一応許してはくれるみたい
「ほんと悪かった、ごめんってば」
「ゆーくんなんてしらないもんっ」
プイっとそっぽを向かれる。
現在時刻は二〇時半を少し過ぎたところ。
俺は意識が戻ってからすぐに女子寮へ駆け込み、海梨の部屋へ謝りに行った。その結果。
「ゆるしてあげないもんっ」
これである。かなり怒っていらっしゃる。
「そこをなんとか」
必死に頭を下げる。土下座もする。悪いのは俺だ。たとえ窓ガラスがタイミング悪く存在していたとしても、しばらく海梨の身体を凝視してしまったのは間違いない。
だから必死に謝り続ける。
「ごめん。本当にごめん。この通りだ」
両手を合わせ、頭を床につける。
「むぅ、しょうがないなあ。ゆーくんが忘れたっていうのなら許してあげる」
「忘れました。覚えていません。俺は何も覚えていません」
「ほんとうに?」
「本当です。海梨の胸が綺麗な桜色だったなんて知りま」
「きゃああああああ」
「ぐぶふぉ」
思いっきり頭を殴られ、床に鼻を強打する。
「ごめん! 今のは言葉の綾というか何というか」
「ひどい。私、もうお嫁にいけない」
「だ、大丈夫だ。お前の貰い手は俺がいる!」
「ほ、本当にゆーくんが私を貰ってくれるの?」
「おう、もちろんだ。幼馴染だからな」
親指をグッとあげると、あ、あれ? なぜかため息を吐かれたんだけど。
「どうせそんなことだと思ったよ。ゆーくんのばか。えっち、へんたい、ろくでなし」
「俺なんか悪いこと言った!?」
「もういいよ、許してあげる」
「え?」
訳がわからなかった。どうして今の流れで許してあげることになるんだ。
いやしかし。
「本当に許してくれるのか? じゃなくて許してくれるんですか?」
「わざわざ丁寧語で言い直さなくていいから。でも次は絶対にないからね」
「はい。わかっています。次やったら切腹します」
「別にそこまでしなくてもいいんだけど。もうこの話はこれでおしまいっ。それよりもゆーくん。今朝私が言っていたこと覚えている?」
「今朝のこと? 何か言っていたっけ」
「ほら、いいアイディア思いついたよって言ったでしょ?」
「あっ、そういえばそんなこと言っていたような、それで? そのいいアイディアっていうのは?」
「えっとね、私なりに考えてみたんだけど。ほら、例のイベントがもうすぐ始まるでしょ。そこで、一つのアピールとしてミスコンに出ようかと思うの」
「はぁ!? ミスコン!?」
「そんなに驚くことかな?」
「いや、だってさ」
例のイベントで催されるミスコンはハイレベルだぞ。
理由は単純。コンテスト自体に賞金が用意されているからだ。
実は部費争奪戦も絡んでいるんだけど、こちらはコンテストの賞金とは別に用意されている。事前に部の代表者を一名登録し、その人の得た票で総合順位を決め、上位三名が賞金を貰える仕組みとなっている。
当然、男子しかいない部や女子しかいない部も存在するため、ミスコンだけではなくミスターコンテストも存在する。ちなみに部の代表者は一人だけなので、男子も女子もいる部はミスターコンテストか、ミスコンテストのどちらか一方にしか部の代表者は登録できない。
だから必然的にクラスで可愛い娘やかっこいい野郎が出場することになり、部活動でもトップレベルの奴が出場してくることになるんだ。
そんなハイレベルの中でアピールしようと思っているのなら、相当な努力も必要になってくる。なにせこの学園は生徒数が半端ないからな。天からの授けモノだけじゃどうにもならん。
でも、アピールの一つとして選択肢に入れるのは間違ってないと思うぞ。むしろ近々開催されるイベントを上手く活用している。
だけど、問題は、
「クラス代表として出られるのが一名。部活動代表で出られるのが一名。しかもクラスで出場する人は先週のうちに決まっているはずだぞ」
「うん、そうだね。私のクラスも出る人は決まっているよ」
「それってお前じゃないよな?」
「うん」
「じゃあどうやって出場するつもりなんだよ」
「えっと、生徒会の代表として出ようかなと思っているんだけど」
「生徒会長に許可を得ているのか?」
「まだ許可は得ていないんだよね」
「やっぱりか」
案の定、海梨は生徒会長から許可を得ていないらしい。
夕方の話を聞いた限りでは、今更ミスコンに出たいなどと言ってもそんな許可が下りるとは思えない。ミスコンでアピールしようなどといった考えなんてお見通しだろう。
「本当は今日許可を得るつもりだったんだけどね。予想外な出来事が起こっちゃったから」
「そっか……」
予想外な出来事というのは、生徒会長たちが、海梨が裏事情を把握していることを知っていたことだろう。それさえバレていなければ、今頃はミスコンの許可を得ていただろうに。
「ゆーくん、何かいい方法はないかな?」
「いい方法ねえ」
ミスコンに出場するための条件はクラスの代表になるか部活動の代表になるか、そのどちらかだ。それ以外の人は参加人数の都合上コンテストに出場できない仕組みになっている。
しかもすでにクラス代表は決まっているんだ。今更代わってなどと言えるわけもないだろうし、生徒会代表として出るのは尚更不可能だろうし。
「でも、ないことはないか」
「いい方法があるの?」
「一応出られそうな方法を思いつきはしたけど、この方法もかなり厳しいんだよなあ」
「私にもそれ教えてよ。自分一人で判断しないでさ」
「別にいいけど。でも期待するなよ。俺が思いついたのは新しく部活動を作ることだ。そうすればほら、その代表者としてエントリーすることができるだろ」
「確かにそうだけど、それってかなり厳しいよね」
「間に合わないだろうな。設立するにあたって部員を五名以上集めなければならないし」
それにちゃんとした部活かどうかの監査も入るだろう。いろいろ手続きとかもあるから時間がかかるのは間違いない。
部活動を作ろうと思ったら最低二週間はかかるらしい。小さな学園だとそんなに時間はかからないのかもしれないけど、生憎この学園はマンモス校だ。新規部活動の申請など日常茶飯事で、俺らが新しく作ろうと考えている部活の書類など優先してもらえるわけがない。
「むぅ、これはお手上げかなぁ。ミスコン、アピールするためにも出たかったんだけど」
「だよなあ。そこでアピールできたらいい感じになるかもしれないのにな。さすがに今からミスコン出場は厳しい、いや、ちょっと待て。もうひとつ方法があった」
「それって?」
「まだ絶対だと言えるわけじゃないけど、陽花に連絡してみるよ」
「陽花ちゃんに?」
「うん。海梨が新聞部に入部したことにすればいいんだ。もし出場する人を決めていないのなら新聞部代表として出られるかもしれん」
もちろん、新聞部の一員として活動する気のない奴がミスコンに出場するためだけに入れてもらえるとは思えないけど、
『ミスコンのメンバー? 決まっていないわよ。なに? あの暴力女が出たいだって!? うん、うん。なるほど、そういうことね。一応部長に連絡してみるわ。確認が取れ次第、連絡する』
陽花に電話をしたところ、意外にも受け入れてもらうことができた。
問題は部長がそれを許すかどうかだけど、そこは陽花に期待しよう。
「良かったな。もし上手くいけば出場できるぞ」
「ほんとに?」
「説得が上手くいくかは陽花次第だけど」
「そっか。わざわざ説得までしてくれるなんて。陽花ちゃんには感謝しないとだね。ミスコンに出るための練習もしないと」
拳を作って意気込む海梨。
「でもミスコンに出てくる奴は強敵揃いだぞ。大丈夫なのか?」
「やると決めたからには頑張るもん。生徒会長になるためだと思えば頑張れるよ」
「そっか。なら俺ができそうなことがあったら言ってくれ。できる範囲で手伝うからさ」
「ありがと。その時は遠慮なくお願いするね」
「おう」
俺だって海梨を生徒会長に導くための手伝いをすると約束したからな。一度した約束を果たすための努力を惜しむつもりはない。何としても海梨を生徒会長へ導いてみせる。
「それじゃあ早速、海梨がミスコンで優勝できるためにその話し合いを」
「ごめん、今日はちょっと厳しいかも」
「なんで?」
「だってほら、時間」
「あっ」
海梨に時計を指摘されて気がついた。
もうすぐ二一時になってしまう。二一時を過ぎて男子が女子寮に、女子が男子寮にいた場合、規則違反で罰則を与えられてしまう。
この前俺は一週間女子との会話を禁止されちまったからな。仮に同じような罰則を与えられた場合、俺は海梨の手伝いを一切できなくなってしまう。
それはなんとしても避けなければ。
「今日は帰るよ。明日からミスコンの対策を考えようぜ」
「うん。そうだね。また明日」
お互いに手を振って別れる。
可憐な笑顔に思わず顔がにやけてしまう。
やっぱり海梨はデレデレモードに限るよなあ。




