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覚醒者オルタ  作者: FIXX
三章
13/17

 モコモコの上下お揃いのジャージを着てテレビを見ながら待っていると、風呂から上がった萌音が戻ってきた。

 黒いガウンを羽織った彼女は煙草に手を伸ばし、火を点けるなり、ドサッともたれかかってくる。思わずオルタは硬直して吐きだしそうになった心臓を、ゴクッとノドを鳴らして呑み込んだ。

「ノジエだっけ、彼女の名前」

「うん」

「無事だとええね」

「きっと無事だよ。オレが向こうなら生かしておく」

 ふうっと萌音は紫煙をくゆらせた。

「オルってさ、子供か大人か、なんかちょっと曖昧な感じがして憎たらしいわ」

「オレおかしい?」

「おかしくはない。ただ生意気でええ感じやって褒めただけ」

「それ喜んでいいの?」

「相手次第ちゃう?」

 何となくオルタは試されている印象を受け、何を言おうか迷った。

「ところでいつ助け出しにいくん? いくんやろ? 彼女を救出しに」

「もちろん。でも今すぐは無理だと思う。乗り込んでいっても力がうまくコントロールできないんじゃ話にならないから」

「確かに無謀やな。詳しくは知らんけど、東京工学システム研究所て確か無闇やたらと臨床実験を繰り返してるって黒い噂が絶えず出回っていて、実体がつかめない施設やね。ただ……」

 一息つくのを、静かに待つ。

「身分を偽って潜入してしまえばこっちのもんやろうな」

「潜入? どうやって?」

「面倒やけどそれらしい奴に扮する術があるんよ。問題なのはそのルートを今でも使えるかどうか。期待させるようなこと言っといてなんやけど、いっぺんスパイまがいのことしたこともあるし、うちあんま信用されてへんの。パイプをもつ相手にな」

「あ、カジノやめた理由がそれ?」

「いやいやそっちはちゃう。全くの別問題。カジノはただ単に興味でやってたことやから、興味がなくなったらそれまでって感じのものだったってだけ。なんやろうな、うちにはやり甲斐を感じられへんかったっていうのが一番の要因かもしれん」

 言い終わると萌音は勢いよく立ち上がった。煙草を灰皿の上でもみ消し、バッグの中から携帯電話を取る。「ちと当たって砕けてくるわ。待っといて」とベランダのほうへ。携帯電話を耳にあてる彼女の表情は、不安の他、いささか緊張しているようにも思えた。

 十五分経って戻ってきた萌音はまず先にたばこを咥え、火を点けた。多少苛立ちの色がうかがえる。

「なんや知らんけど電話の相手がやけに機嫌良くてな、二つ返事で手配してくれるって了承得られた。問題発生か、手筈が整い次第、連絡してくれるらしい」

 オルタは、何としてでも力を制御できるようにしておかねばと、いっそう強く思う。潜入がうまくいっても96号のような敵とやり合わなくてはならない時が訪れるかもしれない。それにノジエを見つけてからのこともあるし、やはり力はどうしても必要になるだろう。

 その後、ささやかな歓迎パーティという名目で萌音は自粛していたという出前のピザを頼み、買ったはいいものの観ずに積まれてあった映画を二本続けて消化し、気がつけば午前0時を回っていた。

 明かりを消していたせいもあってか、オルタは心地良い眠気に誘われ、ウトウトとしている。

「あかん。寝よか」

 こくりと頷いてみせて萌音が立ち上がった隙にソファにぶっ倒れた。

「こらこら。そんなとこで寝んでもうちと一緒にベッドで寝ればええやん」

 眠気がすこしふき飛んだ。でも……。

「いやオレはここで」

「何で?」

「何となく」

「……そやな、ごめん。軽率だったわ。風邪引かんように毛布もってきたるな」

 程なくして肌触りのいい毛布が全身を覆った。

「おやすみ」

 目の前から遠ざかる萌音の後ろ姿を、毛布から少し顔を出して覗き見る。

 明かりのない暗がりの中、ふわっとガウンがはだけて床に落ちた。オルタが見ていることを知ってか知らでか、彼女は妖艶な下着姿をさらけ出したあげく、ベッドに横たわり真っ黒い毛布に包まった。

 何だか木によじ登りたくなるようなテイストの香りがだんだん確かなものとなっていき、やがて気の頂上へとたどり着いたすえ聖なる日の出を間近に見たのは錯覚で、ふと目が覚めればそこは見慣れない空間。思考もゆっくり焦点が合わさっていく。

「おはよう。コーヒー飲み」

 オルタが起き上がった物音を聞き、すでに昨日とは違うちょっぴり乙女チックな格好へと変身していた萌音が、湯気の立つ黒い飲みものを持ってきてくれた。なのでそのまま口に運んだ。

「ばっ、熱くないん!?」

「熱い……火傷した……」

 しかし寝ぼけ眼で傍から見ても痛そうな感じではない。

「あんた朝はえらくボケとるな。今度からちゃんとふーふーし」

「うん」

 目を疑うほどのオルタの寝癖を、萌音が撫でて鎮めようとしてくれる。だが、残念ながら寝癖は何人たりとも懐柔させない頑固な奴だった。

 ソファで二人肩をくっつけてパンをかじる。テレビでは昨晩起きた玉突き事故のニュースを報じていて、新人アナウンサーらしい男が噛み噛みであんまり内容が頭に入ってこない。

「そういやさっき、イサイから電話かかってきてな、午前十一時に駅前のカフェで待ち合わせってことにしといたけど、それで良かったんかな?」

「ああ、うん。ありがとう」

 テレビ内の時刻を確かめる。現在午前十時十三分。

「食べてオルタも着替えたら出よか。あと途中でどっか寄って男物の服も買わんと」

「え」

「ずっと同じ服なんて嫌やろ?」

「なんか……何から何までごめん」

「別に。うちがしてやりたいだけやで」

 十時二十五分、部屋を出て下の店へ。

 人気はなくマスターもいない。聞けば夜型人間だから昼を過ぎないと起きてこないらしい。うら寂しいカウンターを抜けて正面口から二人は出て行く。からんからんと音が鳴って扉は閉まった。

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