笑ってごらんよ
「90年代前半に活躍していた、とあるヴィジュアル系バンドの曲に『笑ってごらんよ』ってのがあるんだけど、どんな曲か知ってる?」
隣りに座るなり、彼女はそんなことを言い出した。
「……さあ?」
「ちょっとは考えなさいよ」
「……泣いてないで笑ってごらんよって感じ?」
つまりはそういうことなんだろうか。
だが、彼女の答えは違ったもののようだった。
「ふん、そのバンドがそんな一筋縄でいくバンドだと思わないでよね!」
「じゃあ何だよ」
「みんなが僕を笑っているのに……君も、みんながしてるみたいに僕のことを笑えばいいのに。馬鹿にして、嘲笑するように、僕のことを笑ってごらんよ……って、そういう曲なのよ」
「……何が言いたいんだよ」
「別に。ただアンタも今そういう気持ちなんでしょ? みっともなく俯いて惨めな姿晒してさ。だったら望み通り笑ってやるからこっちを向きなさいよ」
「なっ!」
ふざけんな。そう言おうと顔を上げ、隣りを見た俺は結局何も言えなかった。
「なに?」
「え? いや……」
そこにあったのは嘲笑なんかではなく、どこまでも優しい笑顔。
その笑顔に「かなわないな」と何となく思った。




