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伊那谷さんは買い物上手
伊那谷さんはフリマが大好きだ。彼女は、フリマには全てのものが揃っていると思い込んでいる。
「良いでしょこのジャケット。フリマで50円だったんだよ? あとこの……」
そう言ってこれもフリマで買った、使い込まれたレザーがいい味を出しているバッグをごそごそとする。
やがて取り出したのは――
「ほら、コルトガバメント! 凄いでしょ! 本物なんだよ!」
――黒光りする拳銃だった。
これ弾一箱とセットで200円だったんだー! なんてはしゃぐ伊那谷さんをよそに、どうりで硝煙の匂いがすると思ったよ、なんてことを考えていた。
「最後にとっておきのが……」
伊那谷さんがそう言って僕に見せたものは……ええ!?
「邪神! なんと値切りに値切って破格の10円!」
彼女の後ろから、まるでドナドナの子牛みたいに悲しそうな瞳をした邪神が、申し訳なさそうに歩いてきた。
邪悪な神様、10円。
「これで世界を思うがままです!」
胸を張って偉そうにする彼女と、付き従うようにして後ろに立つ邪神を見ながら、今度は絶対に俺もフリマに行こうと心に誓った。