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茶柱
茶柱が立った。
生まれたての子馬のように足を震わせながらも、確かにその大地を踏みしめて茶柱は立ち上がったのだ。
もう、感動で涙が止まらない。
「よぐ……よぐ頑張っだな゛」
鼻水も止めど無く流れて仕方ない。
「……!?」
鼻をかみ、涙を拭って再び茶柱を見た瞬間の感動を、俺はどう言い表せばいいのだろう?
茶柱は、立つのみならず歩こうとまでしていたのだ。
未だふるふるした状態で、立っているのもやっとだろうに……。せっかく拭った涙がまた溢れ出した。
もう、しゃくり上げてしまって、まともな言葉も口に出来ない。
そんな俺の元へふらふらとした足で、けれど確実に一歩二歩と歩み寄って来る茶柱。
しかし……あと少し、本当にあと少しまで来たというところで、とうとう茶柱は転んでしまったのだ。
「茶柱ああぁぁあ!」
結局、もう茶柱が起き上がることは無かった。
けれど、俺は決して忘れないだろう。
あの日、確かに茶柱は立ち、そして歩いたということを。
その姿に教えられた大切な何かは、今も胸の真ん中で輝き続けている。
有難う、茶柱。