願った日々と未来
私ね、山とか川とか、自然の多い田舎で生まれたの。
見えないでしょ?
木に登ったり、走って、転んで、泣いて。
岩から川に飛び込んだりして。
小学校では授業中、友達に小さな手紙を回して先生に見つかって怒られたりして。
初恋もその頃で、小学生の頃って何故かスポーツも勉強も出来る子っていたでしょ? そんな子を好きになって、でも何も言えないままで……。
中学生になるとその子も含めて同級生の男子が子供っぽく見えて、先輩を好きになったりするの。
でも、憧れみたいなものなんだよね、それって。
でね、その頃親友だって思える子に出会うの。
凄く綺麗なのにどっか抜けてて、よく忘れ物して私が貸すの。でもとても聞き上手で、よく相談に乗ってもらったりして。
高校も2人同じところに行くの。
でも同じ人を好きになっちゃってちょっと険悪になって、色々あってまた仲直りして……。
そこで彼女は大きく息を吸い、そして続けた。
「そんなふうに……生きたかったな」
それは弱くかすれた声だったけれど、彼女の、精一杯の、悲痛な叫びだったのだと思う。
生まれてから12年、彼女は最期まで外を知らずに生きた。
過ごせなかった日々と過ごしたかった未来が、住人の居なくなった病室に響いている。