あ、やばい! ハマっちゃった
今日も今日とて学内は忙しそうだ。文化部からも運動部からも熱心な奴の怒鳴り声が聞こえてくる。
さて、例のイベントとは何なのか。それについて軽く触れておくとしよう。
例のイベント。その名前は――
例のイベントなんだ。
言っている意味がわからないかもしれないけど、この通り名前がつけられていないんだよ。なぜか誰もつけようとしないんだ。
ちなみにどういうことをするのかというと、文化祭兼オープンスクール兼部費争奪戦だ。
初めはオープンスクールで授業風景を見せるだけだったらしいんだけど、いつの間にかそれが文化祭のようなイベントに発展して、時が経過するにつれて部費争奪戦を行うようになり、というふうに様々なイベントが付け加えられていったらしい。
無茶苦茶だ。かなり無茶苦茶だよ。
でもそのおかげで文化祭といえる行事が年に二度もあるからな。生徒の一人としては嬉しい限りだ。
グラウンドから聞こえてくるリズムの良い笛の音を聞きながら生徒会室を目指す。制限時間は設けられていないけど、なるべく早く海梨を新聞部へ連れていくべきだろう。今日中に記事を書き上げないといけないらしいし。
そして俺が生徒会室のドアをノックしようとした刹那。
「どういうつもりだ。朝日野」
な、なんだ? あまりよくない雰囲気だぞ。
そう。不穏な声が聞こえてきたのだ。
今の声は聞いたことがある。生徒会長に違いない。
「次期副会長では満足できないと言うのか?」
「当然だ。私は次期生徒会長の座を狙っている」
「朝日野。会長にはきちんと敬語を」
と、ここであまり聞いたことのない声が聞こえてきた。パッと聞いた感じでは優しそうな印象を与える声音。
どうやら会長と海梨以外にも誰かいるらしい。
「北野はそこに座っていてくれ。その程度のことは気にしない」
「そうですか? わかりました」
ぎしりとソファーの軋む音が聞こえてくる。北野って誰だっけ? どこかで聞いたことがあるような気がするんだけど、とりあえず様子見をしよう。さすがに入れる雰囲気じゃない。
俺はドアに耳を押し当てた。
「一応確認するが、朝日野は次の生徒会長の座を奪いたい。そう思っているんだな?」
「あぁ、そうだ」
「理由を聞こうじゃないか」
「理由か。んー、そうだな。私はこの学園をより良いものにしたいから。以上だ」
「私は現生徒会の裏事情を許すつもりはない、ということか」
「む、なぜそれを」
「知らないわけがないだろう。釘を刺しておくが、言ったらただで済むとは思うなよ」
「安心しろ。別に公言するつもりはない。私が次期生徒会長になってそれをなくすだけだ」
「そうか。あくまでも北野が次期生徒会長になる手伝いをする気はないということだな?」
「そういうことになるな。とはいえ、これから行なう活動で結果的に支援することになるかもしれないが」
「ふっ、そうか。まあいいだろ。朝日野が次期生徒会長になれるとは思えんしな。アレを公言しないのなら見逃してやる。行こうか、北野」
「はい」
二つの足音がこちらに近づいてきた。
やばっ、盗み聞きがバレる!?
俺は即座に周囲を見渡し、ドアの横に飾ってある大きな壺の中に入る。
その直後、ドアが開き、
「いいんですか、会長」
「とりあえずはな。今のところ他の生徒たちにバラす気はないようだし、ん?」
もしかして、ばれた?
壺越しであるが、会長の視線がこちらに突き刺さったような気がした。
俺はすぐさま息を止める。
「どうかしたんですか?」
「いや、なんでもない。それよりも行こうか」
そして歩き始める会長と北野、もとい副会長。
ゆっくりと足音が遠ざかっていく。
「ふぅ、危なかった。バレるかと思ったぜ」
俺は額を拭いながら壺から顔を出す。どうやら生徒会長と副会長はどこかへ行ったようだ。
それにしても、かなり重要な話を聞いてしまった気がする。結局、海梨が裏事情を知っていたことが生徒会長たちにバレちまっていたのか。幸い見逃してやるとか何とか言っていたから大丈夫だとは思うけど。
「ふぅ、行ったか。ひとまず争い事は避けられそう、ん? 学生手帳? あ、おいお前、そんなところで何をしているのだ」
「ッ!? か、海梨か、よかったぁ」
他の人にばれたかと思ったじゃないか。
「む、何か悪いことでもしていたのか?」
「いや別に何も」
「そうか。あ、そうだこれ。学生手帳。落ちていたぞ」
「え? あぁ、わりぃ。ありがと」
さっき急いで移動したから落としてしまったのか。
「それよりもユウ。さっきの話、聞いていたのか?」
「一応な。途中からだとは思うけど」
「そうか。なら話は早い。今後、間違いなくあの二人は邪魔をしてくるだろう。具体的にどういうことをやってくるのかはまだ見当もつかないが、先手を打たないとまずいぞ」
「だろうな」
後手に回っていたら絶対に勝てない。現生徒会長の力が絶大なことは俺も知っている。甘く見ていたら痛い目に会うだろう。
「それで、この後対策などについて話をしようと思うのだが、その前に。お前はここへ何をしに来たのだ? まさかその壺に入るためではないだろう?」
「んなわけねえだろ。って忘れるところだった。実はさ、お前を新聞部へ連れてこいって陽花に頼まれたんだよ」
「清水に?」
「なんでも海梨に訊きたい事があるとかなんとか」
「その訊きたい事とやらは?」
「さぁ? 詳しいことは何も教えてくれなかったからわからない。とりあえず今日中に記事を書き上げないといけないらしいから今すぐ来てほしいって言っていたぞ。生徒会の仕事の方は大丈夫か?」
「ちょうどさっき終わったばかりだ。新聞部へ行けばいいのだな」
「おう、新聞部へ頼む」
「わかった、お急ぎらしいから先に行く」
「はいよ。ってちょっと待ってくれ。出られない。なんか引っ掛かって出られない! おい、海梨。海梨ってば!」
叫んでも海梨は無視してその場から去っていく。
ツンツンモードさん。頼むから、一瞬でいいからデレデレモードになってくれ。頼むからあああ。
しかし俺の叫びも空しく、視界から海梨の姿が消え去ってしまった。
あぁ、マジでどうしよう。もしかして俺、一生ここで生活するのか!?
嫌だ。そんなのは絶対に嫌だあああああああああ。




