後味の悪い話
少年は物凄くスケートが上手でしたので、当然のようにスカウトがやって来ました。
それはそれはたくさんやって来ました。
「フィギュアスケート界の宝だ」とまで言う人もいました。
少年の演技に涙する者も多くいました。彼の演技を見て、引退を決意した世界的なトップ選手も一人や二人ではありませんでした。
ですが、少年にはスケートよりもしたいこと……夢がありました。
「僕にはもっとしたい別のことがあるんだ」と少年は言いましたが、スカウトも、両親さえも「あなたにはフィギュアスケートの才能があるのだから、フィギュアスケートをしなければいけない」と取り合ってはもらえませんでした。
それほど少年の才能は素晴らしかったのです。
そうして毎日毎日、両親やスカウトにフィギュアをしろ、フィギュアをすべきだと言われ続けた結果、少年は「フィギュアスケートなんてしたくないのに、僕にはやりたいことがあるのに、両親もみんなも許してくれない」という遺書を書いて死んでしまいました。
結局、誰も聞こうとすらしなかったため、少年の夢が何だったのかを誰も、両親さえも知りませんでした。
このことは伏せられ、少年の棺にはスケート靴が入れられたという話です。