「どちらですか?」シリーズ
■どちらですか?
「あなたが落としたのは、この金のですか? それともこちらの銀のですか?」
通りかかった池から女神らしき人が出て来たかと思ったら、そんなことを尋ねられた。
尋ねられたのだが……。
「いや、俺違うし。落としてった奴ならさっさと行っちゃったけど?」
「え!?」
ショックを隠せない表情の女神は、しばらくぶつぶつと何かを呟いていたが、最後に「まあ、それもありか」と呟くとおもむろに顔を上げた。
「えーと……あなたは正直者ですね」
え? いや、今の発言が正直だったと言えば正直だったかも知れないけど……。
嫌な予感が背中を走る。
「そんな正直者のあなたには、金のと銀の、両方を差し上げましょう」
そう言うと女神はにっこり微笑んだ。
綺麗だ……じゃなくて、嫌な予感が的中?
「いらん!」
「ダメです」
笑顔の裏側に有無を言わせぬ圧力を潜ませながら女神はそう言い切ると、さっさと池の中に消えてしまった。
……どうしたものか。
がっくりとうなだれた俺の前には、金銀に輝く産業廃棄物が積み上げられている。
……置いて逃げるか?
「ダメです」
ダメだった。
■どちらですか? リターンズ
家庭の事情で飼えなくなった亀を池に放したら、女神が出て来た。
「あなたが落としたのは、この金の亀ですか? それともこちらの銀の亀ですか?」
いや、落としたんじゃなくて放したんですけど……それにどっちでもないし。
「正直者ですね。そんなあなたには元の亀をお返しするのに加えて、この金と銀の亀も差し上げましょう」
え? いや、だから飼えなくなったから放したんだって……。
言う間も与えずに女神は消えて、後には三匹の亀だけが残った。
……どうするよ?
仕方なくいったん三匹とも連れて帰ろうと思ったら、どこからともなく声が聞こえてきた。
「おいてけぇ」
……ええ!? この池、「おいてけ堀」だったのか?
おいてけと言われても、さっきこの池の女神から貰ったんですが。強引に。
「おいてけぇ」
言い訳を聞いてくれそうにもなかったので素直に返した。
が……。
「あなたが落としたのは、この金銀金の三匹ですか? それともこちらの金銀銀の三匹ですか?」
……嘘をついたら酷い目に遭うんだっけ?
でも、正直に答えたらまた「おいてけぇ」ですよね?
……逃げるか?
「ダメです」
ダメだった。
■どちらですか? リベンジ
「……あなたが落としたのは、その黄金の右足ですか? それとも、その黄金の左足ですか?」
……いや、それどっちも金になっちゃってるから。
そりゃあね、いきなり出てきたことに驚いて思わずかかと落としをくらわせたのは俺が悪かったけれど。
本当にそれは悪かったと思っているけれど。
でも、いきなり出てくるのもどうかと思うよ?
「うるさい。散らすぞ」
……。
「……どっちの足ですか?」
……右です。
「あなたは正直者ですね。褒美にその右足を折ってやろうかしら?」
いやそれ褒美でも何でもねえよ。
「あれ? 私、頭蓋骨陥没してるみたい。これはお詫びに右足を折らせないと」
いやいや、陥没してたらそれどころじゃないから。ヤクザか?
「あらあら、女神に向かってヤクザだなんて。そんなこと言う人には右足折ってお仕置きしなきゃね」
だからどんだけ右足に執着するんだよ。
このままじゃヤバいと感じた俺は、逃げようと思ったのだが……。
「……財布返してくれよ」
「それは慰謝料として貰うことにしました」
というわけで、現在とっくみあいのケンカ中。
■どちらですか? フォーエバー
「あなたが落としたのは、この……」
池から出てきた女神はそこまで言うとこちらを見るなり固まった。
右手には金のケータイ、左手には銀のケータイを持ったまま。
「……もしもし?」
「えっ!? あ、はい! もしもし!」
声を掛けると我に返った女神は何を思ったのか、金のケータイを耳にあてて答えた。
「いや、違うから」
「あっ! すいません!」
何だかテンパっている女神は深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、改めて述べた。
「あなたがおぽ」
噛んだ。
恥ずかしさで顔を真っ赤にした女神は物凄い勢いで取り乱し、結局再び落ち着くまで30分近くかかった。
「……すみません」
「いえ」
「あの、じゃあ、改めまして……」
そう言うなり神妙な面もちになった女神は、静かに口を開いた。
「……あなたが落としたのは、この金のケータイを持った私ですか? それとも、こちらの銀のケータイを持った私ですか?」
……。
「どちらですか?」
ええと……それ、「おとす」の意味が違いますよね?
「……ひと目惚れって信じますか?」
それは恋に落ちた者の目だった。




