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ポケット
「ポケットの中には何かがひとつ♪」
何かって……何だ?
「ポケットを叩くと何かがふたつ♪」
いやだから何かって何だ?
「何かが増えれば世界が終わる♪」
……え?
「ポケットを叩くと何かが4つ♪」
ちょっと待て。
楽しそうに歌う彼女のポケットが、歌に合わせて叩かれる度に、何だか膨らんでいくような気がするんですけど?
……歌の通りだとしたら、ヤバいんじゃねえのか?
「なあ、そのポケット、何が入ってんだ?」
「何かが何かはその時わかる♪」
そんなふうに歌いながらまたポケットを叩き、ポケットはまた一回り大きく膨らむ。
そして俺の中では不安が膨らむ……ってごめん、上手いこと言ってる場合じゃなかった。
そうこうしている間にも、彼女のポケットは尋常じゃない大きさになっていく。
それでも彼女は笑顔を崩さず、歌いながらポケットを叩き、ポケットの中では何かが増え続けている。
もうすぐポケットは彼女の背丈を越しそうだ。
世界が終わるのも、きっと時間の問題なんだろう。
ただ、ポケットの中には何が入っているのか、それだけが心残りだ。