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覚醒者オルタ  作者: FIXX
四章
17/17

 不意に手足が震え始め、デスクに手をついた。緊張が解けたのだろう。

(終わったのになんでこんなに気分が悪いんだ……?)

 もたれかかるようにしてオルタはへたり込む。そんな時ふと、外から車両のエンジン音が聞こえ、間もなく近場でブレーキ音が響いた。

 ふらつきながらも立ち上がり、廊下へ。

 機械少女との戦いで損壊した部分から覗き見ると、目と鼻の先に駅前ロータリーに停まっていた装甲車と、銃火器を装備した複数のパワードスーツ兵の姿があった。

「何があったんだ? BⅠ、BⅡ、そのまま車内で捕虜を見張れ。残りは周囲を警戒。不審人物を見つけても発砲はするな。ただし交戦の意思を確認した場合は容赦なく撃て」

 既に自身が力尽きていることを自覚していたオルタは、ゆっくりと彼らの前へ出ていく。それに気づいた兵が声をあげて報告する。

「少年を一名発見!」

 一斉に複数の目が向けられ、オルタの鼓動は跳ね上がった。

「君! 手をゆっくり上げるんだ! 抵抗しなければこちらも攻撃しない!」

 言われたとおりにする。

 隊長の合図により一人の兵が後方へ回り、オルタの体を一通り確かめてから首を横に振った。すると隊長が、

「単刀直入に聞こう。ここで何があった?」

「オレがやったんだ全部」

 しばし状況を整理するような沈黙のあと、程なく彼は動いた。

「捕虜を外へ。ここからは徒歩で向かう。AⅢ、AⅣは念のため彼を前に先頭を行け」

 指示に従い、オルタを先頭にもっていこうとする兵。そんな中、目の端に――車両から降りてきた萌音とイサイの姿が映り込んだ。

「萌音! イサイ!」

 オルタの呼び声に、二人も振り向く。

「オル!」

「オルタ!」

 すかさず駆け寄って抱き合った。そこへ隊長がやってくる。

「成る程。君がオルタか。所長命令で君を保護しろと言われている。大人しく我々についてきてくれ」

「二人が一緒なら、何もしないよ」

「わかった。三人を先頭にしてC棟に向かう! 周囲の警戒を怠るな!」

 その後、三人はパワードスーツ隊と共に所長室のあるA棟から、もっとも研究所らしさのない佇まいの事務局とも呼ばれるC棟へ。

 一階の奥には自動扉が三枚並ぶ通路があり、室内はどれも空のようだった。

 そのうちの一つにオルタ達が押し込められた後、扉はロックされた。

「うち、てっきりオルは死んだかと思っとったで……。あいつら何も教えてくれへんし」

 棒立ちになっていたら背後から萌音が抱きついてきた。

「ごめん。実はオレもあんまり分かってなくて……。無我夢中だったんだ」

「どうやってここまで来たん?」

「ふと頭に所長のいる場所が浮かんで、次の瞬間にはそこにいたよ」

「アンタほんと無茶苦茶やな……」

 耳もとで萌音が小さく笑った。

 オルタを真ん中に据え、三人肩をくっつけて冷たい床に座る。――と、イサイはそのままスーッと滑り、仰向けに寝そべった。

「ずっと緊張しっぱなしで疲れちまった。これからどうする?」

「二人には悪いけど、オレ、力使い果たしたから、強行突破は当分むりだと思う」

「ええよ。オルが回復するまでここにおれば」

「言い方悪くなっちまうが、オルタが回復する前に処刑とかになったどうすんだ?」

「知らんわそんなの」

 溜め息をつき、ふっと萌音は寄りかかってくる。何もない冷たい空間と、彼女の行動があることを思い起こさせ、オルタは胸が締め付けられるようだった。

「うち等でどうとなる状況でもないし、大人しく待つしかないやろ……」

「確かにな……。じゃあオルタ。万が一死ぬと決まったら、俺は目瞑っとくから、思う存分萌音と仲良くしとけ。どうせ死ぬなら大人になってから死んだほうがいいだろ?」

「イサイ、アンタも相当頭イカれとるな」

「褒め言葉かそれは」

「まあ、死ぬと決まったら、腹括るわ。死刑囚も最後は好きなもんを食うみたいやし。うちも女になって終われるなら少しは笑って死ねるやろ」

「……おい、その女になってってやつは、どっちの意味だ?」

「あかん。その前に煙草も吸わせてもらわな」

「……無視かよ」

 二人がオルタを挟んで会話を弾ませている間、肝心のオルタは物思いに耽っていた。

 このまま殺されてしまったら萌音もイサイも無駄死に同然だ……そんなことあっていいわけないのに、今のオレは何もできない。結果的に我を通したからこそこんな事になった。二人を巻き込んだ責任はオレが負わないと……。

 やったことへの責任、起きたことへの責任も取れないなら、我を通すこと――ましてや勢いに任せて行動するなんてことは断じて許されない。

 もしこのまま疲労が回復する前に責任を問われることになった場合、オレのやるべきことはただ一つ……オレの命にかえても二人を助けることだ。

 やがて三人は口を閉じ、目を閉じた。

 自分達の息吹きだけが聞こえる。

 そうしてそのまま眠りについた。

 何秒か、何分か、何時間か、静かに時が流れた。

 ――不意に扉が開く。

 人の気配が近づいてくるのをいち早く察知し、オルタはハッと目を開いた。そして見つける。入ってきた竜巳の姿を――。加えてあのドレッドヘアの女性も。

「いくぞ。ついてこい」

 竜巳の声で萌音とイサイも目を覚ます。

「いくってどこへ?」

 オルタは険のある口調で問うた。

「このままここにいたいのか? ここから逃げたいならついてこい」

「は……? 竜兄……!? 何でここにおるん!?」

「たまたま研究所内でオルタと出くわしたんだ。気になって彼女と一緒に後を追ってみたら、お前達が捕まった。ここへ来た理由はわかるだろう? お前達を助けるためだ」

「嘘だ。あんたがそんなことするはずない」

 オルタは睨みつける。

「忘れたのか? 出会って間もないお前を俺が置いてやったんだぞ?」

「じゃあなんで八重さんの死をあんな簡単に受け入れられたんだ!? もっと悲しんであげるべきなのに!!」

 次の瞬間、竜巳はオルタに掴みかかり、胸ぐらを掴んだ。

「生きている者と、死んでしまった者とじゃあ全く価値が違う……。わからんか? 確かに死は悲しいものだが、それよりも生きている者の方が何倍も価値があって大事なんだ。だから、死んだのならともかく、生きているうちは見捨てはせん!」

 竜巳の目は力強くまっすぐ向いていた。紛れもない男の目……オルタは目頭が熱くなった。

「どうだ? 俺を信用してついてくるか?」

 オルタは黙って頷く。

 急ぎ建物から出て、ドレッドヘアの女性が所有する乗用車に乗り込んだ。研究所を後にする。追っ手はいない。もしかすると今頃、空っぽの部屋を見て慌てているのかもしれない。

 研究所の周辺はそれも敷地のようでしばらく更地が広がっていた。

 敷地を過ぎると大きめの川に架かる橋があって、渡ってしまえばあとは住宅地ばかり。そこでようやく後部座席を占める三人はホッと胸を撫で下ろした。

「ありがと、竜兄」

 前のめりになって萌音が礼を述べた。

「礼なら隣に言え。彼女の協力がなければ何もできなかった」

「どうもありがとう」

 改めて礼を述べると、助手席のドレッドヘアの女性は微笑んだ。

「大したことはしてません。無事で何よりです」

「ほんとそうやね」

 頷きながら萌音がシートにもたれかかる。

 車は繁華街を横断し、やがて真珠通前に辿り着いた。

「お元気で」

 助手席からお辞儀をする女性。かたや車外に出てきていた竜巳を目の前にして、オルタは何を言ったら良いか困り果て、つい次のようなことを口にした。

「ガールフレンドによろしく」

「ああ。それならもうそこにいる」

 竜巳が親指で指し示した先は、車。だがあの真紅の衣装を纏った彼女がいるはずない。いたらまさに幽霊だ。

「竜巳さん。車の中には彼女しかいないよ」

「そうだとも」

 怪訝な顔をオルタが浮かべるや、竜巳は面白がっているふうにうっすらと笑う。

「まあいい。種明かしは時を改めてしよう。とにかくまた会う時までさらばだ」

 と、竜巳は車の後方を回って運転席へ。

「竜巳さん!」

 彼が乗り込む前に、オルタは呼び止めた。

「……ありがとう」

 照れ臭そうにしながら彼は車を走らせ、去っていった。

 その後三人は大きく息を吐き、その場に佇む。気持ちとしては人目も憚らず叫びながら抱き合い、跳びはねて喜びを分かち合いたかったが、まずは無事に帰って来られたという安堵感をそれぞれ噛み締める。

「よう帰って来られたわ、ほんと」

「だね」

「だな」

 オルタとイサイは口を揃えて頷いた。

「二人ともありがとう。オレに力を貸してくれて」

「おれこそ何もしてないぞ」

「ううん、二人の存在がすごく心強かった。何をしたとか、何をしてもらったとか、そんな事より、二人と巡り会えたことがオレにとっては幸運だったし、二人がそばにいてくれたことで強くなれたんだよ」

「そうか。じゃあもううちからは離れられへんな?」

 唐突に萌音の手が首に回される。

「まあ……そうだね」

「よしよし。これからもずっと一緒にいてやるから安心しろ」

 萌音に続き、イサイの手も首に回される。

「あ、ありがとう……」

 正直なところ、疲労困憊のところにそれは結構きつい。が、オルタは幸せだった。

「さあこのまま三人、仲良う帰ろか」

 真珠通の奥へと消えゆくオルタ達。気がつけば雨はやんでいた。

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