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前から人
前から人が歩いて来たので早速殺してみた。
殺された人は死体になるやいなや涙を流しながらお礼を言った。
「前から人間を辞めたいと思っていたんです。ありがとう。ありがとう」
そうしてひとしきり涙を流したあと、私に向かってこう言った。
「こうして殺されたのも何かの御縁。ちょっとお茶でもしませんか?」
前から人見知りしがちな私は、それを丁重にお断りして家路を急ごうとしたけれど、死体は引き留めるようにこう言った。
「ねえ、せめて山中に遺棄するくらいは良いだろう? 殺したんならそれくらいしなきゃあ」
それもそうだと思ったので死体を担ごうとしたけれど、か弱い私の腕では持ち上げるので精一杯だった。
結局そのまま打ち捨てて帰ってきた。
明日は髪でも切りに行こうかな?