プレイヤー
七日七晩続いた戦いの末、世界を恐怖と混沌に陥れていた魔王を倒したのがひと月前。
訪れた平和に歓喜するお祭のような騒がしい日々もようやく落ち着き、やっと生家でゆっくり出来ると思ったのが三日前。
そして、今まで過ごしてきた緊張感に満ちた日々の反動か、思い切り昼過ぎまで爆睡していた俺の元にひとりの女性が訪ねて来たのが今日。というか今だ。
「先日は有難う御座いました。貴方に救っていただいた“世界”です」
「すみません。間に合ってます」
「えっ!? ちょっと!?」
……という紆余曲折のやり取りを経て、結局家に上げることになってしまったその女性が言うには、彼女は世界の“意志”を具現化させたもなのだとかどうとか。その辺りについての説明もして貰ったが、途中から何だかもうよくわからなかった。
「……で、何? まさか恩返しとか……」
「いいえ」
キッパリ否定すると、彼女は涙を溜めた目で俺の手をとってこう言った。
「妹を助けて欲しいんです!」
「……え?」
妹? いや“世界”の妹ってことは……。
「……別世界?」
「はい! その妹とは貴方が居ないという以外は本当にそっくりで、姉達もなかなか見分けられないくらいなんです。でも、だからこそ魔王に立ち向かう勇者が妹には居なくて……」
人をホクロの有無のように言うなよと思ったが、これも勇者の血というやつなんだろうか。涙ぐむ彼女の姿に、旅立つことを了承してしまった。
思えばそれが過ちだった。
「有難う御座います。それで……あの……」
「……」
「その……」
「……次は?」
「あ! はい! 次は……」
……彼女の言葉にあった「姉達」という単語。それは聞き逃していいものではなかったのだ。
ほんの少しの「もしも」の違い――その可能性の数だけ“世界”という名の姉妹が存在する。
無限姉妹。
それでも、俺は諦めの溜め息をひとつ吐くと、新たな世界への扉をくぐった。
くぐればまたLv.1、旅立つ前の年齢。
さあ、もう幾つめかわからない世界を救うとしようか。