軽いトラウマになりそうなんだけど
「では今からミスコンに関する会議を始める」
勉強会が終了し軽食を取った後、ミスコンに関する会議が始まった。
開始の宣言をしたのはツンツンモード。
勉強会の結果、岸野は本当に犠牲となってしまった。今保健室でゴロンしている。
病気にかかったわけじゃないらしい。どうやら知恵熱のようだ。この年でも知恵熱が出るなんて初めて知ったよ。
そして学長には帰ってもらった。全くもって役に立たんからな。
そんなわけで、今この部室にいるのは俺、海梨、陽花の三人で、
「どうすれば私がミスコンで優勝できるのか、的外れなことでもいいから思ったことを発言してほしい」
海梨がそう言った後、着席する。
が、手を上げる者は誰もいない。そりゃいきなり優勝する方法と言われてもなあ。
「そういえば海梨、ミスコンってどうやって優勝者を決めているんだっけ?」
「知らないのか?」
「獲得票数で決めているのは知っているんだけど、誰が投票する権利を得ているのかとか。そういう詳細は知らないからさ」
「わかった、簡単に説明してやろう。ミスコンでの優勝者を決める方法は観客による投票だ。場所はスタジアムで行われる。観客というのはスタジアムに入っている人全員だ」
「てことは結構な人数が投票するわけか」
この学園にあるスタジアムは相当な大きさだ。三万人は入るだろう。
「ちなみに一人一票だからな。エントリー番号を入力して投票する。入場者には投票専用の端末を配るらしい」
「へえ、結構金かけてんだな」
「例のイベントはこの学園の一大イベントだぞ。その中でもミスター&ミスコンテストは特に注目されている。これくらいしてもおかしくはない」
「ちなみに例のイベントだけで何千万もの金が動いているわね」
パソコンを見ながら陽花が補足してくれる。
「何千万って、よくそんなこと知ってるな。ネットにでも載っているのか?」
「ううん、載ってないわよ。この情報源は企業秘密」
とか言いながらもエクセルで作ったグラフだけ見せてくれる陽花。
ここ数年分のデータか。へえ、右肩上がりなのか。
「絶好調のようだな。っと、話を戻すぞ。おそらくユウも知っていると思うが、ミスコン出場者は服装が決められている。初めは浴衣、次に水着、最後は私服」
「ということは、そうか、海梨は水着を着るのか」
「なんだ、文句でもあるのか?」
「いやいや全然」
むしろ海梨の水着姿を久々に見られるからラッキーだと思っただけだ。どうせならデレデレモードの恥じらった姿を拝んでみたいところだけど、
「こ、こほん。続けてくれ」
なぜか陽花にジト目で見つめられたため、俺は咳払いをして水着姿のデレデレモードを頭の中から無理やり消し去る。
「最後に一度だけアピールタイムが用意されている。そこで出場者は初めて喋ることになる。これが結構重要になるだろう」
ミスコンに出てくるメンバーの容姿が可愛いのは確実だ。容姿だけで決め手を得るのは難しいだろう。
そこで最後のアピールタイムか。主催者もちゃんと考えているんだな。
「どうせならぶっ飛んだアピールの方が良いんじゃねえのか?」
「ぶっ飛んだアピールか。聞こう」
「別に変なことをしろって言っているわけじゃないんだけどさ。ただ特技とか趣味とか好きな異性のタイプとか、よくある自己紹介をしても目立たないと思うんだ」
「確かにそのような自己紹介をしても面白くないだろうな」
「だからさ。あえて他の人とは違うようなアピールを、インパクトがあるものをやってみるといいんじゃないかなって思うんだけど」
「なるほど。ユウの意見は一理あるな。で、具体的にはどんなことをしたらいいと考えているのだ?」
「いや、そこまで考えているわけじゃないんだけどさ」
パッと思いついたことを口にしただけだ。深く考えていない。
ツンツンモードが陽花の方を向いた。
「清水はどう思う?」
「夕と同じね。インパクトがあるアピールの方が断然いいわ。ちなみにあたしが調べていたことなんだけど」
陽花がエクセルを立ち上げ、俺らに一つのグラフを見せる。どうやらこの表は昨年のミスコンの投票数を表したものらしい。
一位と二位の差が大きく開いている。他は僅差だ。
「ざっとこんな感じよ。この一位のやつはアピールタイムで漫才をしたらしいわ」
「漫才? それって詳しくわかるのか?」
「えーっと確か、あったあった。題名は『マック店員と異世界から命を狙いに来たお客さん』よ」
「どういう状況だよそれ!?」
題名を聞いてもどんな漫才なのか全く予測が立たない。でもちょっと面白そう。実際に見てみたい。
「その動画ってあるのか?」
「あるわよ。ほら」
陽花がネットを立ち上げ、漫才をしている動画を俺たちに見せてくれる。
おぉ、凄いな。確かに面白い。観客もかなりウケているぞ。
「こんな感じで予想外なことをしたおかげか、昨年はこいつが優勝したわけ。ウケるかスベるか。それは運もあるわね。紙一重だったことは間違いないわ」
「だろうな」
もしスベっていたら優勝することはなかっただろう。かなりギャンブル性が高いものだけど、一つの方法として考えてみるべきか。
「でも海梨が一人漫才しているところなんて想像もつかないんだよなあ」
「お前は私をバカにしているのか? 一人漫才で大衆を笑わせるなど容易いことだ」
「じゃあやってみろよ」
「いいだろう。こほん、では『恐怖のお味噌汁』」
「はいだめー」
「なっ!? なぜいきなりダメ出しをされなければならないのだ。私は題名を言っただけだぞ」
「その題名がダメなんだ。絶対に面白くない」
「そんなことはない! とりあえず聞いてみろ」
「あー、はいはいわかったよ。一応聞いてやるよ」
「むぅ、では話すぞ」
海梨が『恐怖のお味噌汁』を話し始める。
どうせ面白くないだろう。似たような話を知っているからな。
なんて思っていると。
「と、いうわけだ。どうだ、面白かっ――なぜ笑っていないのだ!?」
「当たり前だ。面白くねえよ、なあ陽花」
「そうね。全くもって面白くない。こんな話をあの会場でしてみなさい、スベりまくりよ。羞恥心で死にたいのアンタ」
「うっ」
ツンツンモードでもさすがに陽花の毒舌にはダメージを受けたらしい。
これは思わぬ弱点を発見。まさかツンツンモードが笑いのセンスを持っていなかったなんて。
落ち込んでいる海梨を放置して、俺は陽花と話を進めていく。
「とりあえず漫才方面はなしってことで。前回のミスコンで面白いアピールは他にないか?」
「他には、んー、ないわね。ほとんどの奴らがよくある自己紹介をしているだけ。部活動の代表で出ている奴らはそのスポーツをやってみせるなんてことをしているけど、これもよくあることよ。面白みがないわ」
「予想外なものは他にないのかあ。いろいろ考えないとな。もしかしたら去年の優勝者の真似をして漫才をアピールタイムでしてくる奴もいるかもしれないし」
「その可能性は十分あるでしょうね。去年のミスコンを知っている人は多いし。それにたった今、この暴力女に漫才のセンスはないことがはっきりしたし、ちゃんと考えないと」
「ぐっ。わ、私だって漫才くらい」
「無理。人を笑わすには才能というものが必要なの。それをアンタは持っていなかった。ただそれだけよ」
「珍しいな、陽花が海梨のフォローをするなんて」
「べ、別にそういうつもりじゃない。それよりもほら、アピールタイムに何をするのか考えないといけないのよ。夕、答えなさい」
「ええ!? いきなりそう言われても」
困ったな。予想外なアピールねえ。
つまりミスコンに出るような人がやりそうにないこと、みんながやりそうにないことだから。
「SMプレイなんてどうだ?」
「バカ。ミスコンに出るような奴が一人でSMプレイだってえ? ただの変態じゃない!」
「清水の言う通りだぞ。私は絶対にそんなことしないからな!」
二人から蔑むような目を向けられた。
「じょ、冗談だってば。ちゃんと考えるから。えっと、ミスコンに出る人が予想外なことをするってことは、海梨がやると予想外なことでもいいのか?」
「いいんじゃない? この暴力女がやって予想外なことでも」
「じゃあさ、人に凄く甘えているところなんてどうだ?」
ツンツンモードからは考えられないことだろ? 俺はデレデレモードを見慣れているから驚くことはないけど、陽花以外の人は一度も見たことがないはず。
普段からツンツンしている奴がいきなりデレデレになる。それも異常なまでのデレデレ度。
口調まで違うからな。絶対にギャップ萌えするだろこれ。
「それは面白いかもしれないわね」
俺の提案に陽花が頷いた。
よし、あとは海梨が同意すればいいんだけど、
「人に凄く甘えているところか。ふむ、いいだろう。やってやろう。人に甘えている姿を見せる。つまりギャップ萌えを狙うということだなっ」
「おう、その通りだ」
「わかった。それなら早速。ユウ、ちょっと試してみないか?」
「え、今から?」
「もちろんだ。ギャップ萌えとして成立しているかどうか、清水に判断してもらう。この畳の上に立ってくれ」
「畳の上に? なんで」
「そんなもの今から私がお前に甘えるからに決まっているだろう」
「あぁ、そういうこと、ってちょっと待てよ。俺も判断する側でいいんじゃねえのか? だってアピールする時って一人でやるんだろ?」
「確かに一人だ。だが今は本番じゃない。本番に向けての練習だ。実際に甘える対象はいた方がやりやすい」
「うーん、そういうことなら」
俺は海梨の言われた通り、畳の上に立った。
ちょっとドキドキする。ツンツンモードの海梨がどのような甘え方をするのか。気になってしょうがない。
もしかして、その瞬間だけデレデレモードになるとか?
ふぉぉお、それはたまらねえ!
いろいろと妄想をふくらませながら期待の眼差しを海梨に向ける。
すると海梨は俺を見るなり、き、きた! マジできやがった!
そう。なんと海梨がデレデレモードの時と同じ柔らかな表情になり、
「ふんっ、クソ虫が」
ダンッ。勢いよく俺を張り倒しやがった!?
「ちょ、おま、いきなり何して」
「黙れ。お前に発言権などない」
俺を容赦なく踏みつぶす。痛い、痛いってば。何で俺は踏まれてんだよ!?
「マジでやめ、痛ってえええッ」
「そうか痛いのか、痛いのだな? イコール、もっともっと踏まれたいのだな?」
「どうしてそういう考えにつながるんだよ! それにこれ、甘えているつもりなのか!? もしそうなら今すぐやめてくれ!」
「嫌よ嫌よも好きのうち、か。ふん、仕方ない、そんなに懇願するのなら踏みつけてやろう。気持ちいいだろう?」
「気持ち良くねえよ!」
海梨の頬が徐々に紅潮していく。だからちょっと待てってば。これはデレじゃない。断じてデレじゃないぞ!
「ただのSMプレイね」
カシャ、カシャカシャ。
この光景を見ている陽花が写真を撮りまくっている。
「おい陽花、変な写真撮ってないで早く助けぐぼっ」
「まだ踏み足りないのか。いいぞ、もっともっと踏みつけてやる」
「だからやめぶふぉッ」
こうしてしばらくの間、俺はツンツンモードの海梨に踏みつけられた。
数分後。やっと満足したのか、俺は凶暴女から解放された。
当然、俺の身体はボロボロ。そこら辺が痛い。しかも痣になっているし。ほんと最悪だ。
「海梨。あれはデレなんかじゃない」
「違うのか? 俗にいうデレというやつじゃないのか?」
「ただのドSだよ!」
あんなのがデレだったら最悪だ。ツンツンしている時も危険なのに、デレたらもっと危険とか、勘弁してくれ。
どうやらツンツンモードの海梨はとことん暴力寄りらしい。
「デレとは一体何なのだ」
「だからデレっていうのはだな」
海梨にデレとは何たるものかを説明してやる。五分もかけて。
よし、これでデレというものを理解してくれたに違いな、
「結局は蹴ればいいのだな!」
「だから違うってばああああああ」
「む?」
首をかしげる海梨。ダメだ。ツンツンモードはとことんツンツンだ。デレに縁がなさすぎる。
「陽花。頼む。お前からもデレというものを説明してやってくれ」
「なんであたしがそんなものを教えないといけないのよ。それよりもこれでいいんじゃないの?」
「これで!? 何言ってんだよ、そんなことして優勝できるわけねえだろ。それに本番は一人でアピールするんだぞ。何してんのかわかんねえだろ」
俺がその場にいると妄想しながら踏みつける行為を披露する。
地団太を踏んでいる変態じゃねえか。
しかし陽花は首を横に振った。
「ううん、これでいける。天使の目に狂いはない。本番は人間の形をした抱き枕か何かを用意させて、それを今みたいにすればよさそうね。初めはどうかと思っていたけど、夕。アンタの提案も悪くないわ。ドSプレイ。Mな奴は絶対投票するわよ」
「おかしい、何かおかしい方へ話が進んでいる気がする。海梨、お前はこれでいいのか!?」
「ん、私か? 私は別にこれをアピールタイムで披露しても構わないぞ。結構楽しかったしな。ところで清水よ。本番はその人形とやらをユウだと思えば良いのか?」
「ええ、そう思ってくれればいいわ」
「わかった。存分に踏みつけて楽しませてもらうとしよう」
ふふふ、と二人が不気味な笑みを浮かべている。
こ、こいつらどうかしている。絶対におかしいぞ。
特にツンツンモード。今の行為を楽しく感じるなんて異常すぎる。
「ユウ、もう一度やってもいいか? 本番でもしっかり思い出せるようにしておきたいのだが」
「や、やめろっ。く、くるなあああああああああああああああああああッ」
これ以上踏まれたら堪らない。俺は勢いよく新聞部を飛び出した。




