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月の話
死ぬ事ばかり考えながら部屋を右往左往していると、机の引き出しから風船が出てきた。
黄色い風船だったので「月」と呼び愛でていたところ、どうやら想像妊娠したらしく膨らみ始めてしまった。
いつ破裂するかとびくびくしていたが、一向に割れる気配が無い。気づけば部屋を埋め尽くさんばかりの大きさになってしまった。
仕方なく部屋を這い出て、死ぬことばかり考えながら街をふらふらとしていると、ふいに賑やかな場所へ出てしまった。
嗚呼、今日は夏祭りか……。
遠い昔を思い出しそうになり、必死に死ぬことばかりを考える。
思い出してしまえば、本当に死にたくなってしまうことだろう。
聞こえてくる声に耳を塞ぎ、逃げるようにしてその場を後にした。
家路に向かう私を月が追いかけてくる。
月は私への罰なのだ。
私は死ぬことばかり考えている。
もう、死ぬことしか考えることが出来ない。
きっと、部屋には月が満ちていることだろう。
私は月に埋もれて死ぬのだ。