理想と現実
「なあ、お前んとこの新入りってアジア系だよな? 何人?」
「日本人。しかもめちゃくちゃ普通の」
「うわ。使えねぇ」
「な。ゼロから教えなきゃなんねえんだぜ?」
「最悪だな」
「お前んとこの韓国人が正直羨ましいよ……」
「まあそう言うなよ。向こうじゃそれで良かったんだからさ。
それに、お前だって最初は素人同然だったろ?」
「まあ……な。
でも、まさかこっちに来てからこんなことするとは思いもしなかったよ」
「今さらそんな愚痴言ったって始まらないだろ? ほら、もう行くぞ」
天国では地獄からの侵攻に備え、男女問わずの徴兵制が設けられていた。
国民皆兵。
地獄に比べ圧倒的に戦闘・軍隊経験者の少ないこの“国”では、その制度を採り入れて数で対抗する以外には防衛する方法が無かったのだ。
話し合いなど相手が望むわけない。
良心に訴えかける?
そんなものを欠片も持たない者が地獄に行くのだ。
戦うか、大人しく様々な欲望の玩具になるか。
初めから選択肢はそれしかなかった。
誰かが「生きてた頃の方が良かった」と嘆いた。
そんなことを言ってもどうにもならない。
これが現実だ。