勝てないじゃねえか」
「いい方法を見つけたの。人の話は最後まで聞く」
「……悪い」
「で、話を戻すけど、これ」
清水学園の公式サイトを開いた陽花が例のイベントについて書かれているページを開いた。
続いてミスター&ミスコンテストのページを開き、
「飛び入り参加、可能!?」
「そ。さっき何気なしにページを開いていたら情報が更新されていたわけ。当日欠場することが問題視されていたことは以前からあったことなんだけど、どうやらその対処法として今年はこの方法を取り入れるみたい。もちろん、欠場した人の分だけという制限つきだけど」
「とんでもないサプライズだな」
「そうせざるを得ないんでしょ。事前にそのことがわかっていたらいろいろと厄介なことが増えてくるだろうし」
「ふぅん、そういうものなのか? で、いい方法って?」
「アンタ出なさい」
「出るって、これに!?」
「それ以外に何があるっていうの」
「……何するつもりなんだよ」
「本来の目的を思い出して。暴力女がミスコンテストに出る理由は何?」
「アピールして、多くの人に投票してもらうため」
「でしょ。今回生徒会からは副会長が参加してくる。向こうも同じ考えのはず。コンテストを利用して生徒会選挙で有利になろうとする」
「それで? 俺はコンテストに飛び入り参加してどうするんだよ」
「決まってるでしょ。副会長の邪魔をするの」
「邪魔をするって、具体的にはどうやって」
「それはアンタが考えなさいよ」
「えー」
人任せかよ。少しは考えてくれたっていいじゃねえか。
「でもそれ以外にいい方法が思いつかないんだからしょうがないじゃない。暴力女が戻って来そうにはないし」
「……わかったけどさ、海梨は嫌がりそうだよなあ」
「だから置いてきたんじゃない。問題っていうのはばれてから起こるものよ。ばれなきゃ問題にすらなんない」
「ひでぇいいわけだなおい」
「それに、もしかしたらあの暴力女が戻ってくるきっかけを発見できるかもしれないし」
「どういうことだ?」
「いろいろ考えてみたの。同じ多重人格者として。あたしは望まれて生まれた存在。でも孤立はしていない。じゃあなぜあのあんぽんたんは孤立しているわけ?」
「デレデレモードを守るためじゃないのか?」
「普通はそう考えるわね。でもおかしいと思わない?」
「なにが?」
「なんで問題を解決した今になっても彼女たちが戻ってこないのか」
「孤立していて知らないからだろ?」
「そこがおかしいって言ってんの。孤立させることによって身を守ることは理解できる。でも今の状況じゃどう考えても知ることはできないじゃない。いつ彼女たちは戻ってくるのよ。一生閉じこもったまま? ありえないでしょ。生み出した本人が外界からの情報を遮断されると知っていたら、何かすると思わない? 仕掛け的な意味で」
「仕掛け、か」
「ある特定の条件を満たしたら元に戻れる仕掛け。それが満たされない限りは外界からの情報をすべて塞ぎこむ」
「なるほど。要はその特定の条件を満たせってことか」
「そういうこと。そこでいろいろ考えた結果、その条件はアンタにある可能性が高いと思ったのよ」
「なんで?」
「これまでの出来事をいろいろ考えてみたら一番多く接しているのはアンタでしょーが。何かフラグみたいなものはない?」
「フラグって」
過去を遡ってみる。
赤点を取ってしまい、海梨に手伝いを強要されたこと。ツンツンモードやデレデレモードと共に生徒会選挙に向けて話し合ったことややってきたこと。そして、陽花の裏切りによって痴女モードが生まれてしまったこと。
「さっぱりわかんねえ」
「使えないわね。じゃああの暴力女にとって予想外な出来事ってあった?」
「お前が裏切ったように演じたこと」
「それ以外に」
「んー、あ、もしかして」
「なに?」
「陽花に自分が二重人格であることがばれてしまったから?」
「……あり得るわね。確かあのデレデレして気持ち悪い存在はアンタと二人きりじゃないと出てこないのよね」
「おう」
「なんでよ」
「なんでって、なんでだろう?」
「ほんと使えない」
「う、うるせえな。俺だってわからないことはあるんだよ」
「きっとそこに鍵があるわ。暴力女たちを呼び戻す方法が。とにかくそれを探るとともに副会長の邪魔をしなさい、いいわね」
「はいはい、わかりましたよ」
ったく、俺ばっかり頼りやがって。
「返事は一回、引きちぎるわよ!」
「うお!? 急に出てきやがった!?」
びっくりさせんなよ、お嬢様モード。
「あなたね、わたくしはいつも中から見ているのよ。二人きりの時くらい出てくるに決まっているでしょう。ほんとうに失礼な人ね」
「ごめん。ってなんで謝っているんだ俺?」
「いいから頑張りなさい。わたくしもできることはやるから。期待しているわよ」
「……わかったよ」
そうして新聞部を後にした俺は賑やかなローカをゆっくり歩きながら思案する。
どうしてデレデレモードは俺と二人きりで尚且つ密室状態じゃないと出てこないのか。
二人きりで密室、つまりデレデレモードは俺以外には知られたくないってことだよな?
あの可愛らしくて守ってあげたくなる存在。
そう。ツンツンモードとは真逆の存在。
なんでデレデレモードは俺だけにしか姿を見せないんだ?
知られたくないってどうしてなんだ?
わざわざあの威圧的な存在を他人に見せるのはなんで?
「だぁくそう! 考えれば考えるほど訳がわからなくなる」
幼馴染なのに。
あいつとは昔からの付き合いなのに、海梨のことがさっぱりわからない。
なんて、イライラしていたら、
「おほーっ。このあんみつようかん最高だなっ!」
「この声は……あ、学長」
ほっぺにあんみつを付けたお子ちゃま学長を発見。
「む? どうした夕。そんなに難しい顔をして」
「いや、何でもないので気にしないでください」
「……いつにも増して冷たくないか?」
「学長は毎日が楽しそうですね。悩みなんてなさそうで羨ましいです」
「何を言うか。悩みなどいっぱいあるに決まっているぞ」
「え、そうなんですか? 例えば?」
「今月のおやつ費用をいくらまで増やせるか」
「……他には?」
「並んでも買えない人気和菓子をどうやってゲットするのか」
「他に」
「有名和菓子店の試食会に参加するために、平日休むためにどんな理由をつけるのか」
「あんたお菓子食べることばっかりかよ!」
「お菓子ではない、和菓子なのだ!」
「そこ拘るところですか! ……で、和菓子以外の悩みとかないんですか?」
「んー、そうだな。強いていうなら、海ちゃ、朝日野のことだ」
「海梨のこと? 何ですかそれ」
「いつになったら昔の顔を出してくれるのだ? 今の様子を見るに、まだまだかかりそうなのだ」
「その話詳しく聞かせてもらえますか?」
「む、まさか夕、忘れたのか?」
「何がですか」
「朝日野に命令したのはお前なのだぞ。張本人が忘れるとはけしからん! このっ! この!」
「痛っ、痛いって! ちょ、叩かないでくださいってば!」
「ふんだっ! お前がそんなんだから朝日野はずっとそのままなのだ。出てこないのだ」
「だから詳しいこと教えてくださいってば」
「忘れたばかものになど教えるものか。自分で思い出すのだ。せっかくのお祭りなのに気分が悪くなってしまったではないか。よし、ここは二年生のクレープで気分転換なのだ! 久々のクレープなのだ。和菓子以外のお菓子なのだ!」
「ちょっ、学長!?」
引き留めようとしたが、学長は俺を無視して階段を下りて行った。
海梨に何かの命令をした張本人?
俺が?
過去を遡るが、そんな記憶は一切ない。そもそも何の命令をしたのかさえ、覚えていないし。
学長の話から察するに、ツンツンモードを生み出してしまった原因が俺ということになるけど。
『まもなく、ミスターコンテストの受付を開始します。参加される方は、スタジアム横にある、受付カウンターにお越しください』
「やべっ、とりあえずそっち行かないと」
今は目の前のことで精いっぱいだ。




