孤立無援の花/花々
■孤立無援の花
戦車が花を踏み潰して行った。
ただそれだけだった。
◆◇◆◇◆
「どうして?殺さなきゃ殺されるじゃない?」
国境線。
地図上にあるそれよりも、自国へ大きく引き下がった位置にある前線。
彼女は心底不思議そうな顔をして言う。
もしも世界が平和で、世界史の本でしか読んだ事のない“オリンピック”というものが開かれていたなら、射撃競技で彼女の胸には金のメダルが輝いていたに違いない。
「そんなふうに世界が平和だったなら、私はごく普通の女子高生ってやつよ」
こちらを見ず、口元だけに笑みを浮かべて、彼女はそう言いながら引き金を引く。
また1人、誰かの頭に穴が開いた。
彼女が孤軍奮闘したって戦況が変わるわけじゃない。
周りから前線は少しずつ後退し、僕らの部隊は知らず知らず孤立していった。
「私は勝ちたいんじゃないの。ただ、生きたいだけなの。その為なら何人だって殺すわ」
口元にはいつものように笑みが浮かんでいた。
……だけどその日、
戦車が花を踏み潰して行った。
ただそれだけだった。
それを見ていた彼女は、放心したように潰された花へ歩み出し、そして蜂の巣になった。
彼女が何を思い、何故そんな行動をとったのか、今となっては知る由もない。
■孤立無援の花々
「戦場にだってやさしさはあるよ」
それがあの花のことだったのだと気づいたのは、あれから半年以上経ったある冬のことだった。
彼女は今もその花の傍らに居る。
もう物言わぬ死体として。
その狙撃の腕から「アルテミス」と呼ばれた彼女を喪ってからの日々は惨憺たるもので、ほぼ毎日指揮官が代わる悪夢のような2週間の戦闘後、僕はただひとり終わった戦場で目を覚ました。
味方は遥かに後退していて、戻るには敵陣を突っ切らなければならない。
周囲には多くの仲間達が転がっていて、その目や傷口を蟲が這い回っている。
羽音だけがやけに耳につくその場所で、自分もまた、もう終わったのだと悟った。
もう、自軍に戻る気は無かった。
今まで捨てて後退して来た戦場へ向けて歩き出す。
見覚えのある戦友達の死に顔も、歩き進むにつれ見覚えの無い白骨に変わっていく。
目指す場所はただひとつだけだった。
――その場所できっと、彼女は花に囲まれて白い骨になっているだろう。
ただ僕は、そこで眠ろうとだけ思った。




