百年
「え? だから、ひとり当たり一年ずつ生きれば、百人で百年でしょ?」
「……それだと、全員満一歳で死んでしまうことになるんですけど」
「え!? そんなのダメ! ナオ君、幼い命を守ってあげて!」
いや、僕にどうしろと言うのだろう?
テストの点はやたら良かったくせに、彼女はどういうわけかそういうところが少し抜けていて、その度に僕は困らされてしまう。
「今から百年後なんて、曾孫かその次の代くらいだと思うよ?」
「じゃあ、曾孫と一緒に……」
「いや、さすがに僕らは亡くなってると思うから」
「果たしてそうかな? わっかんないよ~! 21世紀を舐めんな!」
「百年後ならもう22世紀なんだけど……」
「ナオ君」
そう言って笑う顔が好きだった。
「今日はお箸の新しい持ち方を考えます」
そういうわけのわからなさが好きだった。
「世界から戦争を無くすには、全員に両手いっぱいの、戦争が馬鹿らしくなるくらいの花を持たせればいいのよ」
そう言いながら花に水をやる姿が好きだった。
「ありがとう」
そう言って眠った、君のことが大好きだった。
もう、途切れ途切れになってしまった古い思い出を、何故だか最近よく思い出す。
「……百年、生きてしまったなあ」
あの日ふたりで植えた桜の樹は、今年も満開の花を咲かせているよ。
ふたりで眺めたのはいつまでだったか。
家族で共に眺めたのはいつ頃だったか。
ひとりで眺めるのはいつまでだろうか。
「毎年庭でお花見しようね!」
たくさんのことを忘れてしまったけれど、そう言って笑ったあの日の笑顔は、今でもまだ覚えているよ。
きっと、最期まで覚えているよ。