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多重人格のヒロインを手伝う件について  作者: るなふぃあ
第三章 新たな協力者は思いの外厄介だ
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眼福です! ありがとうございますっ!

「ったく、ほんとどうなるかと思ったぜ」

 一八時を少し過ぎた頃、俺は自分の鞄を取りに行くために新聞部を目指していた。

 生徒会室に用がある人は誰もいなかったため、結局最後に部室を閉めに来た生徒会雑務の人に助けてもらった。一瞬変な目で見られたけど、凄く優しい人だった。ほんと、彼が来てくれていなかったら俺はどうなっていたんだろうね。

 日が完全に落ちてしまったため、ほとんどの運動部は切り上げてグラウンドの整備をしている。それでもまだ新聞部は活動しているだろう。陽花が休憩する前にチラッとワードの文章を見たけど、そこまで文字数はなかったし。

「あれ? 真っ暗じゃねえか」

 しかし、新聞部の部室に到着したら灯りが一切ついていなかった。おかしいな。あっ、でも鍵はかかってないのか。

 ドアを開き、部室に侵入する。陽花のやつ、施錠し忘れて帰っちまったのかよ。

 さすがに足元が見えないのでスイッチを押して照明を点けるが、やっぱり誰もいないか。ポツンと俺の鞄が置かれているだけだった。

「んだよ、帰るんだったら一言くれてもいいじゃねえか」

 俺は愚痴りながら鞄を手に取る。スマホという便利なもんがあるんだからさ、連絡の一つくらいよこせよな。

 そして俺が部室から出ようとした刹那。

「ゆーくん。帰っちゃ、だめ」

「え? 海梨?」

 そう。なんと海梨の声が奥から聞こえてきたのだ。

「ゆーくん、ここ。ここだよ」

 声が聞こえてくる方に視線を向ける。

 でも部屋を見渡す限り、海梨の姿はない。というか、真っ暗だったのに海梨がいるわけねえよ。

「まずいな。疲れのせいか幻聴が聞こえるようになってきたぞ」

「幻聴じゃないよぅ!」

「必死に答える海梨。可愛いぞ」

「ふぇ!? か、かわいいって」

「はぁ、末期だな。早く帰って寝よう」

「ちょっと待ってゆーくん。幻聴じゃないから! ほんとに幻聴じゃないんだって!」

「え、マジでいるのか?」

「いるよ、ゆーくんのばかぁ」

 椅子を引いて机の下などを確かめる。

 が、海梨はいない。ほんとどこ行ったんだよ。声の調子から察するに海梨は間違いなくデレデレモードだ。陽花でもあるまいし、俺をからかっていることはないだろう。

「場所を言ってくれ。ここじゃわからん」

「本棚の隙間」

「本棚の隙間ァ?」

 俺は言われた場所へ移動し、奥にある本棚の前へ。って、すげえとこにいるじゃねえか! 

 そう。なんと海梨が本棚と本棚の狭い隙間に挟まっていたのだ。

「そんなところで何やってんだよ」

「えっと、そのね? 陽花ちゃんが残りは寮でやるって言っていたから、私はゆーくんをここで待っていたの。だってほら、鞄置き忘れていたでしょ?」

「確かにそうだけど。ってそうじゃなくて。俺はどうしてそんなところに挟まってんだって訊いているんだ」

「うーんと、怒らないで聞いてくれる?」

「あぁ、怒らないから話してみろよ」

「わかった。えっと、そのね。さっきも言った通り、陽花ちゃんが帰ってから一人でずっとゆーくんのことを待っていたんだけど。なんだか一人でいると怖くなってきて、ね? だから、その」

「お前は猫かよ」

 そういえば忘れていた。こいつは暗いところが苦手なんだった。

 でもどうして電気が消えていたんだ? 話の流れ的には照明が落ちていること自体おかしいだろ。

 それをデレデレモードさんに訊ねてみたところ、

「陽花ちゃんが忘れ物を取りに戻ってきた後、私がいないと勘違いして消していっちゃったの」

 だそうだ。

 深いため息が出た。おそらく海梨のことだ。一人になったことでデレデレモード化しちまったんだろう。デレデレモードはツンツンモードと違ってかなり精神面が弱い。だから先ほどの出来事を考えていたら安堵感を求める猫みたいになって、この隙間に忍び込んでしまったのだろう。

 その結果、出られなくなったと。

 なんてバカな奴なんだ。

 いや、なんて可愛いやつなんだ。

「一人じゃ出られないんだよな?」

「うん。ちょっと胸の辺りがつっかえて」

「そ、そうか」

 視線を下げる。

 確かにすごいことになっている。大きな双丘がむにゅって、むにゅって。

 やばい鼻血出そう。

「とりあえず引っ張ってみるか。ほら、手ぇ出せ」

「うん」

 海梨が遠慮がちに差し出した左手をしっかりと握りしめる。

 うわ小っちゃ。それに海梨の手ってこんなにも柔らかかったっけ?

 すごく久々なような気がする。海梨の手を握ったのっていつ振りだろう。

「ゆーくん?」

「あ、あぁ悪い。ちょっと考え事をしていた。ほら、引っ張るぞ」

「うん。お願い。あっ、ちょっと待って。かうんとだうん」

「するのかよ」

「する。じゃあ数えるよ。いちっ」

 突如始まったカウントダウン。

 とりあえず、いつでも引っ張り出せる心構えをしておくか。

「にのっ」

 デレデレモード特有の甘い声が耳を蹂躙する。

 あぁ、やっぱりデレデレモードの声は可愛いなあ。守ってあげたくなる。おまけに甘い香りが、

「さんのっ」

「って今か、いくぞ!」

「ふぇ?」

 俺が勢いよく引っ張ると素っ頓狂な声が上がった。ついでに何かが弾ける音が鳴り、

「なんで合わせないんだよ! 抜け出せなかったじゃないか」

「そ、それはこっちのセリフだよぅ。ビックリしたじゃんか」

「どういうタイミングでするつもりだったんだよ」

「えっと私は、いちっ、にのっ、さんのっ、れでぃー、ごー。の『ごー』でタイミングを合わせるつもりだったんだけど」

「んなの予想外すぎるわ!」

 レディー・ゴーってなんだよ。レースかこれは。こいつは俺と競争でもするつもりだったのか。

「それよりもほら、次こそいちにのさんで合わすぞ。じゃあいくぞ。いち」

「ちょっと待って」

「今度はなんだよ」

「その、ね? 悪いんだけど、あっち向いてくれるかな?」

「意味わかんねえし」

「だからその、さっきのトラブルで制服のボタンが取れちゃって。床に」

「え?」

 床を見る。

 そういえばさっき嫌な音が鳴っていたような、

「おいマジかよ。ボタン取れてんじゃねえか」

 Yシャツのボタンが計五つも無残に散らばっていた。これはマズい。非常によろしくないぞ。もしこんな状況で海梨を引っ張り出そうとしてみろ。確実に胸元が露わになっちまうじゃねえか。

 幸いブラはつけているようだけど。

「み、見ないでよぅ、ゆーくんのえっち」

「ごめん」

 バッと顔を勢いよく明後日の方向へ逸らす。

 それにしても、桜色のブラかあ。しかもYシャツが二の腕まで肌蹴ていて、かなりエロかったなぁ。って何を考えてんだ俺は。まずこのボタンを拾わないと!

「ほら、ボタン」

「あ、ありがと」

 海梨の方を見ないようにしながら散らばっていたボタンを全て手渡す。

 よし、これでどうにかなるだろ。

「なんで私の方見るのっ。見ないでって言ったばっかりじゃん!」

「ちょ、どうしてボタンつけてないんだよ!」

「ゆーくんのばか、えっち。へんたい。裁縫道具もないのにどうやってボタンつけるの。それにこの状態じゃ何もできっこないもん」

「うお、しまった」

 何をやっているんだ俺は。ボタンを手渡しても意味がないことなんてすぐわかるのに。

「どうしよう、ゆーくん」

「ちょっと待ってろ。今から陽花を呼んでくる。女子同士なら見られても平気だろ?」

「う、うん。あっ、待って」

「なんだよ」

「怖いから、私を一人にしないで」

 だーくそぅ。そんな目で頼まれたら置いていけるわけないじゃねえか。

 ここは俺が一人で何とかするしかないのか。

 海梨の方をうっかり見ないように気をつけつつ、何か良い道具がないか探し始める。

「お、海梨。これなんてどうだ?」

「なにそれ?」

「ローションだ。これを体に塗ったくれば滑りやすくなって、ほら」

「へんたい。そんなことしたら透けちゃうじゃん」

「そうだった。というかなんで新聞部にこんなもんが置いてあるんだよ!」

 ベシっとローションが入った小さなペットボトルをソファーに叩きつける。全くもってけしからん。新聞部は一体何を考えているんだ。

「ゆーくん。早く助けてよ」

「わかったわかった。ちょっと待ってろ」

 俺は再び海梨を助けるための道具がないか探し始める。あれもダメ。これもダメ。くっそ、いい道具は落ちてねえのかよ。

「あっ、そうだ。ゆーくん」

「なんだ?」

「この本棚。少しでもいいから横にずらせないかな?」

「横に? おぉ、ナイスアイディアだ。ちょっと待ってろ」

 俺は海梨が挟まっているところと反対側へ移動する。そうだよ。狭いんだったら広げちまえばいいだけじゃないか。

「ふぬらっ!」

 気合いを入れて勢いよく引っ張る。

 が、何だこれ。金具で留めてあるのか?

 どうがんばっても動かないので今度はもう片方の本棚を動かそうと試みるが、

「こっちはダメか」

 ちょうど壁の端まで寄せられているため、動かす余地がなかった。

「こうなったらしょうがない。海梨。俺は目を瞑る」

「それでどうするの?」

「海梨を引っ張る。要は見えなかったらいいんだろ?」

「でもゆーくん薄らと目を開けたりとか」

「しないって。そんなに信用ならないか?」

「だってさっきずっと私のことを」

「わかった、わかったよ。んじゃこれならいいだろ」

 俺は近くに置いてあったタオルを使い、目元を覆った。

「透けて、ないよね?」

「全然見えん。真っ暗だ、痛てぇな。こんなところに椅子なんてあったか?」

「それ椅子じゃないよ。印刷機だよ。うん、その様子だと見えていない、みたいだね。大丈夫そう。ゆーくん。そのまままっすぐ手を伸ばして」

「まっすぐ手を伸ばせばいいんだな?」

 海梨の言われた通りに手を伸ばす。

「そう。そのまま、ってすとっぷ。違う下りちゃだめ、ひゃぁっ。ちょっとゆーくん、そこ違う!」

「え、あれ? こっちか?」

 斜め右に動かすと、ふよんっ

「ちょ、や、やだぁ、だめ。とめてぇ、ひゃんっ」

「ごめん」

 手を広げその場で静止させる。手のひらには布のような感触。

 もしかしてこれはブラ――

「いっつぅ!?」

 右手首に激痛が走った。

「ゆーくんのへんたい、えっち、すけべ。どこ触ってるの」

「だって見えないから」

「むぅ……ほら」

 海梨の指先と思しきものが俺の手に触れた。

 そのまま手を掴む。よし。あとはタイミングを合わせて引っ張るだけだ。

 今度こそ絶対に海梨を救出するぞ。

「それじゃあ気を取り直して。海梨、準備はいいか?」

「ん、いいよ」

「いちにのさんでいくから、その時に海梨も力を合わせてくれ」

「わかった」

「それじゃあ行くぞ。いち、にの、さんっ!」

 グッと勢いよく海梨の腕を引く。

 するとどうだろうか。今度はバチンっと一つ嫌な音が鳴り、

「あ、ありがと。なんとか抜け出せたよっ」

 なんとか救出することができたみたいだな。

「ふぅ。海梨、大丈夫か?」

 安堵のため息をつきながら邪魔なタオルを取ろうとするが、パシッ。

 手を握られて行動を阻まれた。

「どうしたんだよ」

「見ちゃ、だめ」

「だめって、あぁそういうことか」

 言われてからすぐに思い出した。そういえば今の海梨が着ている制服はボタンが外れているんだった。

 危ない、うっかりまた変態行為をしてしまうところだった。

「んじゃあ俺はこの部屋から退散するよ。ほら、制服貸してやるからさ」

 俺は自分の学生服を脱いで海梨の方へ放る。

「ありがと。でも待って。一人にしないで」

「わかったよ。俺の制服羽織るまでここで待ってやるから。終わったら言ってくれ」

「うん」

 しゅる、しゅる。

 わざわざ制服を脱いで鞄に仕舞っているのかよ。ったく、俺の制服を上から羽織るだけでいいのに。

「んしょっと」

 艶めかしい衣擦れの音がしばらく続く。

 おい早くしろ。頼むから早くしてくれ。すんげえ緊張するんだけど。

 想像したら負けな気がした。だって今の海梨は下着姿。下はともかく上は、

「ゆーくん。タオル外していいよ」

「や、やっとできたか」

 これ以上長引かれたら本気できつかった。変な想像を膨らませてしまうところだった。

 俺は歩きながら目を塞いでいるタオルを取り始めた。

 ようやくこの真っ暗な視界とおさらば、

「できッ!?」

 何か丸いものを踏みつけ、平衡感覚を失った。

 やばい。この方向だけはまずい。

 なぜならこの方向は海梨が、

「避けてくれッ」

「え、ちょ、ちょっと!?」

 海梨の困惑した声が聞こえてきたと思ったら、ガツリ。振り上がった足が勢いよくソファーにぶつかった。そしてコツンと俺の脛に何かが当たり、海梨を下敷きにする形で床へ。

「悪い! 今すぐ避けぶふぅ」

 顔面に何かが当たった。ついでにベチャっという音が頭上付近から聞こえてくる。

 最悪、ほんとついてねえ。ぶつけた鼻を手で押さえる。目元を覆っていたタオルがズレて視界は良好だけど、今の状況がどのようなものかの予想はつく。

 だから、なるべく考えないようにする。

 男は、そう。見ないようにして謝るだけだ。

「ごめん。今すぐ退けるから」

「ちょ、ちょっとゆーくん。動かな、ひゃんっ、だめ、だめええぇ」

「お、おいどうしたんだよ!?」

 俺はその場で制止する。なにやらヤらしい声が聞こえてきたけど、きこえていない、俺は何も聞いていないぞ!

「ゆーくん。絶対、絶対動いちゃだめだから」

「わ、わかった」

 俺が首を微妙に持ち上げた体勢を維持していると、海梨がポツンポツン、っておいぃぃ、何やってんだよこんな時に!?

「海梨!?」

「動いちゃだめだから。んしょっと。よし、やっと取れたぁ。うー、きもちわるいよぅ」

「一体どうしたっていうんだよ。それよりも動いて大丈夫なのか?」

「うん。いいよ。でも絶対にこっち見ちゃだめだからね」

「わかっているってば。絶対に見ないから安心しろ」

 俺は右目を瞑りながら起き上った。

 ふぅ、これで大丈夫だな。

 何があったのかは知らねえけど、海梨が今悲惨な状況下にいることは間違いない。だから俺は絶対に振り向かない。見たいのは山々だけど、見たらデレデレモードの海梨に嫌われるし。

 そうして海梨が立ち上がるのを待っていると、

「「あ……」」

 せっかく殊勝な態度を取ったというのに、どうやらよくないことが起こる時はとことん良くないことが起きてしまうらしい。

 窓ガラスを通して海梨の姿が見えてしまったのだ。

 ガラス越しに目が合い、お互いの口があんぐりと開く。

 どうやら先ほどのベチャっという嫌な音はローションがペットボトルから溢れだし、海梨の身体、主に喉元から胸元へかけて当たったものらしい。そりゃ気持ち悪いよな。服の中へ入り込んでしまったら誰だって耐えられねえよ。

 静寂が場を支配し、時間だけが過ぎ去っていく。

 お互いに身体は動かない。

 いや、動けない。

 だって、窓ガラスに映っている海梨の身体は、


 俺が貸した制服のボタンを全て外し、それを羽織っている状態で。

 なぜか桜色のブラは付けておらず、右手に握りしめており。

 ローションによりテカテカと光っている胸元は曝け出されていて。


 つまり、片手では収まりきれないほどの双丘とその双丘のてっぺんにある桜色の蕾に俺の視線が、

「いぃぃぃいいいいやあああああああああああああああ」

 凄まじい絶叫と共に激しい痛みが俺を襲った。

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