戦姫、斬斬斬斬斬斬斬。
その女は、馬上において美しく。
光を背にしたその女は、曇り無き白い肌と揺らぐこと無き強い瞳を持ち、肢体は白銀に輝く武骨な甲冑に覆われながらも女性的なしなやかさを感じさせた。
金糸の髪を靡かせながら颯爽と馬を駆り、手に持つ長剣であらゆるものを斬り払う。
その姿は余りにも凛々しく、威圧された者たちは潰走を始める。
しかし、彼女はそれを許さず、目の中に侮蔑と怒気をはらませながら彼らを斬り捨てる。
――それが例え敵であっても、背を向けることを許さない。
怖じ気づくことなく立ち向かおうとした者へは、虜にするかのような笑みを浮かべながら、生命を摘み取っていく。
彼女は馬上で踊るように斬り臥せ斬り捨て首をはね、返り血に身が染まる毎にその美しさは引き立てられていった。
戦姫――そう称されるに相応しい女性がそこにいた。
* * *
そんな戦姫の、一騎当千の活躍を前に、俺の頭の中は「天然」という言葉でいっぱいだった。
彼女は斬って斬って斬って斬りまくり……今もまた八百屋を営む瀬口さんの首を跳ね飛ばした。
そう、ここは急行は停まらないが準急行なら停まるという微妙な駅前西通り商店街。
その入り口を突然襲った光の中から現れた彼女は、自分を取り巻く異変にまったく気づくことなく、商店街の人々を斬りまくっている。
マジで気づく気配がまったく見られやしない。
英会話教室を営む冴島さんが彼女を止めようと英語で何か叫んで……斬殺された。
英語圏の人じゃないのか……。
年の瀬だったこともあって買い物客でごった返していた商店街は、血まみれ血の池地獄絵図と化していく。
恐らく中世ヨーロッパの戦場あたりからタイムスリップしたか、それっぽい異世界から転移してしまったのだろうが……それにしても普通気づくだろ?
ここまで気づかないと、やっぱり「天然」としか言いようがない。
彼女はいつ気づくだろうか?
そんなことを考える間にも戦姫、斬斬斬斬斬斬斬――。