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覚醒者オルタ  作者: FIXX
一章
5/17

 オルタ達は根城へと戻り、眠りについた。予定起床時刻は午後0時。

 疲れていたのもあって研究所にいた時の倍も眠り、予定起床時刻を過ぎると分け与えてもらった使い古しのテントに竜巳がやってきて、たたき起こされた。さっさと出かける仕度をしろとのことだ。

 聞くと今日は仕事にいくという。仕事はどうやら年齢・性別・経歴等に関係なく雇ってくれる雇い主がいるらしく、詳細は自分の目で確かめろと竜巳は言った。

 真っ昼間の太陽はそれはそれは眩く、目が灼けるかと錯覚するほどだった。だけど不思議とそれが心地良かった。

 竜巳について高架橋の脇にある階段をのぼって上に出る。

 高架上にはなんと、建て増し建て増しで造られつつも、ややくすんだ白を基調とした小綺麗な街並みがあった。初めて外の世界を見たときのあの都会と比べると、計算尽くじゃないところがそう思わせるのか、どことなく幻想的で老朽化しつつある建物などどれも魅力的である。

「ここだ」

 住み心地の良さそうなアパートメントの隣、『弁当』と書かれた旗を掲げる店に竜巳は入っていく。

 中は質素な造りで、購入した弁当をその場でも食べられるように幾つか手狭なテーブルが設けられていた。カウンターで二人分のノリ弁当を注文し、四四〇円を支払ってから一番奥の席を陣取った。

「まずは腹ごしらえしないとな」

「ここにはいつも?」

 オルタは店内をぐるりと見回してみた。

「いつもってわけじゃない。三日続けて通う時もあれば、週に一度の時もある」

「あれは?」

 指し示した先には通りを挟んだ向かい側にある謎の店。シャッターは開いているものの、外の棚には何も置いていないし、一見何の店なんだか見当もつかない。

「あれは串焼き屋だ。鳥や豚の肉を串に刺して焼いて売ってる」

「商品がないようだけど」

「準備中なんだろう」

 ふうんと向かい側を観察していると横合いから弁当が出てきた。店主は何もいわずテーブルに置いたら去っていく。無愛想だ。

「さあ食え。食ったら次行くぞ」

 オルタは十五分かけてゆっくり平らげた。初めて食べる外のものは研究所のドロドロとしたものより何十倍何百倍も旨かった。ノジエにも食べさせてやりたいと思うほどに。

 帰る際、竜巳はまたもや弁当を注文し、今度は持ち帰り用に袋詰めされた特製弁当が出てきた。

 弁当屋を離れてから竜巳に袋の中身を確かめるよう言われ、オルタは覗き込んだ。

 袋を二重にして内包されていたものは確かに弁当箱だったが肝心の中身は弁当とは程遠い代物で、小型のメモリーカードだった。

「これが俺の仕事だ」

 中身がちゃんと入っているのを知り、竜巳は素早く袋をあたかも単なる弁当の入ったもののように提げる。

「こうやって色んなとこを回ってこれを回収していく。ただ馬鹿正直に真っ直ぐは回らない。だから次はちょっと時間を潰すぞ」

 竜巳は表通りを外れて昼間でも薄暗い路地裏へと進んだ。

 T字路を右に折れれば、肝っ玉かあちゃん的な女の人が、自分の家の窓と向かい側の家の窓との間にロープを結びつけ洗濯物を干していた。竜巳はかまわず洗濯物をひょいっとめくって通り抜ける。オルタもそれに倣うことにした。

 そのまま直進し、今度はL字を左に。

 すると足もとに看板が現れた。『遊技場』と書かれていた。

 そうして一つ目の角を曲がれば行く手には一枚の扉が。

「潰すのは三十分だ」

 竜巳が扉を開けたとたん、がやがやと騒がしい人の声や、喧しい音楽が耳の鼓膜を激しく揺らした。思わず「うわっ」と仰け反ってしまう。

 店内には入って右手のところにカウンターがあって人が立っていた。竜巳が彼と話している間、四方を囲う壁に沿うようにして配されたゲームの筐体を、オルタは怪訝な面持ちで見る。

「そんなに珍しくもないだろう。ただのアーケードゲームだ」

 竜巳は中央をゆっくり進みながらチラチラ確かめるように見、やがて奥の一台に腰掛けた。その左隣には人がいたが、右隣は空いていたのでオルタはそこに座る。

「ほれ。貴様もやってみろ」

 スタートと記されたボタンを押すだけでチャララーンと軽快な音が鳴り響いた。見よう見まねでレバーを握り、六つあるボタンに指を置き、いざプレイ。

 何も操作しなくとも上へ進んでいくプレイヤーの選んだ小型船。その後ろにはそれよりも大きな大型船があり、上から弾を撃ってくる敵がひっきりなしに襲ってくる。小型船が弾か敵に当たれば左上のゲージが減っていき、大型船が弾か敵に当たれば右上のゲージが減っていく。大型船は単なる客船なのか一切攻撃に参加せず、しかも小型船よりも早くゲージが減ってしまうようだった。

 スタートして三分、あっけなく大型船は沈没した。

「なんだセンスないな」

 一方、竜巳は十分を過ぎてもまだ続いていた。オルタも負けじと二度目三度目とトライしたものの、腕はまったくと言っていいほど上達しない。だから四度目のトライは諦めて他のことをすることにした。

「カードの中身って何?」

「ちょっと唐突すぎやしないか。こちとらボス戦だというのに」

「こうして店を回るだけで金を稼げるってことはそれなりに重要なデータが入ってる。違う?」

「……おかしな奴だ。ここを見るや驚いたかと思えば、妙なことには勘が働く。でもな、五時間回ってやっと三〇〇円とかかもしれないだろう? 値段も聞かずに中身が重要と判断するのはちょいとばかし早とちりだな」

「じゃあ幾らもらえるの?」

 ここでようやく竜巳はちらっと横目にオルタを見やった。

「月給にしてだいたい二十万だ。その中には危険手当とやらも入ってるが」

「危険手当? てことは命に関わるようなものが中に?」

「まあ……そういうことだな」

「たとえば?」

「知らんほうがいい。首を突っ込むにはあまりに深すぎるものだ。そうさな……貴様を心の底から信頼できるようになったら教えてやらんでもない。といってもそれにはまだまだ長い年月を必要とするだろうから、今は深く考えず仕事を淡々とこなして覚えていけばいい。それに俺の仕事を手伝うとは決まってないしな。貴様次第で他のやつを手伝うことになるかもしれない」

「他の仕事って?」と口に出しそうになるも、恐らく「それも実際に見てみれば分かることだ」などとはぐらかされそうなので言わないでおく。

 ぴったり三十分時間を潰して外に出た。

 その後は精肉店、ビデオショップ、大家族宅、銃を手にした老人宅、駐車場をダンスフロア代わりにしていた青年、バイクタクシーの運転手を回り、陽が傾き始めた頃ようやく最後となろう教会へと行き着いた。

 その教会はぱっと見それとは分からない佇まいをしており、扉上の小さな逆十字を見逃してしまえば只の四角い住宅として認識しかねない。

「珍しいですね、連れがいるなんて」

 真紅の衣装を纏った修道女は、顔の下半分をレースで覆っていた。地味そうな顔だがそれを紛らわすためのものではなさそうである。

「昨日我々のグループに加わった。オルタだ」

「そうですか。宜しく」

 オルタは彼女の酷く冷たい手にぞくっとした。

「では、どうぞ中へ」

 中には信徒席やが祭壇のまえに整然と並んでいた。しかしそこには一切触れず建物の片隅へ向かい、メモリーカードを受け取る。それから間もなくオルタはあっと驚かされたのだが、彼らは親しい仲なのかこれまでの人達とは異なり、別れ際に抱き合っていた。

 教会を後にし、どうしても気になったので聞いてみた。

「竜巳さん。何であの人とだけ抱き合ったの?」

「彼女は俺の恋人だ。歳は二回りも下だが」

 照れ笑いの一つもなく言ってのける竜巳に、思わず表情が固まった。

「そうは見えんだろう?」

「いや……まあ、あんまり顔見えなかったし、そもそもどんな人なのかもわからなったけど」

「確かにな」

 ここでやっと微笑んだ。そしてこう付け加えた。「彼女は天からの使いなんだ」

 二人についてはこれ以上踏み込まないでおこうとオルタのほうは以降口を噤む。

 空が橙色に染まり夕陽がなかば沈んだ日暮れ時、高架橋脇の階段をおりる最中、遠くのほうからヘリコプターの音が耳に入ってきた。するといきなり「ばかたれめ! なぜ連中が!?」と、竜巳は血相を変えて階段を駆け下りていった。

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