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覚醒者オルタ  作者: FIXX
二章
8/17

 到着して三日目の午後――。

 オルタ達は自由場を後にした。竜巳いわく、自由場以外での多少のいざこざは覚悟していたが何の問題もなく予定日まで過ごせたのは幸いだった、とのこと。地下にはよそ者を見つけ次第食いものにしたがる連中がわんさかいるらしい。つまり入り口にいたあの連中は氷山の一角に過ぎないということなのだろう。

 一行はやってきた方向と異なる通路を行く。

 また更に地中深く潜るように階段を下れば、とうに廃れた古い地下鉄の改札口が出てきた。

 見ると改札口の奥に人集りが出来ている。彼らの視線の先には派手な格好をしたサングラスの男がひとり。彼は片手に三十枚程の札を掴んでいた。

「今月の掛かり場はいったい誰の手に渡るのか! そこのあんたか!? それともそこのお前か!? さあありったけの金を叩いてくれぇ!」

 サングラスの男は札の中から一枚選び、空いているもう片方の手でそれを掴んだ。周りに見えるよう高く掲げた。

「まずはDの五番だ! 収容人数五人! ここは便所に近い! だが管理組合が徹底して清掃を心掛けているから臭くはない! ただしトイレに行く連中の足音で目を覚ますことだってある! とはいえ最も近いのだから急にしょんべんしたくなっても安心だ! 開始は五千から! さあ入札してくれぇ!」

「七千!」

 真っ先に先頭にいる男が挙手した。

「一万!」

「一万二千!」

「二万!」

 ここまでくると勢いは急にすぼみ、最終的に二万二千でひとつ目の競りは幕を閉じた。

「続いては――Aの四番! 早くもスイートルームの登場だ! 収容人数二十人! 誰にも邪魔されることなく熟睡すること間違いなし! 騒音もほとんどない! しかも大画面モニターでのテレビ視聴も可能! これを逃せば残り三つ限り! 開始は一万から! さあ入札の時間だ!」

「五万!」

「八万!」

「十万!」

 一斉に手が止まる。

 サングラスの男にとってそれは予想を下回る結果だったようで、やや不満げに眉をひそめるも渋々十万の彼に札を手渡した。それから耐えかねて彼は文句を垂れた。

「おいおいどうした? やけにしけてんな! 俺が手に入れてやるって気概がどいつからも感じられねーぜ!?」

 買い手の無反応をごまかすように彼は次の札を選ぶ。

「おいすげーぜ! またまたAクラスだ! Aの一番! 驚いたことに今度のもスイートルーム! 中身はさっきの四番となんら変わりない! 開始額もおんなじだ! さあ入札しやがれ!」

「四万!」

「五万!」

 二人目が吠えるように声をあげ、三人目が手を挙げようとした瞬間、竜巳が三人目になるべく最後尾から素早く手を挙げがてら「十万!」と叫んだ。

 その他が一瞬にして沈んだと思われた。しかしサングラスの男が訝るふうに竜巳の顔を指さした。

「お前よそ者だな」

 ぎくりとする。みるみる竜巳の表情が強ばり、焦りの色が見え始めた。

「だから何だ?」と、平静を装う竜巳。

「よそ者に売るものはない! さっさと失せろ!」

「何を! 以前はそんなルールなかったぞ!」

「お前の知る常識がいつまでも通用するとでも? 今日はいい教訓になったな。よし! 今のはなかったことにして続きだ! 五万から!」

 オルタは竜巳の顔をそっと覗きこんだ。すると彼に先ほどのような焦りはなく、「階段のところまで戻ろう」と皆に移動するよう促した。

 階段――片側は空けておき、もう片側をオルタ達が占領する。

「救世主。地下に来たときはあの力を使えないようだったが、今はどうなんだ?」

「わからない。本当に。何かきっかけがあればまた使えるのかもしれないし、もうこれからずっと使えないのかもしれない」

「そうか……」

 竜巳のがっくりする音が斜め後ろから聞こえたようだった。

「竜巳や。救世主を信じよ。今はまだ完全に目覚めておらんだけなのだ」

 土御門は両脇に娘らを抱き寄せたまま神妙な面持ちで言った。

「わかっております。ですがこの後、万が一我々に売り手が現れなければいずれにせよ実力行使に打って出なければならない場面も出てくることでしょう。彼の力さえあれば土御門様の身の安全も保証されたも同然。なるべく早めに手を打たなくては」

「ふむ……」

「それに彼の力が安定せねば我々の希望も叶いません」

「我々の希望?」

 八重が首を傾げる。

「――って何?」

「土御門様を地下街の頭領とし、第二区、その他の難民キャンプと続き、そしていずれは土御門様が大東京都の長となる計画だ」

「それってつまり首都を支配するってことじゃない……そんなの聞いてないわ」

「以前から第二区全体を管理する話は出ていただろう」

「ええ、それは知っていたけれど、国をまるごと支配するような大それた話は一切聞いてない」

 彼女の険のある声に一段と鋭さが増す。

「八重。お前も救世主の力を目にしただろう? 彼が我々のもとへ連れて来られたのには理由がある。土御門様のもとに俺達が集まったのと同じようにな」

「だからって滅茶苦茶よ。そんなのできっこないわ」

「出来る出来ないじゃない。やるんだ。土御門様がトップに立てばこの地はより潤う。最終的には日本国全土が土御門様のお力に頼ることとなるだろう」

「……荒唐無稽にも程があるでしょうに」

「八重。お前は何のためにこれまで土御門様のお側に付いてきたんだ? 土御門様のお力を世に広めるためじゃなかったのか?」

「それはそうよ。でも国を支配するとかわけのわからないことが世に広めるってことなら、わたしはついていけない。竜巳、そんなことしなくても土御門様の力はみんなに分かってもらえるわ。わたし達だってその一人でしょう?」

「何も今すぐ行動を起こそうとか言ってるんじゃない。時間をかけて着々と事を進めていこうとしてるんだ。たしかに今聞けば疑問に思うことだらけだろう。だがな、数年後、この話は現実のものとなる。必ずな」

 もはや八重は口論を重ねていく気すら起きないと目を伏せる。その時、竜巳が立ち上がった。

「この話はまた今度だ。競売が終わった」

 ぞろぞろと改札を抜けてくる者達。彼らは四方八方に散らばっていく。

「こっちにやってくる連中の中には空きスペースを売り捌いて儲けようと企む者もいるはずだ。まして先ほどのやりとりを聞いていたなら、さっそく高めに売りつけようとしてきてもおかしくない。多少値が張ってもそれを買おう。先行投資と考えれば安いものだ」

 だが階段へやってくる者達の足は一向に止まらない。止まるどころか蔑視を向けてくる者がほとんどである。

 程なく人集りが途切れた。つまり売り手は一人もいない……。

 今後の展開が読めなくなったのか竜巳は頭を抱え、苛立ちをおさえるように嘆息を吐いた。その時だ。

「一人五万。どうだ?」

 竜巳はとっさに顔を上げる。見れば目の前に一人だけ立っていた。外国人にしては小柄な、片目がやや潰れている短髪の男だ。最近殴られでもしたのだろう。それでも充分男前で、彼が笑うとなぜか見ているほうの心がほっこりする。年の頃は二十代後半といったところか、不思議な雰囲気の人だった。

「おれはイサイ。ロシア系だ」

 竜巳は駆けおりて一拍おいてから彼と固い握手を交わす。

「一人五万で頼む」

「契約成立だな」

 イサイは屈託のない笑顔で歓迎してくれた。

 彼に連れられて一行は、階段を南とすると西の方角にある作動していないエスカレーターをのぼり、その先に並んでいたシャッターの間を通った。営業していた頃はここはこの地域でもっとも栄えていた地下ショッピングモールだったらしい。

『メガネの クダ』という看板が掲げられてあるシャッターの一部を改造した扉の鍵を開け、入る。

 中はきれいなものだった。当時宣伝用に使っていたものなのか確かにレジカウンター奥に大型モニターもあった。というかモニター以外はとくに何もない。

「おれを含めば全員で十三人だな。管理者が定めた収容人数二十人分の鍵を受け取ったから、一人ずつ渡そう。余りはそこらへんに置いて保管という感じでいいか?」

「我々はここの所有主である君に従う」と、竜巳。

「オーケー。じゃあ俺はあそこのレジカウンター奥を寝床として使わせてもらう。それと彼女をそばに置きたいんだけどいいかな。一目惚れしちまってね」

 まさかわたし……? と八重も驚きのあまり自分で自分を指さしていた。

「そう君。おれ、君みたいな人がタイプなんだ」

「いいだろう」

 なぜか当の本人よりも先に竜巳が答え、八重が「えっ」と目を見張る。

「ちょっと待って、そんな勝手に」

「その年で男っ気がないというのはどうかと以前から思っていたんだ。この際ちょうどいい。彼をものにしてこい」

 言下に八重は竜巳を張り手でぶちのめした。それを見ていたイサイが喜ぶ。

「おお! 元気満々でいいね!」

「わかった。でもそのかわり条件を一つださせて頂戴」

「なになに?」

 興味津々のイサイ。

「彼もそっちで寝させて」

 いきなり肩に手を置かれ、オルタはビクッとなった。まさかオレも……? と目を見張る。

「んー。それだと夜這いができないな」

「どちらにしても妙な気を起こしたら容赦しないわ」と、八重。

「あれま。まあいいか。そっちの条件を飲もう」

 元々何か機材が置かれていたらしく、レジカウンター奥の床にはそれらしい後がついていた。その分も含めればレジカウンター奥は五・六人は横になれるであろう広さがある。川の字になって寝るのが日本の風習だと一生懸命イサイは語っていたが、八重の凄まじい気迫に押され、結局互いの頭が向き合うようにYの字に敷布を敷くこととなった。

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