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ししおどし

 堅実な人生を歩みたい。


 幼い頃からそう思っていた俺は、自分でも恐ろしくなってしまうくらい堅実な人生を歩んできた。

 全てにおいて中の上。

 平均点より少し上。

 狙って出来る俺は、もしかしたら天才なのかと勘違いしかけたこともあったが、誘惑に負けることなく無事に中の上な人生を歩んできた。


 さて、堅実な人生を歩む為の計画書が俺の脳内にはあり、その一項目に「堅実な人生=適齢期に結婚(見合い可)」というものがある。

 これ即ち真理。

 個人的に。

 先日、不慮の事態から恋人と別れてしまうことと相成り、婚活をせねばと思っていた俺としては、近所の世話好きからもたらされた見合い話は渡りに船というものだったわけである。

 ……しかし、堅実な人生を歩みたくても、恋愛だけはままならぬものだな。

 という事で、見合いをする為に料亭の一室にいるわけなのだが……ここでひとつの問題が生じてしまった。

 相手が、時間になっても一向に来る気配が無いのだ。

 両家気まずさ全開。

「ど、どうしたんでしょうね?」

「そ、そうですね……」

 双方お人好しなのがせめてもの救いなのだが、そろそろ限界っぽかった。

 俺の正座が。

 ちなみに見合いの失敗は3度までなら可。

 これまた真理。

 俺的に。


「す、すいません、遅くなってしまって……」

 突然声がしたのはそんな時だ。

 全員がそちらを振り向き、そして呆然。

 ……まあ、当然だな。

 全員が固まったままの中、一人冷静だった俺がとりあえず話しかけることにする。

「……何故、遅刻を?」

「す、すみません。あの、乗ってたバスが……」

 そこまで言った彼女に、みなまで言うなと俺は手で制す。

 それだけで充分過ぎた。

「わかりました。大丈夫、待つのは嫌いではないので」

「あ、ありがとうございます」


「それより……ひとつ確かめたい事があります」

「え? なんでしょうか……?」

 そして俺は核心に触れる。

「君の身体がぼんやり透けて、後ろの壁が見えてるのだが?」

「えっ!? ……あ、ホントだ! わ、私、もしかして死んじゃいました!?」

 料亭の庭にあったししおどしが、絶妙のタイミングでカコーンと鳴った。


 ……結局、色々あったが最後には意気投合。

 面白いので友人達に心霊写真を送ってやろうということになった。

 ただし、そこに添えた一文、「私たち結婚します」は面白いからではなく本気だが。

 まあ、何というか。堅実からは遠く離れたかも知れないが、それもありだろ? って、な。

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