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夜に流れる
煙草に火を灯す。
フッと吐くと煙が夜に流れた。
終電間際、人気の無い駅のホーム。
喫煙コーナー脇のベンチ。
長めの煙草。
音は無くて、照明の外にある夜は世界が消失したかのように暗かった。
「夜に溺れそうだな」
そしてベンチの左隣。
君との会話。
「煙草が身体に悪いの、わかってる?」
「ん?初耳だけど?」
「馬鹿。でもその細くて長い指にはよく映えるね。何だかかっこいい」
「そう?」
「うん、ドキドキしちゃう」
そう言って君は僕の左肩に頭を乗っける。
「こんなこともいつか思い出になって、懐かしく思い出したりするのかな?」
左に首を傾け、その上に僕の頭を重ねる。
「どうかな?まあ、『そんな事言ってたね』って静かにふたりで笑ってそうではあるな」
「煙草吸いながら?」
「煙草吸いながら」
「身体に悪いよ?」
「でも、かっこいいなんて言われたら、やめない理由はあってもやめる理由が無いだろ?」
「そう?」
「そうだよ」
「ははっ」
煙と共に短い笑みが漏れた。
「そうだな。今、とても懐かしいよ」
ひとしずく流れた想いは、紫煙に乗って夜空へ溶けた。