サンタルチア
「サンタアァルチイィアアァ!」
「うるさい!」
何をどうしてそうなったのか。
昨日から家にオペラ歌手が居座っている。
しかもムサいヒゲのおっさん。
バリトン。
めっちゃ良い声なのが余計に腹立つ。
「さあ! ご一緒に!」
「歌うか! というか出てけ!」
「何だ何だ、せっかく君も知っているだろうサンタルチアにしたというのに。ワガママだなあ」
「ワガママ!? いきなりやって来るなり居座って、昨晩から歌いまくりのお前に言われたかねえ! というか本当に誰なんだ!?」
「いえいえ、名乗るほどの者ではありません」
「そのセリフは今使うとこじゃねえ! そんなこと言うのはこのヒゲか!?」
「痛たた! ヒゲを引っ張るな! ヒゲも無いくせにこの口元ハゲ!」
「そんな単語初めてだ!」
とにもかくにも万事こんな感じで、何を言っても一向に出て行く気配がありゃしない。
本当、お前は一体何なんだ?
「仕方ないな。教えてやろう! 私はこう見えて実は……」
そこでおっさんは言葉を溜め、ヒゲをひと撫でするとおもむろに大きく息を吸った。
そして大音量のバリトンボイスで……
「オペラ歌手だ!」
出てけ。