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覚醒者オルタ  作者: FIXX
三章
14/17

 車ではなく徒歩で十分も歩けば駅に着くという。車移動も良いけれど歩くほうがもっと良いとの萌音の要望で、車も通れないような迷路さながらにうねる細道を歩いた。雨が降りそうな曇天の下、時には肩を並べて、時には一列になって進む。人とすれ違う際にはオルタが気づいて萌音の後ろにつかなくてはならないのだ。

 住民はもっぱら自転車やバイクを利用しているという住宅街、なぜか人懐っこい猫がいっぱいいた。誰も彼も構ってくれとばかりに目や足で追いかけてくるし、声もかけてくる。そんな彼らに気をとられているうちに、いつの間にやら道は駅前のロータリーと交わっていた。

「あれが待ち合わせ場所」

 カフェ『アルティノッポ』は駅の出入り口を挟んで反対側にあった。

 入店し、白と黒もしくはマゼンタと黒という色合いの市松模様が彩る制服に身を包んだウェイトレスが往来している中、萌音は常連のような足取りで一番奥の三段高くなっている丸テーブル席につく。

 手近にあったメニューを渡され、それに目を落とすやいなや、ウェイトレスがやってきた。

「いらっしゃいませ。ご注文は後ほどになさいますか?」

「そうして下さい」

 頷く萌音を認めてウェイトレスは去っていく。

 それからオルタは店内を一目見て思ったことを率直に聞いてみた。

「萌音さんってここのウェイトレスが着てる服好きでしょ?」

 水の入ったコップを傾けようとしていた彼女の手がとまり、やや目を剥く。

「なんで分かったん?」

「そんな感じがした」

「むっちゃかわええやろ? 頭にカチューシャつけて、辛抱たまらんわ」

「それって見てるほうがいいってこと? それとも自分も着てみたいってこと?」

 そう問うた(のち)、萌音の目つきが意地悪なものへと早変わりした。

「オルがどうしても見たいっていうなら着てやってもええけどぉ?」

「見たい」

 これまた率直な意見だ。

「なんつう素直さや……」

 やがてオルタはアイスカフェオレ、萌音はメロンソーダを注文し、品が運ばれてきてからも他愛ない話で盛り上がり、もうじき午前十一時になろうかという時点で店の外に見覚えのある顔をオルタは見つけた。

 紛れもなくイサイだ。彼は入店するなりちょろっと見回して、こっちにやってくる。

「おっす。なんか長いこと離れてた気分だ」

 オルタの向かいに座っている萌音と目が合い、イサイはすかさず手を差し出し握手を求めた。

「会えて良かった」

「こちらこそ」

 萌音は気持ちよく握手に応じる。

「うち二十二やけど、そっちは?」

「二十八」

「言葉遣いはかしこまらなくてもええんかな?」

「ああ勿論。だってオルタの共通の友なんだし、変にかしこまったりしたら面倒だろ」

「同感」

 どっこいしょっと声をもらしながらイサイはオルタの近くに椅子をずらし腰掛けた。

「というか、おいオルタ」

「何?」

「綺麗だとは聞いてたが、綺麗どころかすっげーべっぴんさんじゃねえかっ」

「ああ、まあ」

「へえ、オルそんなふうに言ってくれてたんか、照れるわ」

 本当にうれしそうに萌音が微笑むのを見たせいか、イサイはちょっと調子に乗ってさらに付け足す。

「今まで見た何よりも綺麗だって星を見上げながら言うんだぜ? まだまだ子供のくせに生意気だろ?」

 聞いた途端「何言うてんの」という鼻で笑う感じと、まんざらでもないというか「本気にしてもええの?」という誘うような大人の色気を帯びた感じの眼差しを、萌音は向けてくる。これじゃそんなこと言っていないとは口が裂けても言えない。だから話題をなるべく早めに変えるしかなかった。

「それより大事な話があるんだ、イサイ」

「ん? 改まってなんだよ」

 周囲に聞こえぬよう声をひそめることに徹して話だそうとしたが、タイミングを見計らったようにウェイトレスによって阻まれた。

「お待たせしました」

 どうやら入店してすぐ注文したらしいカプチーノが置かれる。

「ごゆっくりどうぞ」

 丁寧にお辞儀をしてウェイトレスは去っていった。

 まずはひと口とカップを傾けるイサイに、改めて話しかける。

 声をひそめていても話は順調に進み、途中質疑応答を交えながらも、四十分ほどで研究所やノジエの説明が済んだ。無論、潜入についても。

 その頃には各自の飲みものも空になっており、再度注文して新しいものを持ってきてもらった。

「まあ何かしら人には言えない事情ってものがオルタにはあるんだろうなって思ってたんだが、まさかそういうことだったとはな……。聞いといてなんだけど、それをおれに話して良かったのか?」

「力のことは前に話してるし、いいよ」

「そっか」

「当然イサイも参加するんやろ? 作戦に」

 確認するように言った萌音に対し、複雑な顔を浮かべていたイサイが答える。

「聞かれるまでもない。オルタの女を救い出すためなら喜んで力を貸すぜ!」

 自らの口でそう言った後「……あ!」と苦い過去でも思い出した感じに声をあげ、イサイは「ちょっとトイレ付き合ってくれ」と、オルタの服をぐいと引っ張った。仕方なく立ち上がり、彼についていく。

 男子トイレに入るなりイサイは目の前で手を合わせ、頭を下げた。

「すまない! おれはオルタが彼女を狙っているものだとばかり思って、さっきはつい余計なこと口走っちまった! 本当にすまん!」

「大丈夫。ちょっと誤解されたみたいだけど、見てのとおりオレまだ子供だし」

「お、おいっ。本気にすんなって! おまえはそなへんの奴と違っていざっていうとき逃げずに向かっていけるし、凄い奴なんだ! 卑屈になる必要なんかない! おまえが本気になれば彼女を愛人にだって出来るさ!」

「いや、イサイみたいにアグレッシブな生き方は無理だし、性に合わないよ」

「……おまえ……異性に対しては慎重なのな」

「だって異性だし」

 それまで熱く語っていたのに突然イサイは呆れ顔を浮かべる。

「同じ男とは思えん奴だ」

「それはこっちの台詞」

 トイレから出て席に戻ると、何故かそこに萌音の姿はなかった。彼女もトイレだろうと思い、しばらく待っていたらやはりトイレから出てきた。

「例の件で連絡があった。手筈が整うのは一ヶ月も先になるらしいわ。どうする?」

「一ヶ月後……」

 オルタは俯いて考え込む。

「行動するなら早いほうがいいよな? オルタが来るってことわかってるなら向こうだって何か手を打ってくるのは間違いないし、もうすでに何らかの妨害工作がされているにしろ、一ヶ月先に延ばすほうが厄介じゃねえか?」

「だとしても、うち等だって手の打ちようがないんやし、待つしかないやろ? その間にオルだって今以上に力をうまく使えるようになっとるかもしれへん」

「うーん……どうしたものか……」

 イサイが頭を抱え、萌音はテーブルに突っ伏す。

 一方、オルタは真っ直ぐ前を見据え、時折ちらちらと周りに視線を送っていた。なぜか逃げるように客が減っていく。外で何かあるんだろうか……? それに加えてなぜか従業員までもがこっちを気にするような素振りをしつつ、慌てて店外へと走り去っていく。

 二人には何も言わず周囲を観察している間に、なんと店内はオルタ達を残し、すっかり空となった。

「あのさ、二人とも。ちょっといい?」

「んあ?」

「何?」と、萌音も顔をあげる。

「店の中、オレ達だけなんだけど、これっておかしいよね?」

 何言ってるんだ……と二人もようやく辺りを確認し、ここの異状に気づいた。

「従業員もいないんか!?」

 急いでカウンター内に走っていき、奥へ向かった萌音は「一体何があったん! ひとっこ一人いないで!」と叫ぶ。

「外は――外なら誰かいるだろ!?」

 今度はイサイが席をたち、急ぎ外のようすを確認しに向かおうとしたその矢先、アルティノッポの前、つまり駅前ロータリーに二台の装甲車が停車した。瞬時にオルタの直感が働き、それが徒事ではなくオルタ達にとって非常に危険なことが差し迫っている証なのだと確信し、すかさずイサイを引き留める。

「イサイ! 萌音のところに行って隠れてて!」

「この状況に心当たりでもあるのか!?」

「たぶん、追っ手のほうから先に来たんだ。オレを捕まえに」

 一旦外を見やってから、イサイは慌ててカウンター奥へと走っていった。その先にも裏口があれば……二人はきっと逃げられるだろう。

 オルタが覚悟を決めるため大きく深呼吸をしたのと同時に、装甲車の扉が開かれた。

 災害地および紛争地域などで数多く活躍していると噂に名高い――軽量型のパワードスーツに身を包んだ兵士らが地に降り立ち、その後に続いて一際目立つ姿をした奴も現れ、そいつを先頭に置いて連中は横一列に並んだ。

 先頭にいる奴は雰囲気としてはパワードスーツというよりも人型ロボットに近い。だが中身が人であろうことは何となく分かる。要はサイボーグだ。――体格はさほど大きくはなく、比較的重量も軽めだろう。とはいえ外見からくる威圧感は他の兵士のそれとは比にならないほど強烈だ。黒光りする鋼めいたボディには幾つもの管が通っており、頭部には鬼のような眼が六つもある。それに加えて髪のように生える管もそのまま腰辺りに弧を描いて接着している。ぱっと見、性別の判断さえつかない。

 やがてサイボーグは一人、店のドアを開けて入ってきた。

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