ツイオクペダル
ほんの少し行動範囲が広がったにしか過ぎなかったのに、自転車に乗れるようになった僕はペダルを踏めば何処までも行けると、そう思っていた。
もう既に多くの小説や漫画で繰り返し語られていて、それくらいたくさんの人が感じていることなのだけれど。
それでもペダルを踏んで、精一杯の世界を駆け回った。
それこそ毎日のように。
でもいつからだろう。
気がつけば自転車に乗らなくなっていた。
自転車では遠すぎる場所にばかり行くようになり、また駅が近かったこともあって自然と自転車に乗る機会が減っていったからなんだろう。
最後に乗ったのがいつだったのかも、もう思い出せない。
数年ぶりの駐輪場で目にしたものは、タイヤの空気も抜け、風雨に曝され続けた為に色褪せ朽ち果てた錆色の残骸だった。
こんな色じゃなかった。
こんな姿じゃなかった。
思い出されない思い出も、こんな風に朽ちていくのかも知れない。
そしていつかふと思い至った時や、思い出そうとした時に、もう喪われてしまっていることに気づいて愕然とするのかも知れない。
ペダルを回してみた。
「ガキリ」と音がしてチェーンが外れた。




