意外とメンタル弱い(?)
まずい、非常にマズイことになったぞ。
部屋に侵入してきた人物は、情報屋。
しかも生徒会長専属ときたもんだ。
イコール、俺たちにとっての敵。
「あなた、やっぱり観ていたのね」
「ええ、もちろん。それがボクの仕事ですから」
どうやら陽花は彼女のことを知っているらしい。
友達、という雰囲気ではないことから察するに、
「もしかしてこの人が?」
「ええ。わたくしのことを常に監視している忍者よ」
「あの話、本当だったのかよ」
「嘘は吐いていないって言ったはずよ。それにしても、やってしまったわね。この子に気を取られすぎたことが原因かしら」
やれやれと痴女モードを見やる陽花。
それに対して拘束された変態は、うおっ!? ついに拘束を解きやがった!
「ボクっ子きましたですー!」
「ひとこと目がそれかよ!」
「え、何かおかしなこと言いましたか?」
「いいや、別に」
忘れてはいけない。こいつは痴女モードだ。
まともに取り合ったら負ける。
「なんで残念そうな目で私を見るのですか!」
「状況が呑み込めていないお前がいて助かったよ」
「え、本当ですか!? 嬉しいです! 夕さんに褒められましたです!」
「褒めたつもりはないんだけど」
一人ではしゃいでいる残念な子を放置し、陽花と視線を交わす。
こくりと頷いた彼女は、弐海の方を向いた。
「それで? わたくしたちをどうする気なの?」
「言ったはずです。通報します。生徒会長に情報提供。この動画と写真が会長の手に渡ったらどうなるのか、頭の良いあなたならわかるのではないですか?」
「もしかしてこの子がここへ来たのは生徒会長の仕業かしら?」
痴女モードをあごで指す陽花。
「さぁ、それはどうでしょうか。ボクは彼を贔屓目にしているので伏せておきます」
「……あの人本当に恐ろしいわね。どうせまだ先を読んでいるのでしょうけど」
「ズバ抜けていますからね。ボクも時々彼が何を考えているのかわからなくなります」
「そう。話は終わりね。その情報を持って早くいけばいいじゃない」
「止めないのですか?」
「だって、止めることができないもの。せいぜいあなたはそうやって、大好きな会長の好感度を上げればいいじゃない」
「……腹の立つ女ですね。それでは」
「あ、一つ言い忘れていたわ」
「なんですか」
「所詮駒は駒でしかない。この言葉の意味をしっかりと心に刻んでおきなさい」
無言のままキッと陽花を睨んだ彼女は、足早に部屋を出ていった。
「いいのかよ!? 逃がして」
「問題ないわよ。この件が広まって退学させられたとしても、あなたが一緒だもの」
「……重い、非常に重いんだけど」
「あら、それがプロポーズをした女に取る態度?」
「え、プロポーズ?」
「そういえば知らなくても当然ね。今の話は忘れて」
「気になるじゃねえか」
「……で、話を戻すけれど。何もせずに逃がした理由はちゃんとあるのよ」
「そうなのか?」
「ええ。会長はこのことを知っても何もできない」
「どういうことだ?」
「考えてもみなさい。今まであなたたちのことを手伝っていたわたくしが突然裏切ったのよ。散々朝日野さんと副会長を取り上げた記事を書いたにもかかわらず」
「ええっと、つまり?」
「副会長を勝たせるためにここまでしたのだと思われていてもおかしくはないということよ。特に他の立候補者はそう思っているでしょうね、二人の記事しか取り上げなかったせいで、注目度を下げられたのだから」
「なるほど。だから表ではいい顔をしている会長たちが、味方かもしれない奴の悪事を晒すような酷い真似はできないと」
「ま、そういうことよね。そこまで深読みしている人がどれだけいるかはわからないけれど、いないということはないわ」
「マンモス校だしなあ」
生徒が一万人以上いるんだ。違和感を覚える奴がいないとは言い切れない。
「というわけで霧崎さん。早速電話をしてお父様に相談するわ。そのあと裏事情を公表して生徒会長の信頼を落とすわよ」
「そうだな。こういうのは早くやらないと」
「ちょっと待ってください」
痴女モードが割り込んできた。
「夕さん、約束を破るのですか?」
「え?」
「裏事情を広めないこと。あなたのいうデレデレモードさんとの約束を破るのですか?」
「それ、は――」
「彼女はこう願ったはずです。騒ぎを起こすことなく、平和な解決をするために自分が次期生徒会長になる、と。あなたがやろうとしていることはそれに反する行為です。そんなことをすれば二度と彼女は出てこなくなりますよ」
「二度とって」
「冗談を言っているつもりはありません。ただでさえ心に深い傷を負っているのです。残念ながら彼女は現在の出来事を見ていませんが、もし彼女たちが復活した時、あなたに裏切られたことを目の当たりにしたらどうなりますか。唯一信用しているあなたに、ですよ」
「唯一信用している俺に」
「そうです」
「……わりぃ、陽花。今回の件はなしにしてもらえないか?」
「どうしてよ」
「デレデレモードは俺にとって天使なんだ。あの海梨こそが女神なんだよ。あいつに悲しい思いをさせて、裏切ったせいで二度と出てこなくなって。こんな痴女モードが一生そばにいるなんて絶対に嫌だ!」
「……わかったわよ。あなたの言う通り、わたくしもこんな朝日野さんがずっとそばにいるなんて考えたくもないわ」
「むっ、あなたたち平気で酷いことを言いますね!」
「そりゃポンコツだし」
「おバカさんだもの」
「い、言わせておけば、ぐぬぬ、もういいですよ! ふんだっ! 私はどうせポンコツ、アホの子なのですよ! そう、残念な……うぅ、残念な子なのですよぅ」
怒ったと思ったらすぐにしゅんとなり、部屋の隅で体育座りをし始める痴女モード。
「陽花、どうすればあの海梨たちは戻ってくると思う?」
「さぁ? でも原因はわたくしなのよね……どうにかしてあげないと」
落ち込んでいるポンコツよりもそっちの方を気にする俺たちであった。




