紅茶話
店内にはドビュッシーが流れていて、でもこれがサティだったら二度と来なかっただろうな、と思う。
別にサティが嫌いって訳じゃなくて、まぁ、気分的なものなんだけれど。
注文したシナモンティーが来るまでの約十分。
紅茶を楽しみながらの時間は勿論好きだけれど、待ってるこの時間も結構好きだったりする。
ドビュッシーに包まれて紅茶を待つひととき。
「お待たせ致しました」
細身で落ち着いた印象の店員さんが紅茶を置く。
あれ? 香りが違う……。
「あの……」
「はい?」
伝票を置いて立ち去ろうとしていた店員さんを呼び止める。足を止め、振り返った店員さんの顔には、笑顔の中にほんの少しだけ疑問が浮かんでいた。
「……シナモンですよね?」
この時「私が注文したのは」と付けなかったのがいけなかったのかも知れない。
店員さんは驚いたように目を見開くと、次の瞬間、さっきまでの落ち着いたものとは全く違う、満面の笑顔で「ええ、とても幸せですよ」と答え、そのまま「ごゆっくりどうぞ」と行ってしまった。
あとには唖然とした私が残される。
まさか、そんな聞き間違いを……?
でも、あんな笑顔をされたら怒るに怒れない。
狐につままれたような気分でカップを手に取り、口をつける。
「あ、美味しい」
美味しい紅茶、ドビュッシー。
そして笑顔。
そうだな、私もなんだか幸せだなと思った。




