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耳を塞ぐ話
どこか遠くから泣き声が聞こえてくるから耳を塞いだ。
しばらくして耳から手を離すと、もう泣き声は聞こえなくなっていたから、死んでしまったんだと思う。
見殺しにしたことに心は痛むけれど、自分の心を痛めるだけで済むなら、いくらでも犠牲に出来た。
本当は「良心」が痛むだけで「心」は傷まなかった。
だから、いくらでも耳を塞げた。
これで良かったのかなと思う反面、これで良かったんだとも思う。
今日もどこかで誰かが死んで、僕は耳を塞いでいる。
たとえば、ブラウン管の向こうとかで。
正直な話、遠くの死なんてどうでもよかった。
だから耳を塞ぐ。
でもね、本当に怖いのは、いつか耳を塞ぐ必要も無く、平然と聞き流せてしまうようになってしまうんじゃないかということなんだ。
僕は今日も耳を塞ぎ、塞いでいることに安心する。
相変わらず遠くでは誰かが死んでいる。




